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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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スパツェロ、エーザスと対峙す

「準備は良い? 敵はおよそ半日行程先だよ。今午後一時だから、敵が哨戒部隊を出していたとしても日没後に接敵。気付かれなければ深夜に襲撃ができる。夜明け前には撤収できるはずだよ。事前に訓練したから行程含めて問題ないはず。ホルツホックの情報では七百あった軽装歩兵部隊も今は四百ないくらいに減っているようだから、文字通り殲滅も可能だよ。後続の近衛兵団が集まってきた段階で撤退だと思って。指示がなくても各自そのタイミングで撤退して構わない」


のぞみは夜襲に参加するスパツェロとその軽装歩兵七百、朝美、アス老人、テラガルドを集め、作戦概要を説明する。


「万が一迎撃態勢が整っていたり、哨戒兵に気付かれた場合は作戦変更して取りやめとするから指示には注意しておいてね」


眼鏡を人差し指で擦り上げながら、一同を見渡し、森に侵入していく。





 夜の八時頃、哨戒兵と思われる五人組を確認。


絶体に連絡、取り逃がしをしないようにこっそりと囲んで一斉に殲滅する。


笛などの連絡さえされなければ、朝美が取り逃がすことはほぼない。


拙速を第一として、瞬時に殲滅を図る。


夜襲を成功させるためには、当然だが知られないことが大事である。


定時連絡や交代などもあるため、一度でも哨戒兵と出くわしたら、行軍を早める。


想像以上に早く、目的となる部隊を肌で感じ、のぞみの指示で部隊を散会、半円状に取り囲むようにして、少しずつ半径を狭めていく。


朝美が気配を消し、単独先行し、様子を伺う。


幸いなことに、キャンプを張っているのだが、鳴子含めた罠はなさそうであり、完全に襲撃を想定していない無防備な状態である。


多少緊張感を持って、立哨している兵はいるが、それよりも第一目的地に到着したという達成感、安堵感が大きいのであろう。


今日だけはゆっくりと休みたいという心身の欲求が完全に油断を生んでいた。


朝美はゆっくりと手を上げ、手招きする仕草をする。


のぞみは応えるように手を上げ、あえてスパツェロに指示を出させる。


「いくぞ!かかれぇ! 一兵たりとも取り逃がすな。カンナグァの森を侵したことを後悔させてやれ!」


そう言って、自らも剣を構え、敵陣に突っ込んでいく。


蜂の巣を突いたようにプルミエ国の兵が大混乱となった。


月明かりは十分であり、小さいながらもかがり火、焚き火もあり、視界は夜にもかかわらず良好である。


同士討ちの心配もなく、逃げ惑う兵を蹂躙していく。


半数の兵は武器を持っていなかったり、鎧も着けておらず、まさに奇襲の成功を意味していた。


プルミエ国軽装歩兵部隊長であり、総軍の副官でもあるエーザスは状況を理解してすぐに立て直しの指示を出す。


「十五斑、十六斑、十七斑、後続の部隊へ夜襲を知らせ、警戒態勢を取らせろ。まだ応援指示は出すな。各班ばらけるな。敵は各個撃破を狙っている。まとまっていれば、そうそうやられることはない。落ち着いて事前の訓練通りに対応しろ!」


敵の指揮官は思った以上に冷静で、的確に指示を出していく。


予め警戒していたのか、装備もしっかりしており、剣で対応しつつ、大声で指示を叫ぶ。


指揮官を守るためか、すぐにエーザスの回りに数人の兵士が集まる。


それを中心に少しずつ兵が集まって隊を成してくるが、もうかなりの兵が討ち取られており、壊滅的な打撃を被っていた。


しかし、後続の近衛兵団まで突撃させるわけにはいかない。


また、たとえ大多数が討ち取られようとも、全滅することも絶体に避けなければならない。


集まった数十人の兵を持って立て直しとし、形だけでも相手を撤退させないことには今後の指揮にも関わる。


のぞみはエーザス見て、敵の指揮官だと認識する。


聞こえていた指示や、その後の兵の動きを見ても有能であり、この場における最重要人物だと判断。


ここで討ち取らねば、危険な人物だと感じ取ると、大声で指示を出す。


「あの指揮官を取り逃がしちゃダメだよ。総員、あのものだけを狙ってください!」


のぞみの言葉に、スパツェロ隊が反応する。


およそ七百の兵が取り囲んでいたが、一斉に中心地にいるエーザスに向かって突撃する。


スパツェロが剣で切り込むも、エーザスが剣ではじき返す。


本人達は知るよしもないが、部隊の指揮官同士の打ち合いとなる。


エーザスが懸命にはじき返すと、スパツェロは身体ごと飛ばされ、尻餅をつく。


そこにエーザス配下の者がトドメを刺すべく数人近寄るが、すぐにスパツェロ隊の兵が間に入る。

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