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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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撃破

 アス老人はオークに向かって話しかける。


「ところで、お主に聞きたいんじゃが。人間と仲良くしたりすることはあるのかのぉ。わしらと仲良うせんか?」


何を言い出すのかと思ったが、フラハー王が言っていたことの確認なのだとしばらくして気付く。


オージュス連合国の侵攻時のタイミングで二度の魔族襲来があったためだ。


オークは大声で笑ったかと思うと、


「女と仲良くなることはあるが、それ以外で魔族が人間と仲良くなることは聞かんなぁ。まぁ、利害が一致すればないわけではないがな」


まさか、正直に答えてくれるとは思わなかったが、含みを持たせた回答となっており、判断が難しかった。


「だが、そこのオッパイメガネとなら仲良くしてやらんでもないぞ。グハハハハ」


と笑って、のぞみに向かって歩いてくる。


「ボクはお断りだよっ」


のぞみは、持っていたバッグを投げつける。


完全に慢心だろう。


思えば、先ほどのテラガルドの岩についても、避けようともしなかった。


半ば強靱な肉体を持っているがゆえに、避ける必要に迫られなかったのであろう。


注意すべきは火の魔法使いである琴葉だけであり、それ以外に自身に傷を与えるものはいないという思い込みが油断となる。


顔面に直撃したバッグには多量の水が入っており、途端にオークはビショ濡れになる。


水に濡れてもまだオークはその慢心を改めない。


のぞみは石斧が来ないだろうという推測の元、オークに近づき、直接触れられる位置まで来ると、「水球アクアボール」と言って、魔法を発動する。


琴葉隊一行は勝利を確信し、悪あがきの一撃にのみ気をつける。


ゆっくりとではあるが、みるみるうちにオークの頭部に水が集まっていき、頭部を水の球体が覆う。


「やった!」


朝美がガッツポーズを取り、最後に石斧を振り回し、のぞみが反撃を受けないかだけ心配する。


もとよりのぞみもその一点だけを注意し、回避できるように準備を怠らない。


水球を形成後はバックステップで距離を取る。


一部の水生動物を除き、呼吸しなくても住む動物はほとんどいない。


あらかじめ、準備して呼吸を止めていれば数分は耐えられようが、そうでなければ、あっという間に呼吸困難で苦しむことになる。


いくら魔族とはいえ、オークもまた同様であり、呼吸できないことは死に直結する。


数秒間悶え、石斧を手放し、両手を口元に持って行くが、水球は形を変えない。


皆がその様子を囲むように見ていたのだが、今までと明らかに異なる展開を見せる。


「グゴゴゴゴゴゴゴ。ズズズズゥ」


最初は何の音かと思ったが、少しずつ水球が萎んでいくのを見て、理解する。


「テラガルド!」


そういって、朝美は先ほど放り出した大斧の方を見て、テラガルドも走る。


全員がさらに一歩距離を取り、警戒態勢を取る。


「まさか、水を飲み干すとは・・・・・・こんな破り方があるとは驚きじゃなぁ」


アス老人は驚いて呟く。


まさにオークが飲みほさんとしてところに、大斧を握りしめたテラガルドが助走をつけ、全力の横薙ぎをオークの腹に見舞う。


飲み干しかけていたオークが一瞬「グホッ」と吐き戻すが、一瞬の後に、また飲み込み続け、最終的に全てを飲み干した。


大斧はしっかりと腹に食い込み、きちんとダメージは与えていたが、深さは数センチくらいだろうか。


内臓が出ない程度の深さのため、致命傷にはならないが、かといって、かすり傷とも呼べない、そんな微妙な傷であった。


水を飲んでいる最中という極めて無防備な状態にもかかわらず、この傷の深さというのは厳しい現実であった。


オークは膝を着き、息を荒げて全身で呼吸をするが、戦闘力はまだある。


「火だけでなく、水の魔法使いもいるとはなぁ。許さんぞ、貴様ら。死ぬまで犯し続けてやる!」


そういって、のぞみだけを睨み続けており、のぞみは必殺の魔法が破られたショックもあり、腰砕けになって後ずさりする。


朝美は、そんなのぞみを見て、戦力外と悟り、琴葉を見る。


しっかりと立ち直り、オークを見据えており、朝美は勝利を確信する。


「琴葉。複合技で決着をつける。いけるな?」


そう声をかけると、


「もちろん。いつでもオッケーだよ」


そう琴葉も答え、朝美の横に立つ。


そのやり取りを聞いていたアス老人とテラガルドは囲みを解除して、のぞみのいる位置に移動する。


正確には移動ではなく、退避だ。


オークは、もっとも警戒すべき琴葉の立ち直りを見て、再び石斧を持つ。


水の魔法による奇襲を受けたにもかかわらず、未だ慢心が取れていない。


いや、オークという種の知能の限界なのかもしれないが、まだ「触れられなければ大丈夫」という思い込みがあるのだろう。


一般的な常識ではそれが正しいし、それ以上の想定を働かせろという方が無理なのであるが、琴葉隊はこう見えてエムエールの特派である。


オークは知るよしもないが、トップオブトップであることを忘れてはならない。


接触されず、石斧が届く距離を安全圏と捉え、オークは距離を調整する。


しかし、決してその距離は安全圏ではないことを数秒後に知ることになる。


「いくぞ、琴葉」


「うん」


「「ファイアーストーム!!」」


一瞬早く琴葉が作り出した炎を、朝美が起こした突風が巻き込み、オークに向かって、火炎放射器のように炎が吐き出される。


先ほどのオーク同様、燃え尽きるまでやや時間がかかったが、突風の方向を調整し、炎を当て続け、ついには燃やし尽くす。


宝石に変わったことを確認してから魔法を解除する。


全員がすさまじい疲労に襲われ、へたり込むと、誰ともなく、笑い出す。


「ふふっ。やったな」


「うん。へへへ」


「ははははは。強敵でした」


しばらくして、太陽がもう沈んだことに気付き、夜風が涼んできた頃、激しい戦闘音を聞きつけた両隣の部隊が駆けつけてきて事態を把握するのだった。





 魔族は討伐できたものの、その脅威を知ることになり、琴葉隊は認識を改めるのだった。


魔獣の問題は解決していなかったが、夜も遅いため、一度退却とし、全員がキャンプに戻る頃、散り散りになった兵達全員の帰還が確認され、その日は就寝となったのだ。


魔獣の問題は翌日に持ち越され、会議をすることとなったが、琴葉隊全員が疲労困憊のため、魔族討伐についての報告も翌日に持ち越されたのだった。

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