表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
73/205

指揮官であること

 朝美は、のぞみがいる場所に来ると、手を挙げて声をかける。


「おう、のぞみ。邪魔するぜ!」


のぞみは、部隊の指揮を訓練しており、百人の部隊を横に移動させたり、前進させたりと用兵についてをスパツェロに指導しているところだった。


「あ、朝美ちゃん!どうしたの?」


のぞみは笑顔で手を振り返す。


「ちょっと、部隊とスパツェロ借りても良いか?」


そういって、ニヤッと笑うと、スパツェロをチラ見する。


スパツェロとしては、この時点で嫌な予感しかしないのだが、もはやターゲットされた以上逃げ場はないと早々に諦める。


「うん。それはもちろん良いけど、どうしたの?」


のぞみは、目的が予想できず、聞き返す。


「ああ、そいつを鍛えてやろうと思ってな」


そういって、スパツェロを指さす。


指さされたスパツェロは


「いやいや、自分じゃあ、朝美さんには勝てないですよ!とても勝負にならないっす・・・・・・」


と両手を前に突き出して、拒絶を示す。


もちろん、逃げられるとは思っていないのだが。


「ボクが言うのも何だけど、五秒持たないと思うよ?」


結構な時間を費やして指導してきた上司が言う台詞ではないが、事実だろう。


「わかってるよ! だからこそ鍛えてやろうかと思ってよ」


のぞみは、まだわからないといった顔をしていたため、朝美が説明をする。


「確かに指揮能力は高くなってるみたいだけど、やっぱ個人戦闘力が低い。でも、指揮官である以上は殺されたら士気も下がるし、何よりも部隊が壊滅するだろ。つまり、そいつが死ぬと、百人以上の死者が出るわけだ。それはよろしくねぇ。でも、まともに戦うと、個人じゃ負ける。そこで、提案だ!」


朝美は人差し指を立てて、のぞみとスパツェロの前に出す。


「これから、あたしが、お前の部隊と一対百で戦う。隙を突いて、スパツェロを殺しに行くから、お前は用兵術であたしを止めろ。あたしに近づかれたら、とにかく防御に徹するか、逃げて立て直せ」


そういって、決定事項とばかりに平野の方に向かって歩いて行く。


スパツェロは指揮能力が上がったのは実感しており、これなら勝てると踏んだのか、意外とやる気である。


のぞみの方をみると、にこりと頷くのを確認し、部下を連れて平野に配置するのであった。





 のぞみの号令とともに、開始が告げられる。


スパツェロは朝美の前に横陣を展開し、防御壁を作る。


のぞみは心の中で、減点をつけていたが、通常の相手であれば、悪くはない作戦である。


朝美は全速力で横陣に向けて走り出すと、直角に向きを変え、横陣に平行して走る。


反射的に兵達は側面を突こうと襲いかかるが、追いつけず、前位置列が突出し、陣形が崩れるだけで全く追いつかない。


完全に崩れるのを阻止するため、完全な突出は停止させるのだが、ついには横陣の端まで走りきられることとなる。


当然だが、回り込まれるようにして、一番奥に控えるスパツェロが危険にさらされるため、スパツェロは慌てて朝美の方に向かって、陣を展開し直すが、間に合わない。


当たり前である。


数十人が向きを変えるのと、たった一人の走っている人間が回り込むのとどっちが早いのか。


結果として、スパツェロだけは朝美と対極側に逃げおおせたが、陣形はこの時点でぐちゃぐちゃとなる。


朝美は崩れた陣形をみて微笑むと、急ブレーキをかけて、逆回転で回り込むように再び走り出す。


再びスパツェロは朝美方向に陣を向けるように指示を出し、自分は逃げるように朝美の対極へと逃げ始めるが、この時点でもう陣は対応しきれず、密になって動きが止まってしまった。


