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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第四部-フラハー陥落
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アッサーラの用兵

 結局、訓練地には一度だけ来ることになったのだが、皆で話し合った結果、魔法は厳禁で特に実力の出し惜しみはしないようにすることになった。


ただ、マータが何らかの形で張り合おうとしてきた場合には、チカラを抜くことになった。


結局のところ、チカラを誇示しても嫉妬される可能性があるし、劣るところを見せても取って代わる気になられる可能性もあるため、正解がわからないのだ。





「おらぁ、足並み揃えろ! もっと早く! もっと! もっとだ! とっとと動け、ボケぇ!」


そんな怒号が響き、明らかに隊列が乱れつつも、隊は何とか食らいつき素早く動く。


そうかと思えば、休憩時間や合間にはとことん褒めたり、兵士一人一人とコミュニケーションを取る。


「いやぁ、さっきの動きは良いじゃん、やればできるじゃん。すげえよ、お前ら」


肩を叩いて、大げさに抱きつき、握手をしていく。


アッサーラは明らかにのぞみと違ったタイプの指揮官だった。


理論はもちろんある程度あるのだが、どちらかというと感覚的で、感情で動く。


内心見下している感じと、『上手くマインドを操っている』感が見ていて伝わるのだが、結果として功を奏す。


のぞみのような整然さはなく、若干荒々しいが、要所要所の動きは良く、全体としてメリハリが出ている。


用兵術は一長一短だが、人心掌握という点では長けていた。


褒めて煽てたりするのが上手く、厳しく罵倒するのも上手い。


飴と鞭の使い分けが秀逸で、まさにリーダーとしてふさわしい采配だった。


休憩の度にコミュニケーションを取るので、午前中と夕方で雲泥の差が生まれ、最後の時には実にスムーズな隊列変更、陣形構築が行なわれ、ポテンシャルを最大限に引き出していく。


「とっとと移動しろ、こらぁ。もっと早くできんだろうが、本気出せ。死ぬ気でやれボケ」


罵倒に対して必死に動く兵が、前回よりも今回、今回よりも次回と、どんどん練度が高まっていく。





「ほほぅ。アッサーラくんは中々に用兵に長けておるのぉ」


アス老人はお世辞でもなく褒めるのだが、アッサーラはにこやかに笑って受け流す。


「いやぁ、自分なんて全然っスよ。のぞみさんの方が、教科書的お手本で綺麗なんで。俺のはテキトーですから」


まぶたが重いというか、外見的に腫れぼったくなっているので、特に目が笑っていないように見えてしまう。


そこに、愛想笑いのようなヘラヘラとした上辺だけの笑顔を浮かべるため、胡散臭さをどうしても感じてしまう。


おそらくは、誰しもがその腹黒さというか、根っこの部分を感じるのだが、確証がないのと、現実に結果を出していることから信頼度は下がらないどころか上がっていく。


立ち回りが上手いのだ。


要領が良いともいうのだが、そうでもなければマータと上手くはやれないだろう。

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