深夜、また砦に戻る
「完全に嫉妬。僻み、妬み、と見栄、自尊心ってヤツだな。なんで、あのオバサンが使者になったんだ?」
朝美はため息とともに机に突っ伏す。
「こりは、アスじーちゃんに任せるっきゃないにゃあ~」
琴葉は朝美の背中にまたがり、おんぶするように朝美の上に突っ伏す。
のぞみはそっとめくれた琴葉のスカートを直す。
皆がため息をつき、アス老人を頼るような視線を送る。
「無論、極力努力はするが、皆で方向性だけは共有しておきたいでな。まずは基本的には、次の侵攻があるという前提で話を統一して欲しいんじゃ」
「それは、あれですか。『あると思う?』と聞かれたら、『当たり前じゃないですか!』くらいに言った方が良いということですか?」
テラガルドは答え方の問題も含めて確認する。
「そうじゃ。なんだったら、ある前提でこちらから話しかけても良い。さも当然という空気感で、『ない』と言えない雰囲気を作りたい」
突っ伏したままの朝美は右手を挙げ、ヒラヒラとさせて、同意を示す。
「こっちは、マータ先生がやりたくなくなるように色々とデメリットを吹き込む。アッサーラ君にも協力してもらおうと思う」
アス老人はそういうと、立ち上がり、火時計をみる。
そろそろ戻らないと、明日の朝に砦に戻れないのだろう。
目で数名を見やると、目線を送られたものが順に火時計を見て立ち上がる。
「なるべく、砦に足止めして、こちらで何とかするが、一日は絶対にここにくるじゃろ。その時だけ注意してくれ」
振り返ることなく、片手をあげると、深夜の森に消えていくのだった。




