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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第一部 第一次プルミエ侵攻
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三人による包囲

「全て話せば、お前は俺たちがかわいがってやるぜ。」


そう言って、指揮官とおぼしき男はさらに一歩近づく。


後ろで控えていた兵も会話に加わる。


「よく見たら、このボクっ子、巨乳じゃねぇか。小柄な割りに発育のいい見た目のギャップがそそるねぇ」


舐め回すような目で少女を視姦すると、小柄な割りに発育の良い胸を凝視する。


はち切れんばかりの胸で、ボタンが突っ張り、明らかに窮屈そうな服となっている。


少女は、自身コンプレックスだったのか、明らかに不機嫌な顔をする。


自分を落ち着かせるためか、大きく深呼吸すると、今度は後ろで控える兵に向かって問いかける。


「この国のことを知って、どうするつもりなの?」


後ろで控える男は、自分が話しかけられたことが嬉しかったのか、にやけ顔で答える。


「どうって・・・・・・これから侵略戦争をしかけるのに楽をしたいから以外にないだろ? ボクっ娘ちゃん?」


リーダー格の男は振り返り、キッと返答した男を睨む。


睨まれた男は余計なことを言ってしまったという自覚があったのか、目を逸らせややうつむき加減になる。





少女は口角を釣り上げる。


「なるほど。やっぱり戦争を仕掛ける気だったんだね。それだけ知れれば十分だよね?」


そういうと、しゃがみながら上を仰ぎ見る。


ガサガサっという音とともに、少女が落ちてくる。


「とうっ! 主人公、登場~」


盛大な尻餅をつくと、頭を搔きながら何事もなかったように、決めのポーズを取り直す。


身長は先の少女よりもさらに小さい。


女の子っぽい短めのスカートは平時であればかわいらしい服装といえるが、少々場違いな感は否めない。


肩に掛かるくらいのストレートの黒髪が先の眼鏡の少女の茶色がかった色とは違った雰囲気を醸しだしていた。


自分の身長よりもかなり大きな弓を携え、緊張感無く微笑んでいる。


「のぞみちゃん、ここまでの誘導ご苦労様っ。ここからは作戦通り、琴葉ちゃんに任せてねっ」


そう言いつつ、矢をつがえ、引き絞る。





リーダー格の男は、一歩分スッと飛び退くと明らかな戦闘態勢を取る。


「全員、戦闘態勢を・・・・・・」


男が言い終わる前に琴葉と名乗る少女は矢を放つ。


ビンッという弦音が男の最後に聞いた音だった。


眉間に矢が刺さり、男は仰向けに倒れ、大の字で倒れ込む。


「あ・・・・・・」


のぞみと呼ばれた眼鏡の少女があっけに取られているところを見ると、「作戦通り」ではなかったのだろう。


射った本人ですら、しまったという顔をしているから間違いない。





あまりに咄嗟の出来事に後ろで控えていた兵達は一瞬固まったが、すぐに状況を理解する。


「シブラー隊長!」


「クッ・・・・・・ガキが、ぶっ殺してやる」


剣を携えた男は、琴葉と名乗る少女の矢を警戒してか、サイドステップを踏みながら、やや蛇行して少女に向かって突き進む。


感情にまかせて直線的に突っ込まないあたり、ある程度戦闘経験のある兵士なのであろう。


「俺が隊長の敵を取る。飛び道具を持つ貧乳のガキさえ何とかすれば、あとはどうとでもなる」


そう言い放つと、剣を持った男は照準を弓矢の少女に向けた。





「むっかぁ! かわいい美少女に向かって、貧乳だとぉ? おじさん、言ってはいけないことを言ったね?」


緊張感無くプンスカ怒る弓矢の少女は弓を構えることも忘れて地団駄を踏んでいる。





弓矢を構えた男は、琴葉と名乗った少女に向けて照準を当てなおすと、引き絞ったまま待機する。


同一斜線上に味方がいることからの同士討ちを避けたかったのと、とっさに標的を変えることも考えてのことなのだろう。





一際大きな弓を携えた少女は、第二矢を番える時間的ゆとりはなく、到底迫り来る剣士に間に合わないのだが、ゆっくりと矢を取り、番える準備をする。


その先に見据えているのは目の前の剣士ではなく、奥の弓手であった。


「のぞみちゃん、目の前のおじさんの対応よろしくねっ」


そういうと、完全に向きを変える。





急に対応を振られた眼鏡の少女は明らかな無茶ぶりに動揺しつつ、


「え~。あとは任せてってさっき言ったのは何だったの? もう!」


困惑しつつも想定内だったのだろう。


これまでの二人のやり取りにも、過去似たようなことが何度もあったことを窺わせる。


ため息をつきながら、


「もう、しょうがないなぁ」


と言って前に抱えていた大量の水袋を剣士にぶっかける。


「うわっ。て、てめぇ、なにを・・・・・・」


ただの水ではあるのだが、浴びる側としては毒や刺激物なども頭をよぎる。


一瞬の隙ができたのと、警戒心を抱かせ、足を止めさせるには十分だった。





「俺にあたっても構わねぇ!ペッタンコの方を殺してもいいから射てぇ!」


そう剣士は叫ぶと、二人の少女の方に向き直り、剣を構え直す。


しばしの静寂の後、一向に矢が放たれないことを確認すると、イヤな予感を感じつつ、ゆっくりと振り返る。


そこに同僚の姿はなく、赤い髪をした中性的な雰囲気をもつショートカットの女の子が立っていた。


視点を下に移すと、首を中心に明らかに違う方向を向いた顔をした同僚が地面に突っ伏している。


その傍らに立つ短パンをはいたスラリとした長身の女性と目があう。


「ゴ、ゴメン。気絶させるつもりが、蹴り殺しちゃった・・・・・・」


ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をすると、手でゴメンとジェスチャーをするあたり、本当に反省はしていないだろう。





