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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第一部 第一次プルミエ侵攻
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対峙

 翌日、ホルツホックの依頼達成の報告と、懸念について王に述べる。


ホルツホックの件については、フラハーからの使者によって伝達することとしてもらい、懸念については真剣に考えているようだった。


「おそらくは考えすぎだと思います。現段階で負ける要素はないでしょう。ただ、何事も心配しすぎて損はありませんし、最悪の事態も想定して動くのがよろしいでしょう。万が一平野で敗戦した場合のことを説明しておきます」


そういって、その先のことを間をおかずに説明するあたり、敗戦時のこともしっかりと考えてあるのであろう。


「兵はフェルゼン、ヘス、ボクスネーの関所に三分割して敗走します。ただし、駐屯兵はそのまま町や村に滞在し、非戦闘員は全てフェルゼンに受け入れてもらうことになっています。砦は速やかに放棄する手筈となっておりますが、いかんせん入り口が一つしかなく、全住民が待避するまでは時間がかかるので、早めの決断をし、時間を稼ぐというのが最終ミッションとなるでしょう。相手に騎馬を渡すことは避けたいので、軍馬をそのまま馬車にして逃走できるように砦内にはそれ用の荷車が多数あります。最終的には馬車で待避することになるので、砦から出てしまえば、追いつかれる心配もないでしょう」


「そこまで考えてあるとは、意外だな。あたしはてっきり負けないから考えてないっていうオチかと思ってたよ」


朝美は失礼ながらも正直に言い、驚く。


「ははは。戦闘には自信がありますが、過去に二度負けた歴史があるのも事実。何よりも、国民を守るのが我らの役目ですからね。領土は奪われたら取り返せば良いのです。しかし、命はそうはいきません。命を守るために国があるのであって、逆ではありません」


「おじさん、すげー。今まで出会った中で、上司にしたい男性ナンバーワンだよ!」


琴葉はパチパチ手を叩く。


全てが吹っ切れたように、琴葉達は顔を上げる。


「では、第五次侵攻が本格的に来た際には基本的には殲滅に近く打撃を与えるつもりですので、ご助力をお願い致します」


そういって、天幕から去って行くのだった。





 何日も野戦訓練を一緒に繰り返し、侵攻を待っていると、ついにその日が訪れた。


合計二千からなる大規模な部隊がホルツホック領内に侵攻したとのことだった。


歩兵、重装歩兵、弓兵と、少数の工兵、輜重隊もおり、百人一組で侵攻してきたとのことだった。


ホルツホックは、前回の侵攻後に、今回の大規模侵攻を当然予測していたが、万が一二回目のような横に広がった隊列で侵入してくることをおそれ、広範囲に罠を仕掛けたようであった。


そのため、侵入経路に罠が少なく、損害を大きくすることはできなかったとのことである。


ただ、罠の種類は変えたようで、多少は引っかかってくれたのと、行軍速度を遅くすることはできたようである。


迎撃についても、それなりに真面目に行なったようで、弓矢隊による指揮官の狙い撃ちを試みたが、敵は一見それとわかる外見ではなかったようで、正確な判断はできなかったようである。


ともあれ、それらしい人を狙撃することはそれなりの効果があったようである。


また、石つぶて、落石は非常に効果的だったようだ。


返り討ちに遭う可能性が高いため、キャンプの夜襲などは行なわなかったが、実施したとしても効果はほとんど期待できなかったであろう。


特筆すべきは、今回もホルツホックは死傷者がゼロだったことである。


戦略が巧妙だったというのもあるが、プルミエ側が頭上の敵に対して反撃をしようとしなかったのが大きい。


無論、そういう位置などの条件を整えたホルツホックの功績であるのだが。


結果として、二千のうち、千八百が平野部に出現、対峙したのだった。

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