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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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翌朝の戦略会議と報復

 翌朝、指揮官クラスが集まり、会議となる。


そこには琴葉含む、琴葉隊とその日の指揮官クラス、フラハー王が参加する。


シークンドやティラドールの顔もあった。


「えっと、作戦というより、ボクの考えを述べたいと思います」


そう言って、のぞみは集まったものを見る。


こういった場での発言は普段と違って堂々としているのだが、今日は歯切れが悪く、弱々しく自信なさげだ。


むしろ、これが素ののぞみなのだが。


「次からは、持てる力の全てを出し切って戦おうと思う。今までは次に備えたり、先を見越して色々と出し惜しみをしてきました。ただ、もう敵も全力で来ると思います。プルミエ王が出てくるとボクは思ってるし。もし、撃退、しかもプルミエ王を討ち取ることになった場合、オージュス連合がその威信をかけて侵攻してくるかも知れない。その時は本当に避難訓練が活きてくるときだと思う。実際、五千以上の兵でこられたら撤退を意識するって方針だったし。だったら、もうこちらも出し惜しみしている余裕はないかもしれない。だから、これからは全力で殲滅を目指したい。決戦の地を持つのがフラハーの良いところ。だったら、フラハーのすべき最優先事項は、一人でも多くの兵を減らすこと」


そこまで言い切ると、指揮官達は同意するように頷く。


王はにっこりと頷くと、


「実は昨夜我々もミーティングをして同じ結論に至ったのだ。で、提案なのだが、会戦が始まると同時に、相手の兵数によらず、砦の住民は全員避難させようと思う。これは、全力で戦って、チカラを出し尽くし、無理ならすぐに撤退するという戦略を体現したいと考えたからだ。半ば、砦に住民がいると、いざ撤退を考えたときにどうしても躊躇がでますから」


そう言うと、琴葉隊に同意を求める。


撤退というと、聞こえは悪く、消極的な印象を与えるが、「全力で戦うために、守るべきものがない状態にしておく」という極めて攻撃的、積極的な施策と考えられた。


一同は、気持ちを一つにし、頷くのであった。


「殲滅という戦略は決まったね。じゃあ、策や罠、戦術について詰めていきたいと思う。これは、午後から訓練に戻り次第、ボクが各部隊毎に指示を出していくよ」


そういって、にこやかに皆をキャンプから送り出していく。





「あ、ティラちゃんはちょっと、残って」


皆が順番に出て行く中、琴葉はティラドールを呼び止める。


ティラドールは冷めた侮蔑を含んだ眼で琴葉を見ると、黙って足を止めて残る。


無視をするわけにも行かないし、朝美がいることもある。


「あ、あのね。昨日は色々とやり過ぎちゃったかなって思って・・・・・・。わたしと朝美ちゃんの戦いを見て、少しでも朝美ちゃんの凄さを理解してもらって、そんで、そんで朝美ちゃんの良さを感じてもらえたらって思ったんだ。結果としてちょっと変になっちゃったんだけど」


