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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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シーハーフ城下にて

 途中、魔獣が二度現れたが、黒騎士が単独で二度撃退する。


倒すには至らなかったが、無事に犠牲なく追い払うことができた。


数日の旅を経て、日中の陽があるうちにシーハーフの首都である、ムーフェンへと入場する。


シーハーフの王都であるだけに、その規模は非常に大きい。


女性らしい優美な装飾が施された都市は、城塞都市であり、港町でもある。


城下は繁栄し、特に文化としてバラン王国の影響もあってか、若干の異国情緒も感じるものとなっている。


これは、食や服、装飾なども含む全般におけることであり、特に魔法についてはオージュス連合随一のものとなっている。


劇場や見世物など、娯楽も発展し、オージュス連合でもっとも栄華を誇る都市であることは間違いない。


大陸側の外壁は二層の壁(リリー、ハニーサックル)に覆われ、未だ一層目すら突破されたことはない。


城壁外にも街があるのも城壁としてしてはちょっと異質であるのだが、こういった層構造にありがちな、ヒエラルヒーはあまり見られないのは、徹底したヒエラルヒーを持ち、奴隷文化を持つバラン王国へのあてつけなのかも知れない。


バラン王国と長く隣国でありながら、シーハーフが陥落したことがないのはこれが大きい。


国境の要塞も堅固であるが、この王都はまさに難攻不落の要塞である。


オージュス連合国内においては随一である。


もともと、海は魔獣の出現もあるため、大規模の軍の編成が困難で、上陸箇所も限定されることもあって、脅威にはなりにくいのだが、港にもナーシサスという名の城壁があり、死角はない。


バラン王国と自由都市国家群の間に位置する部分にも大陸最長を誇る城壁国家があるが、それに次ぐ全長となっている。


本来であれば、城壁外、一層目、二層目、そして王宮内と各一日の滞在を義務とされ、最終的に五日目に女王に会うことが可能となる。


防衛意識は非常に高く、国王、王子と宰相などにも例外はない。


この面倒なルールがあるため、シーハーフが会議の主催地になることは少ないかと思いきや、ゆっくりと滞在する理由にもなっているようで、王や外交官はこのルールを利用して堪能しているようである。


黒騎士もまた、場外で取り次ぎを依頼するも、数時間経って、ようやく連絡がある。


滞在地に選んだ宿屋に、明らかに上位の高官と思われる人物が来訪し、女王の名代として話を聞くという。


直接会って話す機会を作れない非礼を詫びると、黒騎士は一通りの顛末を文にしたため、書面として渡すこととなった。


朝一で城壁外の街に入場したのだが、使者が来たのが昼過ぎ、再度使者が来たのは夕方となった。


結果としては、会議での決定を全面的に承認するということであった。


まぁ、会議の前に「決定事項に従う」とは表明していたわけだし、多数決で決まれば、関係ないのだが。


意志として快諾してくれたのであれば、それに越したことはない。


女王からは、バラン王国の動きの不審なところが未だ掴み切れていないようで、ビーゼスの軽騎兵の派兵を先立ってお願いしたいという内容が書いてあった。


こちらは、こちらで色々と緊迫した状況なのだろう。


その件については、口頭で約束し、すぐに対応することを伝える。


規定に従い、五日後には王宮であるローズパレスで謁見できる旨を伝えられたが、丁重にお断りし、ビーゼスへの帰国を急ぐことを伝えた。


本当は女王陛下に謁見し、直接伝えると同時に、色々と話を聞きたかったのと、噂に名高い薔薇の庭園なども拝見したかったのだが、またの機会に楽しみを取っておくことにした。


侵攻は近い。


残された時間を観光に費やしている暇はない。


改めて、正式な書面のやり取りを約束し、宿屋の入り口まで高官を見送ると、タイミング良く、ビーゼスからの迎えがやってくる。


第一王子キミュケールの指示であった。


今日あたりシーハーフに到着し、用件を済ませて帰国するだろうというキミュケールの推測の元、帰国する手段を手配していたのだった。


(数時間前にプルミエ国を発ったとはいえ、ビーゼスに帰国してすぐに手配したか。抜け目ないというか、気配りのきく方だ)


黒騎士は、宿屋の主人に宿泊キャンセルを伝え、代金を払うと、用意された馬車に乗り込むのだった。


ここからビーゼスは全て平地。


障害物も何もないため、魔獣との遭遇以外でのトラブルは少ない。


数日の帰路を馬車の中で過ごすことになるが、今後のことを思案していると、あっという間のことであった。

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