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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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魔族、魔獣あらわる

 琴葉隊が完全に軍に馴染んだ頃、一報が軍に届くことになる。


「魔族が魔獣とともに出没した」


という報告である。


哨戒業務を行なっていた部隊が、魔族に遭遇し、慌てて撤退してきたとのことであった。


逃走する最中、二度も魔獣に会い、命からがら平野に戻ってきて、今に至ると言うことだ。


バラバラに逃げたため、全員が逃げ切れたかどうかはまだ定かではない。


まだ十六時くらいであり、日没まで時間があるとはいえ、奥地に向かって逃げてしまった場合は、夜中に森で過すことにもなりかねない。


緊急で指揮官が集まり、会議が行なわれる。


フラハー王は、すぐさま大規模な部隊を編成し、討伐を提案する。


前回、魔族に遭遇した際に、たった一体の魔族に二十人近くの兵がやられた経験がある。


先代の王もやられたのだ。


フラハー王は、百人の部隊をいくつか森に入らせ、討伐することを提案した。


誰も異存はなく、日没を前に、すみやかに行動に移る。


さながら、オージュス連合国の侵攻開始に似た緊張感があったが、予め侵攻を予想できている侵攻よりも、心の準備ができていない分、動揺が走る。


フラハー王は以前も敵の侵攻があったのと同タイミングで魔族の襲来があったことから、今回のタイミングも合いすぎていると疑っていた。


しかし、アス老人の「考えすぎじゃろう。魔族と人間が手を結んだことは今までに聞いたことがない。それに、いまは起きている現実に目を向けることの方が大事じゃ。あとで考えれば良い」という言葉で、一度思考を止めたのだった。


完全に行動を共にしていたわけではないことから、魔族と魔獣は別件だという可能性は高い。


そして、目撃情報から、魔族は二体らしく、行動を共にしているようで、その特徴的な容姿から、十数年前の魔族の残党であることが疑われた。


それだけ情報共有すると、すぐに森へ部隊を突入させる。





 大まかな作戦としては、横並びで間隔を開けて森に侵入し、魔族を発見次第、応援を呼ぶ。


フラハー王とシークンド、アンダールの三名、あるいは琴葉隊のいずれかが到着するまでは時間稼ぎをすることになっていた。


本陣には、フラハー王の指名でティラドールが待機することとなり、スパツェロが平野部で待機、部隊統括することとなった。


フラハー王は、琴葉隊の待機をかなり強く希望したが、最終的に押し切る形で参加となったのだ。





 琴葉は、弓矢と薙刀を装備し、朝美はアームガードを装着、槍も数本持つ。


のぞみも腰に投擲用のナイフを差し、水の入った樽のようなバッグを担ぐ。


テラガルドは予備の矢と槍を持つほかは、自身の大斧と盾を持つのみで、いつものような野営用の道具は持たずにいる。


これは、数時間の索敵を行なった後、見つからなければ一度キャンプに戻ることが前提となっているためであり、逆を言うと、定刻に戻らない状態はMIA、つまり作戦行動中行方不明とされ、死亡と判断されることになるからである。


アス老人のみ、腰に剣を指すのみで、軽装である。


たった、五名で森に侵入し、魔族を探す。


正確に言うと、探すのは百名の部隊であり、呼ばれたら行くという感覚のため、本気で探そうとも思っていない。


のぞみは、森に入って、他の部隊との距離を確認した上で、皆に伝える。


「魔獣よりも一般的には強いとされる魔族を相手にして、出し惜しみはできないと思う。だから、ボクは魔法を解禁しようと思うんだけど、いいかな?」


他の部隊が発見次第、駆けつけることになるわけだから、当然のこととして、皆の前で魔法を使うことになる。


能力、戦い方が知られるだけでなく、偏見の目にさらされることも意味し、人によっては迫害を受けることすらある。


幸い、フラハーにおいて、そんな人はいないだろうが、人の内面はわからないものだ。


以前、アス老人が言っていたことが思い出される。


のぞみとしては、一大決心の台詞なのだ。


「ああ、あたしは構わないぜ。元より、隠すつもりもねぇし。一応作戦上のことで隠してただけだからな」


そう言って、朝美は目の前の草木を持っている鉈でなぐ。


「わたしも全然良いよ」


と琴葉も同意するが、朝美はすぐさま茶々をいれる。


「琴葉は、すでに変な目で見られてるから今更関係ねぇもんな!」


といって、ケタケタ笑っている。


ぶぅ~と不貞腐れている琴葉だが、否定できないのだろう、反論が弱い。


いつもは黙っているテラガルドが申し訳なさそうに口を挟む。


「あの・・・・・・。そういったチャンスがあればで構わないのですが。一度、全力の一撃を魔族に対して行なってみても良いでしょうか?」


そう言って、自身の大斧を見つめ、握りしめる。


一同は振り返り、テラガルドをみるが、真意は琴葉以外は伝わったようだった。


「そうじゃなぁ。もちろん、戦いの流れにもよるが、試してみるのは良いじゃろう。以前のイノシシの魔獣の際にも感じたことたことじゃが、はたして人間の繰り出す物理攻撃がどこまで有効たり得るのか、試してみたいとは思っていたしのぅ」


アス老人は同意する。


以前、イノシシ型の魔獣に遭遇した際に、朝美が単独で戦闘したのだが、投槍によって何度も直撃したものの、十数センチしか刺さらず、致命傷を与えることが出来なかったのである。


どこかのファンタジー小説や漫画ならば、スパッと切れたり、貫通するであろう。


それも、刃渡り以上に切断されたりする。


しかし、それはフィクションの物語であり、現実的には扱える武器の重量も限度があり、超人的身体能力もない上、武器の限度もある。


魔獣でなくとも、野生の動物ですら、なかなか一撃で仕留めることは難しい上、毛皮に守られ、傷をつけるのも困難なのだ。


ましてや、魔獣と言われるものは野生の動物を理不尽に強化したものと言える。


朝美だからこそ、十数センチも刺すことができたのだ。


実際の武器は刃こぼれも多いため、フラハー王がモーニングスター、アンダールがメイスと殴打武器を愛用し、シークンドも切るではなく刺すスピアを用いているのも、理に適っているのである。


身長百九十を超える巨躯であり、その長身と怪力を生かした大斧の一撃は、まさに人間が繰り出せる斬撃の中でも最大級の威力を発揮するだろう。


これが通用しないとなると、物理ダメージは人類では困難だという結論になる。


罠にはめて、落下や落石などによる圧死、毒殺、窒息など異なる手段を講じなければいけない。

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