結果、朝美用の壁が作れず、そのまま回り込まれてスパツェロは第一撃目を朝美にくらうことになる。


「まずは、一発!」


そういって、ボディに蹴りを入れて、離脱する。


兵達が駆けつけ、慌てて防御壁を作るが、本来ならばこれで討ち取られているところである。


朝美は腰に手をあてて高笑いしているが、部隊としては冗談ではない。


たった一人の兵に百人の部隊が錯乱され、指揮官が瞬殺されたのだ。


スパツェロは起き上がり、


「お見事です。ちなみに、いまのは何がいけなくて、どうすれば良かったのでしょうか?」


そういって、のぞみを見る。


のぞみは、自分なりの解答を言おうとしゃべりかけるが、それよりも先に朝美が怒鳴る。


「それは、自分でやりながら考えろ。ほら、二戦目行くぞ!」


と言って、朝美はまた走り出す。


(うーん。陣形はあまり動かさないようにしないとダメだよぅ。動かさなくても良い陣形を最初に選ぶから、円陣がベストだよ。あとは、いかにして足を止めさせるかを考えなきゃ。どうしてもの時は、指揮官は対極に逃げるんじゃなくて、兵の塊の中に飛び込んで行かないと。人の壁が一番安全なんだから)


スパツェロは考えがまとまらないまま、何度かこの形式の対戦を繰り返し、数発の打撃を被ることになるのだった。


「ぐほぉ・・・・・・なんで、ボディばっかり」


スパツェロが昼ご飯を今日は食べられなくなるだろうという頃になって、ようやく本格的に危機感を感じてきたのだった。


途中何度ものぞみを見るが、哀れむような目で見るばかりで、ヒントはくれない。


たまに喋ったかと思うと、「がんばって。ボク、応援してるよ」だ。


応援よりも、答えくれとスパツェロは思うのだったが、諦めて、部下と対策を必死に考える。


走り続ける朝美の休憩のため、何回か中断するのだが、その間もスパツェロは部下達と作戦会議をし、七戦目あたりで、ようやくわかってきたのだった。


スパツェロがたどり着いたのが、「亀になる」戦法であり、円陣であった。


朝美は拍手し、正解だと指さして、終了かと思いきや、第二問に突入する。


「よし!じゃあ、次の課題は捕まえることだな」


そう言って、朝美は魔獣の宝石を取り出し、


「あたしがスパツェロのボディに一発入れる間にこれを奪え。制限時間は十五分だ」


そういって、陣の前に立つ。


当然、円陣のままでは守るだけで、奪いに行くことができない。


しょうこりもなくスパツェロはのぞみを見るが、にっこり微笑むだけだ。


のぞみはもはや楽しんでみている。


(なるほどねぇ。ダメな指揮官ってこうやって動いちゃうんだね)


とむしろ、自身の勉強に役立てている。


(ボクなら、鶴翼の陣を応用するなぁ。自分を囮にして)


結局、タイムオーバー含む四千全敗し、午前の訓練が終了したのだった。


スパツェロは敗北感に打ちひしがれながら、朝美に聞く。


「結局、一番の自分の問題点ってなんだったんですか? 指揮能力の問題ですか?」


朝美は息を切らせ、タオルで汗を拭きつつ答える。


「用兵は確かにまだまだだけど、上手いと思うよ。のぞみが目をかけてるだけあってな。兵達もよく動けてる。でも、まだ自分ってものがわかってねぇ。指揮官はやられちゃあいけない。だから、部隊の兵を肉壁にしてでも、生き延びなくちゃあなんねぇ。逆に、相手に取っちゃあ、お前がターゲットでもあるんだ。お前自身が価値ある人間なわけだから、囮としても価値があるってわけだ。それを利用しない手はねぇ。なんだかんだ言って、まだお前は一兵卒から上がったばかりで、指揮官の自覚ってものがわかってねぇな、と思っただけさ」


そういって、最後にボディブローを入れる。


「あたしゃ、のぞみほど優しくねえからさ、勉強代な?」


そういって、高らかに笑って去って行ったのだった。


スパツェロ隊はその様子を見て、「一兵卒でいいや。指揮官にはなるまい」と思うのであった。


そして、意外な鬼教官がまだおり、


「よしっ!じゃあ、今の反省も踏まえて、もう少しだけ訓練してみよう!ボクが指揮を執るから、スパツェロは朝美ちゃん役をお願いね!」


答えの一つを知ることはできたが、昼飯は食べられなかったスパツェロだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