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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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鹿の魔獣と遭遇フラグ

 午後二時を回った頃、琴葉隊は野営の準備を済ませ、魔獣討伐へと集合する。


各々が午前の訓練の様子などを話しながら、ピクニック気分で森へと侵入する。


昨日の魔族との戦いのような緊張感はもうなく、この切り替えの速さが良さでもある。


「でさ、うちらのファンクラブみたいなのが部隊にあるのは知ってたんだけどよ。あたしのファンクラブと掛け持ちしてのぞみのにも入ってたヤツがいたんだよ。まぁかけもちは良いんだが、最近のぞみのファンクラブ一本に絞ったっていう噂を聞いて、とっちめてやろうかと思ったワケさ」


朝美は上機嫌で琴葉に話しかけている。


「え~。わたしのファンクラブの子には手を出さないでよね!」


と他愛ない話を延々と話しているあたり、女子である。


まぁ、内容は物騒だが。


「しばらくはメシ食えないように、しこたまボディ殴ったったぜ」


そう言って、力こぶを作っている話を聞いて、のぞみは二時間前の出来事を思い出し、誰のことかがわかってしまった。


琴葉は、


「朝美ちゃん、そういうの良くないよ~。どのファンクラブに入るかは兵の人の自由意志を尊重しないと!」


と正論を言っているが、のぞみは複数人の兵士から、


「琴葉さんが自分のファンクラブに入らないと、今後夜一人で歩けないようになるって言ってくるんです・・・・・・」


という相談を一日に一回は受けている。


一番暗躍して、ファンクラブの人数を増やしているのは琴葉である。


全てを知るアス老人は笑っているが、テラガルドの足取りはいつにも増して重い。


「おう。オッサン、どうした? 昨日のダメージか?」


一人歩調が遅れ気味のテラガルドを案じて、朝美が振り返ると、珍しく息切れしている。


「いえ、ちょっと実験で土の魔法で鎧を作ったんですが、重くてさすがに厳しいですね」


そういって、外套をはだけて見せる。


言われて気付くが、岩のようなゴツゴツしたものが身体に付着しており、鎧のようになっているが、これでは岩石を担いで歩いているのと変わらない。


「うわぁ。むしろ、よくここまで歩けましたね。ボクたち、自分の分は荷物持ちますよ?」


そういって、のぞみはいくつかの荷物を持とうとするが、テラガルドは丁重に断る。


「いえ、大丈夫です。実験はこれまでにします」


そういって、アス老人をみやり、頷くのを確認すると、岩を地面に落としていくのだった。


「やっぱ、無理だったじゃろ?」


アス老人は、ほれ見たことかと言わんばかりだが、何事もやってみなければ気が済まない性格なのか、意外とテラガルドの頑固な一面が見える。


「そうですね。オークの一撃に耐えられそうな岩で鎧を作ればと思ったのですが、これは厳しいですね」


疲労とアイデアの不発の、両方の意味で大きなため息をつくと、自然と小休止となった。


「風の魔法はどう考えても直接攻撃は厳しいぜ。火以外だと、水と土しかねぇわけだけど」


朝美はそう言って、テラガルドとアス老人を見る。


「ボクの水も、少なくとも窒息させる戦法は厳しそうだよ。あんな破り方は想定外だった。相手によっては今まで通り通じると思うけどね」


のぞみも水の魔法が決定力に欠けることを意識する。


「うーん。まぁ、やり方とか、相性の問題はあると思うよ。それこそ、水に毒混ぜちゃえば、飲んだら飲んだで倒せるし」


琴葉は人差し指を下唇にあてて、考えつつ発言をする。


「嬢ちゃんの言うとおりじゃ。やり方を工夫すれば、なんとかなるじゃろ。まだ魔法を使った戦い方をしらんだけじゃ。固定概念にとらわれず、色々と試してみるのがよかろう」


アス老人はそう言って、のぞみの肩に手をやる。


琴葉は魔獣図鑑を見ながら、鹿型の魔獣のページを繰り返し読んでいる。


「なんか、図鑑によるとたいしたことなさそう。角による攻撃以外は雑魚っぽいよ?」


「ま、まぁ、鹿は草食獣だしね。いっても、魔獣であることは確かだから、危険だよ」


のぞみは眼鏡を人差し指で擦り上げて苦笑いをする。


みな、口には出さないが、若干今回の魔獣を舐めており、良い練習台だという認識でいたのは否定できない。


若干、沈黙が流れる。


「あ、そうだ。ねね、朝美ちゃん」


そういって、顔を輝かせて座っている朝美の後ろから琴葉は抱きつく。


「あ? なんだよ、琴葉」


朝美は嫌な予感しかせず、振り返りもせずに言うが、そんな朝美を気にすることなく、琴葉は失礼なことを言う。


「そろそろ、恒例のあれ、頼むよっ!ほら、いつものやつぅ~」


といって、抱きついたまま身体をゆさゆさと揺らして、何かをねだる。


「何だよ、いつものって?」


朝美はわからず、聞き返すが、揺らされている分、声を揺らいでいる。


「魔獣を呼び込む呪文だよぉう。いやだなぁ! 魔族すら呼び込む朝美ちゃんのア・レ♪」


琴葉はついにはおんぶして揺らしているが、朝美はピクッとこめかみに力が入ると、構わず後ろに倒れ込み、琴葉を背中で潰す。


「むぎゅ~っ」


琴葉は変な擬音語とともに地面に下ろされるが、他の三人はケタケタ笑っている。


「お前、ぶっ殺すぞ」


一瞬、あたりに静寂が包まれ、全員が耳を澄ます。


ガサガサっと音がして、五人一斉に奥の茂みを見る。


「嘘だろ? まだ何も言ってねぇぞ・・・・・・」


そういって、朝美は凝視する。


数秒後、茂みから小さい野ウサギが出てくるのだった。


琴葉は残念そうな顔をし、それ以外のメンバーはホッとしたような表情を浮かべる。


「なんだ、ウサギじゃねぇか。びっくりさせんなよ!」


そう朝美が言った瞬間、四人が朝美を見る。


琴葉は朝美に対して指を指している。


朝美はわけがわからず、キョトンとしていると、アス老人まで指さして、


「その台詞、立派にフラグじゃぞい」


と言って、ニンマリ笑う。


こうして無事に野ウサギの後に鹿の魔獣が現れるのであった。


「そんな、馬鹿な・・・・・・」


朝美はがっくりとうなだれており、琴葉は足をバタつかせて喜んでいる。


驚いたことに、野ウサギは、後ろから現れた鹿の魔獣に踏み潰され、弱ったところをかみ殺された。


いや、正確には食べられた。


「鹿って、草食だよね?」


のぞみは魔獣を指さして琴葉に向かって尋ねるが、琴葉はまだ笑い転げており、答えは返ってこない。

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