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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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臨時連合会議

 全員が着座するかと思いきや、シーハーフの席だけが空席である。


王女の座る場所の横で立つ使者は、


「バラン王国側で怪しい動きがあるとのことで、女王は会議を見送らせていただくことになりました。決定事項には従うと仰せつかっております。本日は私が名代を務めさせていただきます」


そう言って、深々と礼をする。


アインハイツとしては、一番うるさいウィッセンの王を黙らせるにあたって、多数決の味方につけたかったこともあり、良くない知らせと感じたのだった。


臨時会議を提案したのはウィッセンである。


開催地のプルミエ国が議事進行を務めるのが常であるが、提案した国から議題発表等の趣旨の説明があるため、開会を宣言した後は、ウィッセン国王の発言を待つこととなる。


「ウィッセン国王インゼルである」


そんなに大きい声で喋らなくてもわかるのだが、響き渡るように大げさに名乗る。


「今回お集まりいただいたのは、先のプルミエ国のカンナグァ侵攻についてである」


そこまで言うと、各国の参加者の顔ぶれを見る。


ドルディッヒ王は元よりの短気からか、苛立ちを隠さず、発言中にもかかわらず、


「前回の臨時会議でカンナグァ連邦への侵攻は承認を得たはずだぜ。今更何を会議で話すことがあるってんだ!」


と、立ち上がって大声でわめき、インゼル王に向かって指をさす。


アインハイツは、ここでもめ事を起こして欲しくなかったのであるが、立場上何もできない。


ビーゼスの黒騎士宰相を見るが、元より全身を真っ黒の甲冑で覆っており、頭部も兜で隠されているため、全く読めない。


ウィッセン国王のインゼルは豪快に笑い飛ばすと、またしても大声で続ける。


「ガハハハハハ。若いというのは良いな。ドルディッヒ殿。いやはや、何か勘違いをされているような気もするが、今日集まってもらったのは他でもない。まずは、昨年の非礼を詫びようと思ったのが一つ。ついでは援助についてだ」


あまりに予想外だったので、アインハイツ将軍もそうであるが、ドルディッヒすらも固まっている。


その様子を見て、また豪快に笑う。


「ガッハッハッハ。いや、すまん。昨年の王就任の際には、なんと頼りなさそうな若造かと、馬鹿にするような目で見ておったのだ。が、違った。ドルディッヒ王は、先代の父上も成し遂げられなかった偉業をまだ二十代にもかかわらず、実践すべく行動に移したではないか!この決断力。胆力。行動力。いやはや、このインゼル、まずは昨年の非礼をお詫びしたい」


そうやって、頭を下げる。


信じられない光景だ。


いつも豪胆で、上から目線。


誰に対しても決して媚びることも下手に出ることもしない。


怒鳴り散らし、頑固親父そのもののインゼルが、ドルディッヒに頭を下げている。


あまりの光景に驚いていると、昨年の会議で最も挑発していたビーゼスの国王も立ち上がる。


「このエデュケールとて、同じこと。まずは非礼を詫びさせて欲しい。まこと、ドルディッヒ王こそ真の勇者である。しかも、その戦いぶりは、若者ゆえの無策な猛進などでは決してない。何回かの進行にわけ、相手の情報を確実に引き出した上での侵攻とお見受けした。その知謀は先の未来を見通しているとしか思えん。いかがか?」


そう言って、ビーゼスの王までもが最大級の賛辞を持ってドルディッヒを褒め称えている。


賢王と言われ、教養深く知識も幅広いことで知られるため、人を見下すことはあっても、褒めることは見たことがない。


ドルディッヒも先ほどまでの怒りはどこへやら、すっかり毒気がなくなり、調子づく。


「おおう。ようやくわかったか。俺もやるときはやる男だからよ。有言実行って言葉、知ってっかぁ? それよ。それに、ビーゼスの王様もよく俺様の百手先まで考えた作戦を理解したな、おい。最初は適当に攻め、少しずつ情報を得て、もはやフラハーは裸どうぜんよ。次は俺自ら攻め込んで、フラハーの女を片っ端から犯してやんぜ。はっはっはっはっはー」