「ちょっと、朝美ちゃん! 情報引き出すためになるべく殺さないようにしようっていったじゃん!」


緊張感無く、矢を持った手で少女は指をさして避難する。


「おいおい、先に殺しちゃったのは琴葉だろ! あたしだけが悪いみたいに言うなよ!」


長身の少女も言い返すが、どっちもどっちであり、先ほどまでの追われていた緊迫感はもはやない。


しばらく罵声を浴びせ合っていたが、最終的に眼鏡の少女に向く。


「そういうわけだから、のぞみちゃん。そのおじさんはキチンと生け捕らないとダメだからね!」


持っていた矢で軽く小突かれた眼鏡の少女は


「え~。ボクはちゃんと作戦通り誘導してきたのに・・・・・・」


と小声で呟く程度の反意しか示せないのだった。





琴葉と名乗った少女は、勝負ありとみたのか、番えようとしていた矢をしまい、木陰から薙刀を取り出し、武器を持ち替える。


森の中では振り回すにはちょっと大物であるが、こういった開けた場所では単純に手にした獲物のリーチが生きてくる。


相手はショートソードと呼ばれる七十~八十センチくらいの両刃の剣だが、薙刀はおよそ二メートルを超えていた。


その薙刀を手に持ち、眼鏡の少女から横へと離れていく。





その動きに呼応するように、朝美と呼ばれた赤い髪の長身の少女も、無警戒にゆっくりと中央部に歩み寄る。


ちょうど三人の少女が正三角形の位置になり、中央に剣士が囲まれる形となっていた。


明らかに逃がさないための囲い込みである。


先の会話より、目的は剣士からの情報収集であり、生け捕りということが条件だと判明している。


奇しくも、本来であれば男達がやろうとしていたことが逆になってしまった。


こと、この状況に至っては、男にとっての目的は達成不能は明確であり、いかに生存するか・・・・・・。


つまりは、無事に逃走できるかを考えていた。


幸いにして、殺さないようにすることが条件となっているようなので、多少のゆるみは期待できそうではある。





男が思案していると、赤い髪の少女が声を発する。


「オッサン。聞いてただろ? あたし達は情報が欲しいだけなんだよ。殺しはしない。武器を捨てな」


腕を組みながらこちらを見下ろすようにして言い放つ。


「まぁ、そうは言っても、さっき朝美ちゃんは殺しちゃったけどね」


おどけながら薙刀を振り回し、少女は笑う。


赤い髪の少女は軽く睨むが、本人は全く気にしていないようだ。


「ちょ、ちょっと、琴葉ちゃん。話が進まないから、朝美ちゃんに任せようよぅ・・・・・・」


消え入りそうな声で眼鏡の少女が言うと、改めて赤い髪の少女は剣士を睨む。





男はしばらく思案し、自分の中での生存戦略がたったのだろう。


何かを決意したように急に肩の力を抜いて剣を放り投げた。


「わかったよ。降参だ。」


そう言って、両手を軽く挙げると、三人を順番に見る。


「ほら。剣を捨てたんだから、そんな殺気だった目で見んなよ。」


手をひらひらさせながら、眼鏡の少女の方を向く。





誰一人として緊張を解いたわけではないのだろうが、男の目には少女達に一瞬の油断が感じ取られたのかも知れない。


