各国の兵、集結する
オージュス連合国は各国がようやく準備を揃え、プルミエ国に戦力を集結させる。
予定よりやや遅れ、統一歴九九八年九月十日のことだった。
プルミエ国は追加徴兵、募兵は行なわず、現状自国で動員できる最大の人数を全て侵攻にあてる。
その数およそ三千。
多くは軽装歩兵からなり、重装歩兵、弓兵、工兵に輜重隊、一部騎馬兵が混じる。
騎馬兵は森で多くを失う可能性が高いが、覚悟の上での随伴であった。
プルミエ国の王ドルディッヒと近衛兵団団長エルドス、同じく近衛兵団団長アールッシュを従え、アインハイツ将軍が全体の指揮をとる。
副官としてエーザスという男が帯同する。
王は重装歩兵五百、エルドスも近衛兵団である重装歩兵を百、アールッシュも重装歩兵を百従える。
アインハイツ将軍は千の軽装歩兵を従え、多くは彼の派閥で構成される者達であった。
弓兵が三百、工兵が百、輜重隊が百、騎馬も百、エーザスが軽装歩兵七百をとりまとめる。
ヴィータは弓兵を二千派兵する。
四名の指揮官が各五百を統率し、うち一名が代表して総指揮をとるが、あくまでも援軍である。
作戦の指示はプルミエ国が基本的に行ない、原則それに従うものとなっていた。
実質的にアインハイツ将軍がその指示を行なうことになっている。
ヴィータにもまた思惑があり、バイゲン王は自国の兵の損失を危惧し、今回の派兵の大半は新兵や未熟なもの、あるいは目障りなものを中心に集められていた。
武器もまた、新品で最新のものではない。
バイゲン王は、その半数が失われることをもはや織り込み済みで覚悟を決めており、どうせ失うならば、と割り切った行動を決断したのだ。
さらには、戦場に到着するまではアインハイツ将軍の指示に従い、罠や行軍を学び、その後、戦場においては待機を基本とし、極力被害を抑えて参戦するフリだけして、敗戦濃厚を察知するや適当に退却してくるように指示を受けていたのである。
プルミエ国の結集した顔ぶれを見て、アインハイツ将軍は一目でそれを見破る。
明らかに兵の態度が悪く、練度が低いからだ。
これは、ウィッセン国の重装歩兵と対比すると明らかであった。
不純物が一割も混じれば、軍の質は半分となる。
実際に二千の兵全てがダメではないが、それなりに混じっているのが、一目でわかるというのは問題であろう。
(バイゲンのクソジジイめ。まともに援軍を寄こすつもりはないか。まさに形だけだな。足を引っ張らなければ良いが、元より戦争に勝つつもりもない)
戦場での王の暗殺を目論むアインハイツ将軍としては、これがどっちに転ぶのかはわからないが、さして興味がないように思えた。
アインハイツ将軍にとっては、戦争に勝つか負けるかはさして大事なことではない。
無論、勝てれば領土拡大や名声の取得など、得るものは大きい。
しかし、それよりは、王位が大事であり、自国を盤石にすることの方が大事ではある。
ウィッセン国はヴィータ国と真逆のことを行なってきていた。
お国柄が出ているものだとアインハイツ将軍は内心馬鹿にしていたのだが。
侵攻に派兵された重装歩兵は千。
五百ずつの二隊に分かれ、片方は槍、片方は剣と装備を違えていたが、森と平野の双方をイメージしてのことだろう。
比較的大型の盾を有していたため、ファランクスなどの密集戦法も想定していると思われた。
どれも精強な顔つきをしており、明らかに練度が高い。
指揮官もしっかりとしており、副官もまた同様であった。
プライドが高く、尊大な態度のインゼル王らしいとアインハイツは考えた。
インゼル王ならば、援軍とは自国の精強な兵を見せつける場でもあり、恥ずかしい部分は見せられないといったところだろう。
損得勘定で動き、打算でずるがしく立ち回るが、実のところ消極的、保守的なバイゲン王とは真逆なのかも知れない。
プルミエ国の防護役として派兵された重装騎兵五百についても同様のものであった。
こちらは驚くことに、アドランデ将軍というウィッセン国を代表する指揮官が統率しており、その威厳はインゼル王の名代としても決して恥ずかしくないものであった。
かの有名な将軍がわざわざプルミエ国の警護のために出てきたことが意外ではあったため、各国の指揮官、政務官、外交官や王族の者達はしきりに彼を見ており、衆目を集めるのだった。
ビーゼス国は、弓騎兵を千従え、第一王子キミュケールが従える。
いずれも精強な兵であり、大量派兵したヴィータ国の警備のために用意された者達である。
弓騎兵のあとに輜重隊が続いていたが、シーハーフから預かった物資を持ってきているようであり、それなりの物量であることが伺えた。
一度、ビーゼスが預かって保管していたものである。
輜重隊の指揮はなぜか黒騎士が取っており、黒騎士そのものは今回の侵攻には加わらないのか、戦闘兵は従えていないようだった。
アインハイツ将軍はすぐにでも駆け寄って、色々と打ち合わせ等を行ないたかったのであるが、いかんせん数千の兵、各国の目があり、身動きができずにいた。