品がないにも程があるが、少なくとも侵攻中止にはならなさそうでアインハイツ将軍は胸をなで下ろす。


「おお!真か。さすがはドルディッヒ大王だ。王自ら先頭に立ちカンナグァ連邦に乗り込むとは。これは、歴史上類を見ない王の誕生ですな」


インゼルがまたしても最大級の賛辞を送る。


ますます増長してドルディッヒは大口を叩き、上機嫌になっていく。


しばらく、インゼルとエデュケールが持ち上げた後、神妙な面持ちになって、インゼルがドルディッヒに向き合う。


「ここからが、会議を招集したもう一つの理由でございます。恥を忍んで申し上げる」


そういうと、上機嫌のドルディッヒは、


「おう。何でも言ってみろよ」


と無礼極まりなく、上から目線で発言を促す。


「このままドルディッヒ大王が単独でカンナグァを侵攻、フラハーを攻略したとあっては、オージュス連合としても、面目が立ちませぬ。そこで、シーハーフを除くヴィータ、ウィッセン、ビーゼスからも派兵させていただき、侵攻に加わらせてはいただけないだろうか。無論、プルミエ国の戦功を奪うようなことはしません。奪った領土は全てプルミエ国のもの。ただ、我々も参戦した事実が作りたいのです。どうか、我らにメンツを立てても貰えんだろうか」


そう言って、再び頭を下げる。


ドルディッヒは高笑いし、終始ニヤニヤしている。


この決断は本来ならば熟考しなければいけないものだ。


ドルディッヒが考えている振りをしているが、単純にそれは相手の反応を見て楽しんでいるだけに過ぎない。


「アインハイツ将軍、どうするよ? ここは各国の王の顔を立ててやるかあ?」


何も考えていないのだろうが、運良くアインハイツ将軍に意見を求めるような素振りををしてくれたお陰で、発言権を得る。


チラッと黒騎士宰相を見ると、明らかに頷いた。


甲冑兜で表情は全く窺い知ることはできないが、明らかにアインハイツ将軍の視線に気付いた後、しっかりと頷いたのだ。


これはアインハイツ将軍にとって、僥倖以外の何物でもない。


ここは返事の判断を間違ってはいけない。


絶体に間違ってはいけないところで、カンニングすることができたのは大きい。


アインハイツ将軍はニヤニヤを止めることができず、そのまま頷き、ドルディッヒに答える。


そのニヤけっぷりはついぞ隠すことができなかったが、その意味を図ることはドルディッヒにはできない。


多少無礼な態度をした方が、それらしくみえるだろうか、などと考えつつ、


「そうですなぁ。このまま我が国だけでカンナグァを落としたとしたら、各国の王の面目も立ちますまい。兵を少しずつ出していただき、プルミエ国が協力を仰いだことにして差し上げれば、メンツは立ちましょう。オージュス連合国の中でのバランスというのもありますからな」


などと答える。


ドルディッヒは満足げに頷くと、


「まぁ、うちの軍を統括しているアインハイツ将軍がこう言うんじゃあ、しょうがねえな。俺としては、そんな援軍みたいなものは必要じゃねぇけど、受けてやるよ。はっはっはっは。しょうがねぇなぁ」


そう言って、高らかに笑いながら、アインハイツの腰をバンバンと叩く。


「おお、なんと寛大なお心だ。ありがとう存じます。これで、我々も面目が立ちます。いやはや。放っておくと、フラハー国だけでなく、カンナグァ連邦全域も制覇してしまいそうですからなぁ、ドルディッヒ大王は」


インゼルは謝意を述べる。


しばらく談笑した後、臨時連合会議を終了とするのだった。


黒騎士がジッとドアを見つめたため、アインハイツ将軍は「出て行け」という主旨と理解し、ドルディッヒ含め、プルミエ国の全員を会議室の外に誘導するのであった。


最後にドアを閉める際に、黒騎士が頷くのを見て、自身の理解が間違っていなかったことを確信するのだった。

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