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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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魔獣討伐、完遂

「では、改めて、私とアスさんが」


そういって、テラガルドは大斧を担いで出るが、アス老人が口を挟む。


「取り逃がす可能性があるから、今回はやらない予定であったが、投石を試してみんか?」


そう言うと、テラガルドは同意する。


確かに、ある程度、石つぶてを投げると、適当なところで魔獣が逃げてしまう可能性がある。


撃退ではなく、討伐が目的なのだ。


追い払えば良いというものではない。


ただ、今回は実験をする滅多にないチャンスだ。


でなければ、のぞみの実験もできなかっただろう。


いくつかの大きさ、硬度が異なる石、というか岩が十数個並べられると、テラガルドは順に鹿の魔獣に投げつけていく。


岩が当る度に鹿の魔獣が


「グ・グ・グ・グ・グ」


と鳴くのがちょっと可哀想になってくるが、仕方ない。


なかなか分厚い毛皮などは傷がつかないが、重量のある岩による打撃としてのダメージはあるようだ。


三十キロくらいはありそうな大岩を持って、思いっきり鹿の魔獣に叩きつけると、さすがにかなりのダメージを負ったようだった。


角は木に刺さったままだが、ぶら下がるようにしてかろうじて立てるかどうかくらいのダメージが足に来ている。


無論、それなりの硬さの岩だったため、砕けたりもしていない。


もう一発、同じ大きさのものを振り上げて、打ち下ろすように首から後頭部にかけて大岩をぶつけると、宝石となったのであった。


「岩による投石や打撃はかろうじて戦力にはなるのではないでしょうか。魔族相手では無理かもしれませんけど」


テラガルドは、土の魔法が多少なりとも戦力になることをアピールする。


「ちょいと厳しいのぉ。予め用意するには重すぎて荷物になる。それは鎧でわかってることじゃ。じゃが、現地で作るにはちょいと時間がかかりすぎるでのぅ。敵は待ってくれん。それに、相手が動く以上はなかなかあたらんじゃろ、あれは。罠や奇襲なら使えるが・・・・・・」


アス老人の現実的な分析の方が的を射ている気がする。


「そうですね。人間相手なら、ボールサイズの石を大量に作って、順次投げるのが非常に有効なんですが、魔獣にはダメージが弱いので、厳しいですね」


テラガルドも残念がる。


実際に、テラガルドの分厚い皮の手袋は岩を投石するためにつけている保護グローブである。


「それが一番じゃろな。土の魔法は時間にゆとりがあって、状況が適合したときには有効なんじゃがのぅ。投石、落石、今みたく殴打武器にもなる。守りでは土壁を作ったり、土塁や塹壕、それこそ岩の鎧なんかも作れなくはない。穴掘りにも大活躍じゃ。土木工事を職にしたら食いっぱぐれることはない。じゃが、数日かかるから、戦闘向きじゃないのう」


