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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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夜襲前に奇襲される

 砦の住民に対し全員避難指示を出し、後は敵を迎え撃つだけである。


一度初期配置について、初動の部隊移動なども行なう訓練を行ない、最終確認も済ます。


布陣前の最初の作戦は事前にのぞみの中で決まっていた。


夜襲である。


これによって、先頭の軽装歩兵を壊滅に追い込む。


作戦の成功には絶対の自信を持っていた。


大規模な縦の隊列での侵攻であるため、必然的に、戦場に到達するのに大幅な時間差が生じる。


よって、絶体に全体の調整を図ると思っていたのだ。


先頭部隊と最後尾はおよそ半日から一日の行程差があるだろう。


特に、他の国の連合体であれば、違う国同士、距離を取ることもあり得る。


無論、連絡不備をなくし、監視も含めて距離を詰めることもあるのだが。


先頭部隊にとっての第一目標地点は、戦場に出る一日から半日行程前である。


目標地点に到着した日が気の緩みが最大になり、疲労なども含めたピークでもある。


そこを叩く。





 極端な例だが、千の兵で五百を叩けば、数で有利であるため勝利する可能性は高い。


それを十回繰り返せば、千で五千もの兵と数で有利に戦うことになる。


もちろん、途中損害は出るのでこんな単純計算ではないが。


六千の兵だとしても、相手が七百のうちに叩けば、兵数の不利は関係ない。


本当は重装歩兵千で叩きのめしたいのだが、兵科や兵数が早々に相手に伝わることを避けたいため、スパツェロ率いる軽装歩兵七百と琴葉隊で作戦を決行する。


「おーい、スパツェロぉ! 今夜結構だぜ。一緒に暴れてやろうな!」


そう言って朝美は軽く手を上げるのだが、スパツェロは条件反射でビクッとなり姿勢を正したかと思うと、思い出したように腹筋が痛くなる。


「あ、はい。足を引っ張らないように頑張ります」


といって、精一杯の作り笑顔をするのが限界だった。


(やっぱ、厳しいけど基本的に優しいのぞみさんだなぁ。おっぱい大きいし・・・・・・)


そんなことを思うスパツェロだった。


朝美がブンブン腕を振り回し去って行く後ろ姿を見送るスパツェロだったが、災難が襲いかかる。


「あ、スパツェロさんだぁ。私は今日は参加しないけど、夜襲がんばってね!」


そういって琴葉が声をかける。


「あ、琴葉さん。がんばります」


通りすがりの挨拶だと思い、軽く返答だけいうが、何か用があったのか、琴葉が立ち止まってこちらをみる。


「あのさ、つかぬ事を聞くんだけど、わたしたちのファンクラブがあるってウワサで聞いたんだけど、知ってる?」


スパツェロは「なんだ、そんなことか」と安堵し、にこやかに答える。


「ええ、知ってますよ。実はボクものぞみさんのファンクラブに入ってるんですよ。へへっ」


そういって、スパツェロは片手で後頭部を搔きながらにこやかに回答する。


自然と笑みがこぼれ、それを聞いて琴葉もにっこりと微笑み返す。


「ふーん。「ボク」ね。スパツェロさん、自分のこと「ボク」って言うようになったんだぁ。もう!すっかりのぞみちゃんにメロメロなんだからぁ♪」


と言って、背中をバシバシ叩く。


ちょっと痛いくらい強かったが、それでもスパツェロは笑みを絶やさず、


「ファンクラブの兵の中で流行ってるんですよ。「ボクっ娘」ファンも多いんで。自分も最近は一人称は「ボク」です」


そういって、親指で自分を指し、胸を張る。


琴葉の視線を感じ、スパツェロは自分に生命の危機を察知する。


先日ティラドールと雑談をしていたときに、琴葉の危険性を聞いていたことが窮地を救う。


そして、同僚が琴葉のファンクラブのコアなウンチクを言っていたのを必死に記憶の糸をたぐる。


失敗は許されない。


それはすなわち死を意味するのだ。


「あ、でも、琴葉さんのファンクラブも入ってるんですよ、実は。ボクも「リーフ」です。本命は琴葉さんなんですけど、いつものぞみさんにご指導頂いているんで、掛け持ちという形を取らせて頂いておりますが」


といって、慎重に琴葉の顔色を窺う。


琴葉のファンクラブの会員達を個別に「リーフ」というのだが、スパツェロにとってはどうでも良い情報が役に立った。


「なんだ!そうなんだ。しょうがないよね、それは。あ、じゃあ、夜襲がんばってね! またね~♪」


と言って、上機嫌でスキップして去って行く琴葉だったが、左手に抜き身のナイフを持っているのを確認したとき、スパツェロは食堂で一時間近く琴葉のファンクラブについて語りやがった同僚に深く感謝したのだった。


全身に冷や汗をかいたが、無事に琴葉の後ろ姿が見えなくなったあと、背後にアス老人が立っていることに気付く。


「あ、アスさん」


そういって、今起きた出来事をグチろうと思ったところ、アス老人の方から尋ねられるのだった。


「お主、リーフじゃったのか?」


スパツェロは拍子抜けして笑顔で否定する。


「ははは。見ておられましたか。いやいや。我ながら危険察知能力と回避能力が高くなったと思うんですが、咄嗟に嘘で回避しましたよ。ボクはのぞみさん一筋ですからね。ぺったん娘趣味はないです」


そう言って、ないないと手を横に振る。


アス老人は急に真顔になり、スパツェロの後ろを指さす。


「お前さん、本人目の前にして、勇気あるのぅ」


スパツェロは全身身の毛もよだつ思いをして振り返る。


「・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・」


「いないじゃないですかぁ」


スパツェロは心底安心したようで、その場にへたり込む。


「ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁ。冗談じゃよ。お前さんも大変じゃなぁ。赤い髪の嬢ちゃんにいじめられたかと思ったら、次はおチビちゃんとは」


そう言って、アス老人はスパツェロの肩に手を置く。


「いやぁ。心臓に悪いから勘弁してくださいよ。ボク、基本的に小心者なんですよ」


そう言って、笑顔でアス老人の顔をみるとにこりとして、手をスパツェロに出している。


スパツェロは何が何だかわからず、手とアス老人を交互に見る。


「言わんとわからんかのぅ。口止め料じゃ。千ジェニーで手を打とう」


スパツェロはアス老人もまた琴葉隊であり、災厄となることを知る。


「ちなみに、眼鏡の嬢ちゃんの「使用済みハンカチ」があるんじゃが、今なら二千ジェニーで売っても良いぞぃ」


「買います・・・・・・」


スパツェロは夜襲前に夜襲を受けたのだった。

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