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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第一部 第一次プルミエ侵攻
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尋問

「近日中にオージュス連合国としてカンナグァ連邦に侵略戦争を開始する予定なんです。そのための諜報活動を我々がやっていて、本日も作戦行動してたところです」


男はまだ何も聞いていないにもかかわらず喋り出す。


「やっぱりそうなんですね。ただの諜報活動にしては最近回数や規模が大きいので、具体的な侵略戦争の前触れだと思ってました」


少女はいつでも水を男に被せられるように頭に手をかざしながら、続ける。


「具体的な日時は俺も聞かされていません。ただ、規模としてはそれほど大きくないと思います」


「大きくないってどのくらい? ボクにもわかるように説明して」


男は頭にかざされた手に一度目をやると回答する。


「連合国としては、相手の規模もわからない国に侵略戦争を仕掛けるのはリスクが大きいので、まずは好戦的な我がプルミエ国単独での戦争となったんです。なので、兵は比較的少数となると思います」


少女はそれを聞いて、やや思案する。


「うーん。でも、歴史上制圧に成功した国がないボクたちのカンナグァ連邦に挑むにはちょっと無謀じゃないかなぁ?」


男は自分が嘘を言っているわけではないことをアピールするためか、必死に答える。


「我がプルミエ国の国王は本当に勝てると思っておられるのです。カンナグァ連邦が情報遮断しながら森に潜んでいる間に、連合国含めた外界は武器や戦術のめざましい発展を遂げている。情報以外での戦力差はないとお考えなのです。」


「なるほどね。でも、その情報が大事だとボクは思うけどね」


男は続ける。


「おそらくですが、一度小規模であっても侵略戦争を仕掛けることで、少なくともその戦闘で得られる情報があるという打算もあるかと思います。そうすれば、二回目の侵攻のときには勝てる、と。そうやって、少しずつ領土を切り取っていくことで最終的に勝てるというのが根底にあるかと思います。我が国が一部でも領土の切り取りに成功すれば、連合国の他の国も続くとお考えなんだと思います」


「確かに、そういう考えは成り立つな。あり得ないことじゃないとあたしは思う」


声のする方向が男にとっては死角だったのか、ビクッと肩を震わせる姿を横目に、赤い髪の少女が戻ってきて会話に加わる。


「で、侵攻ルートはどこからはいってくるつもりなんだい? プルミエ国が連合国の最東端だから、素直にうちの最西端ってことかい?」


男は赤い髪の少女と眼鏡の少女を交互に見ながら、答える。


「そう聞いてます。どこが弱い部分なのか、どこをまず目指せば良いのかすらわからないというのが現状です。なので、最奥を最終的に目指すために直進して真東へ向かうルートを初期ルートに想定しているかと思います」


二人の少女は顔を見合わせると、男が嘘をついていないことを確認し合う。


「平野部や水源などは今のところ、位置把握はしていますか?」


眼鏡の少女はこれが最後ですと言って男に尋ねる。


「いえ、今のところは把握できてません。ただ、小さい小川であれば、この付近にあることは先ほど確認したくらいです」


男はもう最後と言われたことで逆に不安に駆られたのか、何度も二人の少女を見る。





「よし。じゃあ、もういいよ。情報ありがとう」


そういって、立ち上がると、少女達は三人揃って話をしたかと思うと荷物をまとめだした。


そして、談笑しながら立ち去っていくのだった。





男は縄で縛られながら、大声で呼び止める。


「お、おい。縄を、縄をほどいてくれ」





薙刀をもった一番小さい少女が振り返り、テケテケと小走りで寄ってくる。


「ごめんね。わたしたち、迎撃準備をしなきゃいけなくなったから、もうオジサンと遊んであげられないんだ。殺さないであげるから、自力で帰って!」


そう微笑むと、再び二人の少女の元に戻っていくのだった。





「た、頼む。助けてくれ。このままじゃ魔獣に食い殺されちまう。た、助けてくれ・・・・・・」


涙目になりながら訴えるが、すぐに少女達の背中は見えなくなる。


先ほどまで二つの月が照らしていた開けた地であったが、ちょうど雲がかかり、月が隠れる。


森の中がそうであったように、あたりが闇で包まれた頃、森の中で光る魔獣の目を複数見て、男は絶命を確信したのだった。

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