アス老人の言うことはごもっともである。


「何とかして、戦闘スタイルに取り入れたいですね」


テラガルドが宝石をしまいながら微笑む。


「うむ。ちょいと、否定的な発言をしてしまったが、皆で諦めず、考えていくとしよう」


そう言って微笑むのだった。





 二体目の魔獣が出たのは、すぐだった。


一体目の鳴き声を聞きつけたのか、琴葉達が場所を移動することなく、倒した五分後くらいに現れたのだった。


やはり、同じような鳴き声をしている。


「グ・グ・グ・グ・グ」


目撃情報にあったように、先ほどの鹿の魔獣と比べると、角の形状がやや異なる。


「そんじゃ、まぁ、あたしがやりますかねぇ。ダメ元で」


そういって、両手を組んで、伸びをしたあと、伸脚して準備運動を済ませて、ツッコんでいく。


鹿の魔獣が突進してくる前に、両手を前に突き出し、叫ぶ。


「突風ブラスト」


かざした両手の前から突風が生じ、鹿の魔獣に吹きつけられる。


「最大威力でやるぜぇ!」


そう言うと、風力をできる限り上げていく。


推定風力で二十メートルは超えたであろう。


人間であれば立っていられないくらいの風力である。


魔獣との距離は十メートルくらいのため、そのくらいの距離の相手での今の朝美の限界がこれくらいだ。


これは風の魔法使いの中でも群を抜いており、大陸随一であることは間違いない。


一般的な風の魔法使いであれば、五メートルも出まい。


鹿の魔獣も、いくら魔獣であったとしても、その巨体ゆえに空気抵抗は大きく、影響がないわけはない。


明らかに動きは制限されているが、体重で百キロは確実に超えており、倒れるほどではない。


「悪ぃ、琴葉。両手が塞がっていて出せねぇから、ちょっと手伝ってくれ」


そう朝美は琴葉に言うと、琴葉は「しょうがないなぁ」と言って、朝美の腰にぶら下がっている袋から小石を取り出して、気流に乗せる。


「バラバラバラ、ガッガッガ」という砂利がぶつかり合う音とともに、小さい砂利が風に乗って、魔獣に当る。


ほどよい目潰しにはなったようだが、さすがに砂利が多少勢いよくぶつかった程度ではダメージはないようだ。


「次ぃ!」


朝美が言うと、琴葉は二つ目の袋を取り出し、再び気流に乗せる。


大小入り交じった金属の破片であり、一部のものはカミソリの刃みたいなのも混じっている。


「グ・グ・グ・グ・グ」


多少は効いたのかも知れないが、どれもかすり傷だった。


しかも、金属自体の重さで、魔獣に当る前に重力で落下し、到達しなかったものも多い。


「ふぃ――。もう限界」


朝美はへたり込むと、一度魔法を停止する。


魔獣を見ると、若干の傷は負っている。


分厚い毛皮に傷をつけることが難しいことを考えると、多少なりとも出血をともなう怪我を負わせたのは上出来なのだろう。


しかし、致命傷を与えられないのであれば、やはり失敗と言わざるを得ない。


「失敗だな。まぁ、予想通りだ。とりあえず、逃がすわけにも行かねぇし、琴葉、頼むわ」


と朝美は言うと、もう一度構える。


琴葉は「あいよ~」と言って、朝美の横に位置する。


「「ファイアーストーム」」


あっという間に火炎が鹿の魔獣を焼き尽くす。


宝石を回収し、再び全員が小休止となる。





 結果として、鳴き声で呼び寄せていたのだろう。


あるいは、勝手に鳴き声に寄ってきていたのかも知れないが、三体目が数分後に現れたのだった。


「まだ、誰か実験したいヤツいるのか?」


もう飽きたとばかりに朝美が問いかけると、


「ボクは防御系のものが実はあるんだけど、失敗したときに直撃くらっちゃうから、魔獣ではパスかな」


とのぞみが答えると、皆が黙る。


沈黙をもってして、実験したいものなしと判断し、朝美が立ち上がる。


「じゃあ、物理攻撃だけで戦って終わりにしますか・・・・・・」


琴葉は、


「いつでもとどめ刺す準備はオッケーだから声かけて」


と端っこで笑っている。


テラガルドも槍を数本朝美に渡すと、自身も大斧を担いで戦闘態勢を取る。


朝美は、槍を抱え、鹿の魔獣に突撃すると、その動きで翻弄する。


隙を見て投槍し、槍を身体に突き刺していく。


イノシシの魔獣と違って、やや深めに刺さっていくため、ダメージはそれなりにあるようだ。


五本目が刺さる頃には、立っているのがギリギリになっていた。


動きも緩慢で、戦闘力はかなり低くなった頃、のぞみが声を出す。


「ボクがトドメを刺しても良いかな?」


今までにあまりないことだったのでやや驚くが、拒否する理由もない。


「おう。一応気をつけろよ」


そう言って、朝美は距離を取る。


のぞみは警戒しつつバッグの水を鹿に被せるようにぶっかけると、水で窒息死させるように魔法を発動するのであった。


特に反撃されることもなく、無事に討伐、宝石を回収したのだった。





「相手にもよるけど、やっぱ水の魔法で窒息させるのは有効だよな」


と朝美は腕組みしながら言う。


「そうじゃな。相手は魔族、しかもオークじゃ。ブタじゃからのぅ。水をがぶ飲みされて対応されるのは例外中の例外じゃろう。やはり必殺と認識しておいて良い気がするぞい」


そういって、アス老人も言うが、例外があることをすでに言及している時点で説得力は薄い。


「収穫があったのかなかったのか、よくわかんねぇ戦闘経験だったなぁ」


朝美は呟きながら来た森を戻っていく。


「ダメなことが確認できたってのも立派な経験だよ。ボクは良かったと思う」


のぞみは珍しく前向きに捉え、足取りは軽やかだ。


わずか三時間の滞在で任務を終了してしまった。


三日森にこもるための野営準備も持ってきたのだが、目的を果たした今、わざわざ野営する必要はない。


まだ明るいため、普通にキャンプに戻るのだった。

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