勝機と捉えたのか、口角を釣り上げ、微笑む。


次の瞬間、急に眼鏡の少女に向かって突進し、体当たりをかますと、後ろから羽交い締めにするようにして抱きかかえる。


腰に差していたナイフを手に持つと、勝利を確信した顔となる。





「馬鹿が! 囲まれたときに一番弱いヤツを突破口にするのは常套手段だろうが。薙刀には勝てねぇし、素手で蹴り殺すような武闘家にも勝てねぇが、逃げ回ってただけの丸腰のガキならどうとでもなるんだよ」


そういって男は薙刀を持った少女に言い放つ。


少女は怒っているのか、今までの軽口が嘘のように無言で男を睨む。





「俺はこのままトンズラこかせてもらうぜ。お前らみたいな哨戒業務に当たっているガキがいることだけでも情報として持ち帰りたいんでなぁ。」


今度は赤い髪の少女の方を向いて言い放つ。





赤い髪の少女は、特段慌てるわけでもなく、また、怒るわけでもなく、努めて冷静に指摘する。


「おっさん。あんたビショ濡れだけど大丈夫か」





男は何を言われたのかわからないといった顔で答える。


「あ? 何を言って・・・・・・」


そこまで喋ったところで、続きを喋ることはできなくなっていた。


身体を濡らしていた水が男の口元まで移動し、頭部を大きな水の球体が覆うようにして窒息させていた。





「おっさん。あんた、さっき水を全身に浴びせられてただろ? その時にもうすでに勝負はついてたんだよ」


赤い髪の少女はやれやれといった風に、男に近づき、縄で手足を縛る。


そのまま平地の中央部分まで引きずっていくが、その間も眼鏡の少女が男の頭部付近を触れ、水が頭部を覆っていた。


男が苦しみ悶えていたが、引きずって移動が終えると、水が頭部より離れたことで、窒息という苦しみから解除された。





「ご、ごめんね。ボク、水の魔法使いなんだよね。言ってなかったけど・・・・・・」


眼鏡の少女は本当に申し訳なさそうに謝ると、ずり落ちた眼鏡を人差し指で擦り上げた。





男は絶望の表情でもって三人の少女達を見、自らの死を覚悟したのだった。


話の途中で後書きを書くのはすきではないのですが・・・・・・


ちょっと、PV解析を初めてしてみた結果、この話数で次話へ行く確率が落ちていることがわかってます。

でも、内容はあまり変えるつもりがありません。

PVは大事ですけど、そのためだけでもないですからね。


急に『魔法』が出て来て、興ざめした部分が理由なんだろうなぁと思ってたりします。


お時間許すならば、魔法の説明が終わる先の、もう数話だけ読んでみてくれると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 森大好きです。登場人物が日本語表記なのもツボにはまっております。魔法が軽微ということで、体力と頭脳にものを言わせるだと思いますが、どのような仕掛けが展開されるのか、楽しみにしています。
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