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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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力の差

「さて、残りの一体はあたしが相手しようかね」


そう言って、朝美は一本の槍を持って立ち上がる。


のぞみとテラガルドに目配せをすると、オークに近づいていく。


「ウォォォォ――」


台地が震えんばかりの雄叫びを上げると、石斧を持ったオークも突進してくる。


朝美は距離を取りながら、オークを攪乱していく。


(巨体の割りに早いが、捉えられない動きじゃねぇ。テラガルドのおっさんとたいして変わらねぇ。いける)


そう思いつつ、一撃の大きさは桁違いだと予想し、慎重に動く。


ちょうど、オークがテラガルドに背を向ける格好になった瞬間、テラガルドはオークに直径二十センチくらいの岩を放り投げる。


真後ろからの投石攻撃だったにもかかわらず、一瞬振り返り反応し、岩だと視認すると、避けようともせず身体で受け止める。


オークの胸板に「ゴッ」という大きな音ともに直撃するも、ドスンと重量を感じさせるように地面に落ちる。


完全にノーダメージだ。


しかし、本命はこちらと言わんばかりに、近距離から朝美の投槍が炸裂する。


「うりゃあぁ!」


風の魔法こそ使ってはいないが、全力での投槍である。


この距離であれば、魔法の使用の有無はほぼ関係ない。


しかし、側背部にほぼ垂直に当ったにもかかわらず、刺さることもなく、カランと音を立てて槍が落ちる。


当った部位からは、緑色の液体が数滴したたり落ちており、わずかばかりの出血があったことを想像させた。


緑の液体が血だと仮定したらの話だが。


それを見て、朝美はテラガルドに問う。


「おっさん。一応、もう少し試すか?」


物理攻撃がほとんど効かない頑丈な肉体であることは証明されたが、まだ続けるか確認する。


「可能であれば、お願い致します」


そういってテラガルドは大斧と鉄の大盾を装備する。


朝美は大きく息を吐くと、


「了解」


とだけ呟き、再び攪乱すべく鬼ごっこをする。


「無駄だ。あの火の魔法使い以外、オレの身体に傷を与えることは出来ん」


そう流暢にオークは喋ると、石斧を振り回す。


横目でその火の魔法使いを見ると、まだショボボンとしており、のぞみが話を聞いてあげている。


「ぐふふふふ。その勝ち気な態度が哀願に変わるまで犯してやりたいなぁ。良い身体だ・・・・・・」


といって、先のオーク同様にヨダレをたらして朝美に近づく。


流暢な言葉からもわかるように、知能はこちらのオークの方が上である。


よく考えると、この石斧も手作りなのかも知れない。


それだけの知恵があるということだろう。


朝美の引き締まった身体を上から下まで舐め回すように見ると、石斧を振り回し、距離を詰めてくる。


テラガルドの大斧の一撃か、のぞみの水の魔法を期待したいところだが、


「そりゃあ、のぞみちゃんは「おっぱいめがね」だし、朝美ちゃんはモデル体型で、スリムだけどさぁ。わたしだって・・・・・・」


と琴葉の愚痴を聞いているのぞみはしばらくあてにできない。


朝美には致命傷をあてられる攻撃がないため、何とか隙を作って、テラガルドの一撃をあてられるように誘導したいところだ。


なかなかそれができず、しばらく鬼ごっこが続く。


オークは疲れ知らずで、一向にスピードは衰えない。


「朝美さん、一度引いてください。交代です」


テラガルドの声で、オークと距離を置き、一度のぞみ達の元へと戻る。


「交代」と「後退」を勘違いした朝美は、一時撤退を意識したのだが、そうではなかったようだ。


テラガルドが


「私が正面からぶつかってみます」


と言って、前に出たときに「交代」だとわかったのだった。


鉄の大盾を左手に持ち、右手に大斧を持つ。


「男に興味はない。女を出せ。消えろぉ!」


そう言って、オークは石斧を横薙ぎでテラガルドに叩きつける。


左に構えた鉄の盾で受けるも、あまりの衝撃で、右手の斧を手放し、全身でその衝撃を受け止める。


「グッ。何という膂力」


テラガルドはかろうじて踏ん張るが、二撃目が襲う。


「これではどうかなぁ?」


オークはただで殺すつもりはないのだろう。


わざと構えた盾に向かって石斧をぶちかます。


先ほどの威力を知っているテラガルドは最初から全力で鉄の盾に体重を預け、むしろ弾き返さんと踏ん張るが、無残にも弾き飛ばされることとなる。


百九十センチ、体重百キログラムを超える巨躯にもかかわらず、軽やかに宙を舞い、数メートル先に飛ばされる。


「おっさん!」


朝美が声を上げるが、


「大丈夫です」


と言って、テラガルドはすぐに立ち上がる。


たしかに無傷ではあるが、受けた盾は完全に陥没し、使い物にならないだろう。


まさかここまで力の差があるとは思ってみなかった。


熊と人間の筋力が異なるように、魔族の筋力というものがいかほどのものなのかがよくわかった。


「もう十分だ、下がれ」


朝美が叫ぶと、素直にテラガルドも下がる。


一度仕切り直しを図る。

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