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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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一体目を討伐




「琴葉、一度下がれ!」


我に返った朝美が、興味津々に近づこうとしていた琴葉を呼び戻す。


のぞみはまだ恐怖で口をパクパクしており、冷静に指示を出せない状態だと悟ると、アス老人が代わりに口を開く。


「応援を呼ぶか、わしらだけでやるか・・・・・・あるいは撤退するか、どうしたもんかのぅ」


そう呟くと、のぞみが指揮官としてようやく自覚を取り戻す。


「あまりにも危険です。人を呼べば、それだけ被害も大きくなる。ボクらで対応しましょう!」


かろうじて指示を絞り出すが、なんら具体的な策は出てこない。


そうこうしているうちに、オーク達がしゃべり出す。


「グヘヘヘヘ、オンナ、オンナ・・・・・・」


「ああ、人間のメスの臭いだ」


そう言って、こちらを見る。


「おおぉ~。喋ったよ。人間の言葉を喋ったよ、朝美ちゃん。ね、ね、聞いた?」


琴葉だけは大喜びだ。


「うっせえな。わかってるよ!ちょっと、黙れ」


そう言って、首根っこを捕まえると、横に引っ張ってくる。


大きな石斧を担いでいるオークの方が知能が高いのか、言葉が流暢だ。


しばし、沈黙が生じたが、槍を持ったオークの方が、一歩近づく。


「ヘヘ、オンナダァ」


イノシシと豚の中間みたいな顔をだらしなく緩ませ、下品にもよだれを垂れ流す。


二メートル近い巨体と発達した筋肉が恐怖以外の何物でもない。


捕まったら終わりだというのは想像に難くない。





「わたしに策がある。任せて! 致命的な隙を作るから、のぞみちゃんは水を用意しておいて」


そう言って、琴葉が武器を全てテラガルドに渡すと、無防備にオークに近づいていく。


「あっ、ちょっと、琴葉・・・・・・」


朝美が止めようとするが、琴葉はもうオークに向かって歩き出す。


のぞみは真顔でバッグを前に抱え、たっぷりと入った水がいつでも取り出せるようにする。


無論、バッグの中身は気取られない配慮は忘れない。


「朝美ちゃん、ここは琴葉ちゃんを信用しよう。朝美ちゃんは後ろのオークに注意しておいて。いい?解禁だよ?」


そういって、琴葉を見守る。


朝美はのぞみの方を向かずに頷き、琴葉の後ろ姿を見守る。


風の魔法を全身に纏い、動きを解放する準備、相手に向けて突風を放つ準備をし、見守る。


後ろのアス老人とテラガルドも臨戦態勢に入ったのだろう。


覚悟と緊張が伝わる。





「うっふーん。オークさぁん♪ こっちよぉ。いらっしゃ~い♪」


なにやら、クネクネした動きをし始め、わけのわからないポーズを琴葉は取り始める。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


オークですら固まっている。


朝美は色んな意味で恥ずかしくて見ていられず、目を伏せる。


そんな場の空気が読めていない琴葉は続ける。


「ほらぁ。美少女がここにいるわぁ。どぉ?」


といって、本人だけがセクシーだと思っているであろうポーズを繰り返しながら近づいている。


(なんか、エムエールでみた漫画のキャラクターで「ペイペイおやじ」ってのを思い出したぜ。なんか、あの踊りに似ているな)


朝美は伏し目がちに琴葉を見て思うのだった。


のぞみは、真剣な顔をして、朝美に小声で話しかける。


(あれって、小説で読んだ、「ふしぎなおどり」かな。敵の魔法を封じたり、動きをとめるっていう・・・・・・)


天然にも程があるが、のぞみは大真面目に言うのだった。


(どうしよう。あの馬鹿と同じ仲間だと思われたくねぇ。オークにすら誤解されたくねぇよ)


と朝美は恥ずかしくてうつむいた顔を上げられず、とりあえず、のぞみに答える。


(ち、違うと思うぜ。まぁ、相手は固まってるけど)


やや前に踏み出していた槍を持ったオークは色んな意味で思考停止になっている。


「どうしたのぉ? 遠慮しないで、襲ってきて良いのよぉん。あっはん♪」


といって、ない胸を寄せて前屈みになっている琴葉を誰も見ようとしない。





「オレ、メガネノオッパイガイイ。オマエムネナイ」


槍を持ったオークがそう言って、のぞみを指さす。


直後、瞬間湯沸かし器のように怒りが沸点に達した琴葉が、一直線に槍を持ったオークに突撃する。


身長差を考えると、ギリギリ届くかどうかという微妙な距離だが、胸ぐらを掴むと、


「ブタが何ワガママぬかしとんじゃぁ! こっちは身体張ってサービスしたんだからね!」


と言ったかと思うと、


「きゃーんぷっふぁいあー」


と言ってオークを発火させる。


本来は一瞬で消し炭になるくらい強力な火力なのだが、数秒はもがくところが、魔族の強靱さなのだろう。


それでも、反撃を許すことなく、燃え、すぐに宝石へと変化していった。


奥に控えていたオークはあまりに意外だったのだろう、すぐに警戒して石斧を構える。





 朝美は、その場で泣きじゃくる琴葉をなだめ、一度手前に引きずってくる。


「朝美ちゃん、わたし、恥ずかしいのガマンして、隙を作ろうとがんばったのに・・・・・・」


と言ってるが、恥ずかしいの種類が本人と周りで違うことは指摘しないでおく。


「やっぱり、胸なのかなぁ? おっぱいってそんなに大事かなぁ? うえぇぇん」


と言って、なおも泣くが、指名されたのぞみは慰めるわけにはいかない。


のぞみの視線を感じて、朝美が結局慰める。


「い、いや、そんなことはねぇよ。あー、ほら、アレだ。オークの世界では、美の感覚がちげぇんだよ! そ、そうだよ! だって、ブタだぜ?」


と言って、残されたオークを指さす。


ようやく泣き止んだが、ショックは大きいようだった。


(性欲のかたまりとされているオークに、性の対象に見られないって、ある意味可哀想だな)


そう心で思う朝美であったが、口には出さない。


何はともあれ、一体片付けることができたのだ。


そして、火の魔法で焼き殺すことが可能だと証明できたのは大きい。


一番は、皆の緊張が解け、心にゆとりができたことであろう。

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