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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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森へと侵入

 「諸君。プルミエ国王ドルディッヒである。此度の我が国にとって威信をかけた戦いに諸君らと行動を共にできることを嬉しく思う。先代王もなしえなかったカンナグァ連邦フラハー国への侵攻をこの手でなすことができると思うと、今、歓喜で全身の震えが止まらない。過去数度しかないフラハー国打倒をなすために皆のチカラを貸して欲しい。そして、ともに歴史に名を刻もうではないか。夜の闇に身を投じ、数々の罠や迎撃を退け、敵を駆逐する勇気ある兵どもよ。その一歩を踏み出したものだけが、その手に勝利を掴むことができるのだ。恐れるな。俺を信じて着いてくるが良い。森の奥で震える弱者を駆逐するのだ。栄光は我が手にある!」


高らかに手を突き上げると、数千からなる兵達が同様に手を突き上げる。


事前の度重なる練習通りにやってくれたことにアインハイツ将軍始め、高官達は安堵する。


ここで、指揮を下げるような演説をされても困る。


内外に恥を晒すわけにもいかない。


およそ半日かけ、随時森への侵攻を開始する。


先頭部隊のエーザスが森に入り、続いてアールッシュ、ドルディッヒ王が入るのを見届けると、アインハイツ将軍はこれ幸いにと黒騎士の元へと駆け寄ろうとするも、もう一方の近衛兵団団長のエルドス近づく。


「アインハイツ将軍、部隊から離れ、いかがした?」


言葉そのものは他愛のないものであるが、何か警戒心や猜疑心のようなものを感じなくはない。


何より、次は自分の部隊が出発するのである。


その慌ただしい状況の中で自分の動きを察知するなど、意識的に行なわない限りは難しいのではないかと思ったのだ。


しかし、この機を逃すと次はいつ訪れるかもわからない。


「いえ、各国の指揮官に一声ずつかけていき、最終確認をと思いましてな。森に入ると連携が取れなくなることもありますので」


と言って、強引に黒騎士の場に向かった。


後ろに視線を感じたが、引き留める理由もなければ、自身の出発準備もあり追ってくることもできまい。


そうタカをくくって、黒騎士の元へと到達する。


「なかなか豪胆ですね、アインハイツ将軍。近衛兵団団長が視線をずっと追いかけてますよ」


真っ先に黒騎士がアインハイツ将軍に声をかける。


「いや、あのエルドスというものは良いのですが、やはりアールッシュですな。あいつに何度か軍議を邪魔され、王の側とは離れた隊列となってしまいました。色々と地味な妨害を受けており、今後も事をなすのに障壁となるやも知れません」


そういって、露骨に舌打ちをしたかと思うと、思い出したのか苦い表情をする。


「具体的な指示は全て私が出す。絶体に自分で動くな」


黒騎士はピシャリと言い放ち、アインハイツ将軍の出方を待つ。


「承知しております。しかし、今後の動きの概略だけでも教えていただかないと」


と言って、不安と不信が入り交じった表情をする。


「アインハイツ将軍。直接手を下すことにこだわりを持っているか?」


黒騎士は問う。


アインハイツは数秒思案し、答える。


「いえ、全く。私にとって大事なのは結果ですから」


その答えを聞いた黒騎士は、


「それを聞いて安心した。この侵攻時に事は成せよう。侵攻中に大きな動きがある。森の中で私からの使者が指示を出す。それまでは予定通りの進軍をし、使者からの指示は例え突拍子もないものでも必ず従え。今私が言えることはそれだけだ」


言い終わると、近くにキミュケール第一王子が来たため、アインハイツ将軍も黙る。


「そうそう、アインハイツ将軍。また「ひまわりの庭園」を案内してくれ。楽しみにしている」


大きい声で言うと、キミュケール第一王子と打ち合わせを開始するのであった。


エルドスに言った手前というのはあるが、アインハイツ将軍は順次最終確認をし、居残るほんの少数の兵と高官らに指示を出すと、警護にあたってくれるウィッセンの重装騎兵を率いるアドランデ将軍に後事を託し、自身の部隊に戻るのであった。


結経のところ、具体策が指示されないまま、もやっとした気分の元、軍を森に進めることになるのだった。


(森の中で指示ということは、平野での戦争前に指示があるということか。私でない誰かが代わって王を暗殺してくれるという事だと思うが、そういうことだ・・・・・・)


進軍中、ずっと考えるも、結局答えが出ないのであった。

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