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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第一部 第一次プルミエ侵攻
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戦後処理

 時間にして二時間かからず、あっという間の撃退であった。


最初の布陣から三十分で横陣を突破、仕切り直して、再度お互いに布陣してからまた三十分ほどで両翼を蹂躙、撃破。


弓隊を投下して圧を加えると、相手は撤退していったのだから、完勝である。


実際には死体の数を確認しないとわからないが、死者は千人を超え、当初森に侵入し、撤退したものと、これから無事に生還できたものを想像するに、最終的には千三百、千四百近くの損害を与えたのではないだろうか。


与えた情報と言えば、王個人の戦闘力、兵達の練度、指揮能力、あとは、琴葉の弓矢の射程くらいであろう。


ひょっとすると、武器の質も伝わったかも知れない。


戦争自体が一方的になったため、気付かれた可能性は不明だが、こちらの武器の方が切れ味、頑丈さなどで良質だったのだ。


そして誤情報として与えることが出来たのは、戦術は別として、罠などはなく、卑劣な策も使用しないこと、そして戦力は千人であり、非常時には女性や子供、老人を駆り出したとしても、せいぜい五百であり、装備含め戦力外だということ。


鏑矢の合図の後、伏兵が出てこなかったことから、森に伏兵などいなかったと思ったことだろう。


拠点とおぼしき砦は徒歩三十分ほどにあるのではないかということ。


兵科は重装歩兵と軽装歩兵、弓兵ということであろうか。


反省点と言えば、王が個人の戦闘力を披露したこと、千で二千近い兵を撃破したことかもしれない。


再度の侵攻はあまり考えにくくなったが、再度の侵攻があった場合は、それらに対して、対策をしっかりと講じてくることだろう。





 念のため、戦地で一週間ほどキャンプを継続し、死体の処理や武器の回収、捕虜からの尋問などを行なうのであった。


警戒はしているが、さすがに一週間、十日での再侵攻はないだろう。


それに、もし、次があるとしたら、当然ながら前回を上回る戦力、策が必要である。


国の総力を挙げての戦争となることは必至である。


そんな、一国の存亡をかけた決断が即決できるわけもなく、一ヶ月はないと踏んでいたのだった。





 戦後処理をしていると、毎日のようにホルツホックからの使者が来訪し、情報交換をしていく。


これは事前に取り決めを行なっていたことだったのだが、敵将アインハイツは生還させた。


前評判で、それほど能力が高くないというのがあったことと、今回の戦争での用兵術を見る限りはそれが事実であると思われるのが確証できたのが大きい。


しかも、自衛を優先した戦いをしており、保守的な傾向が見られることも要因である。


つまり、アインハイツが総大将の方が最終的に御しやすく、楽だという結論に至ったのである。


捕虜の尋問からも、人望はあるものの、内地での練兵や騎馬戦を得意としており、軽装歩兵や哨戒、策はシブラーという隊長に委任していたことがわかっている。


開戦前にシブラーを失ったことがプルミエにとっては大きな損失だったに違いない。


火の魔法を使うということについては、ついぞ証言が出なかったが、さして重要なものではなかった。


魔法は戦局をひっくり返すほどのものではない。


火の「創」を使えるのであれば、一対一で近接戦闘を行なうのであれば、接した瞬間に燃やされる可能性がある。


だが、逆に、接しなければ良いのである。


火の「操」を使えたとしても、近くに火がないと操る対象がないため意味をなさないため、警戒さえしていれば、それほど脅威ではない。


アインハイツが生還したとしても、火の魔法が使えたとしても問題ないのである。


実は接触する以外での火の魔法は戦闘においてそれほど役に立たない。


これは水も同様であるが、止血などができる分、若干使い勝手は良いかも知れない。


アインハイツにとっては、生還した方が地獄であろう。


何しろ、今回の敗戦の責任を取らされる可能性が大きい。


たとえ、敗戦が織り込み済みだったとしても、ここまで甚大な被害を出したとあっては、さすがに無罪放免とは行かないだろう。





 なお、ホルツホックは帰路の追撃はそれほど行なわなかった。


これは意図的なものである。


ホルツホックとしては、もう一度、最後の侵攻があった際に決定的なダメージを与えることを考え、戦力の出し惜しみをしているものと推察された。


相手の武器や用具などの回収はしっかりと行なったようなので、ちゃっかりとしている。


森に侵入した軍の二千のうち、およそ二百の兵に損害を与えたが、潜在的なチカラはおそらく千のダメージであろう。


そういったことを踏まえると、かなり戦力温存をしており、十分な余力があったことが伺える。


キャンプに行き来する使者の頻度や会話の様子からは、フラハーとかなり密接な連携を取っているかのようにも見えるが、実情は不明である。


いずれにせよ、生存戦略を最優先に考えていることだけは間違いないだろう。

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