そう言って、琴葉はうつむいて、眼をそらしながら、ティラドールの方に向く。


ティラドールはハッとし、表情を輝かせた後、自分の思慮の浅さに恥じ入る。


「あ・・・・・・そうでしたか。私は自分が恥ずかしい。卑劣な戦い方を見て、なんて卑怯な人間だと琴葉殿を心の中で侮蔑してしまいました」


そう言って、悔いるように、頭を下げる。


「ううん、いいの。戦い始めたらわたしもちょっと向きになって色々やっちゃったから・・・・・・。でも、本来の目的は達成できたみたいで良かったよ」


そう言って、ティラドールと朝美を交互に見る。


「琴葉殿。私と朝美殿の関係をきにして・・・・・・。そんな琴葉殿の心配りも知らず、私は・・・・・・。自分が情けなく、恥ずかしいです」


そう言って、琴葉の手を両手で握りしめ、頭を下げる。


今にも泣き出しそうだ。


朝美はちょっと冷ややかな目で見る。


アス老人とテラガルドはそっとテントから出て行くも、のぞみはタイミングを逸し、テントの奥で空気となっている。


「それでね!仲直りっていうか、お詫びもかねて、昨日の夜クッキーを焼いたんだぁ。よかったら、朝美ちゃんとティラちゃんで食べて欲しくて」


そういって、様々な動物の形にかたどられたクッキーと竹に入った水筒をテーブルに置く。


「おおっ。なんというかわいらしい。これは琴葉殿が? いや、なんて恐れ多い。それに比べて私は・・・・・・」


ティラドールは眼をウルウルさせて琴葉に抱きつく。


「へへっ。ありがとっ。ささっ、朝美ちゃんも一緒に」


そういって、朝美とティラドールにクッキーを一つ渡し、水筒と残りはテーブルに置く。


琴葉は少し涙ぐみながら嬉しそうにしている。


「喜んで貰えて良かった。これからも仲良くしようねっ」


と言って、微笑んでいる。


「ええ、もちろんですとも。私は今日という日は忘れません」


と言って、ティラドールはクッキーを両手で持つ。


「ささっ。どうぞ召し上がれっ」


そう言って、朝美とティラドールに促す。


「ん? どうなされました、朝美殿」


先ほどから黙っている朝美に対し、ティラドールが声をかける。


朝美は、琴葉を見ると、


「なんか、怪しいんだよなぁ。琴葉、お前、先に食ってみろよ」


と言って、顎で試食を促す。


「あ、朝美殿、さすがにそれはちょっとひどすぎるのでは」


ティラドールは怪訝な顔をして、反論する。


言われた琴葉は、涙ぐみ、


「ひ、ひどいよ。朝美ちゃん、わたし、昨日の夜がんばって作ったのに・・・・・・」


そう言って、うつむいて少しだけ眼を押さえる。


「朝美殿。これはあんまりです。琴葉殿の気持ちを踏みにじるような騎士に反する振る舞い。見損ないましたぞ」


そう言って、うつむいて咽び泣く琴葉の肩に手をやって、朝美を睨む。


「ふーん。なぁ、琴葉。お前、試しに食ってみろよ」


もう一度、朝美は試食を促す。


さすがに、ティラドールも朝美を侮蔑の目で睨むが、琴葉は


「いいよ。そこまで言うなら、食べるよ!朝美ちゃんのばかぁ~」


と言って、テーブルに置いてあるペンギンの型のクッキーを手に取り、ポリポリと食べる。


「ほら、これで良いんでしょ!」


と言って、不貞腐れた顔をしてそっぽを向く。


(ん? これはあたしの考えすぎか?)


一瞬、朝美は自分を疑うが、不貞腐れた琴葉の口角がややつり上がったのを見逃さない。


「ほぅ~。じゃあ、これも食ってみろよ」


そう言って、手渡されたクッキーを琴葉に差し出す。


「朝美殿!」


ティラドールの怒鳴り声が聞こえたが、朝美は構わずクッキーを琴葉の前に出す。


「う。いや、もう、お腹いっぱいで・・・・・・」


そういって、両手で拒絶を示しつつ、後ろに後ずさりする琴葉を見て、勝利を確信すると、


「遠慮すんなよっ。ほら、食え。食えゴラァ!」


と言って、無理矢理琴葉の口にツッコミ、顎を閉じさせる。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


三者の一斉の沈黙を破ったのは琴葉だった。


「かっら――!! 辛い辛い辛い辛い辛い! ひぃ~。 み、み、水~。」


そう言って、テント内を駆けずり回る。


ティラドールは呆然とその様子を見て、固まっている。


朝美は、口を開き、涙目で走り回る琴葉を抱きしめて捕まえると、琴葉が持ってきた水筒をもう片方の手で掴む。


「どうした? 琴葉。 ああ、水ね。ちょうど、ここにお前が持ってきた飲み物があるじゃないか」


そういって、琴葉を見ると、プルプルと首を横に振っている。


辛さと、敗北感で涙目一杯だが、朝美は容赦しない。


「飲めゴラァ!」


そう言って、水筒を琴葉の口に突っ込む。


ブフォッと吹き出し、あふれ出した分が朝美にかかる。


「ちっ、きったねぇなぁ。おら、飲んだか?」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「にっが――! 苦い苦い苦い苦い苦い~!うげぇ・・・・・・み、みず、誰か、水を・・・・・・」


そう言って、床に唾液を垂らしながら、飲んだ水を垂れ流す。


「お水です。琴葉さん。どうぞ」


そういって、いつの間にかテントに戻ってきたテラガルドは一人分のカップと水筒を持って現れた。


琴葉は泣いて謝りながら、水を口に運んでいくのだった。





「テラガルド殿は、こうなることがわかって水を?」


ティラドールは何が何だかわからないが、あまりにもタイミング良く水を持って現れたテラガルドに問いかける。


「いつものことですから。二人分か一人分かをアスさんに尋ねたら、一人分で良いとのことでしたので」


そういって、優しく、琴葉の背中をさすって微笑む。


「当たり前だ。二人分持ってきたら、ジジイをあたしがぶん殴ってるとこだぜ」


といって、朝美はげんこつを琴葉に落としている。


二人分持ってきたら、すなわち、ティラドールと朝美が引っかかったことを意味する。


アス老人は、朝美がしっかりと見破ることを予想していたということである。


朝美は、しょうがねぇなぁと言って、テラガルドに代わって琴葉の背中をさする。


のぞみと目が合ったティラドールは口をパクパクとさせていたが、


「ティラドールさんは、マネしちゃダメですよ。絶体に影響を受けないように」


というのぞみの助言を黙って頷くのだった。





 

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