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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第一部 第一次プルミエ侵攻
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族長と作戦方針の確認

 翌朝、改めて族長らと話し合いをもった。


大まかに前夜に会議した内容を伝え、実行の可否含め、意見を求める。


「ああ。それで構わないと思う。他の族長達の賛同も得られよう。より細かく言うと、初回進攻に対して、時間の許す限り、広範囲にわたって地上に罠を張りまくろうと思う。その上で、こちらはほとんど手出しをしないで様子を窺えるとベストだな。無論、ある程度の規模であれば、上からの迎撃や地上での誘導・囮なども交えるべきだとは思う。だが、できる限り出し惜しみをしておきたい」


のぞみはその意見に賛同の意を示す。


「仰るとおりだと思います。上からの迎撃も、木上の集落から離れた、より地上に近いところからゲリラ的にやったほうが良いでしょうね。いちど集落の存在を知られると、集中砲火を浴びる可能性もありますし、集落移動の手間などもありますから」


族長は、非戦闘員の村人の保護や集落の維持に対して配慮して貰えたことがありがたかったのだろう。


微笑んで続ける。


「信用はしているのだが、こちらも情報は命でな。琴葉殿らには申し訳ないが、集落の細かい配置や数、戦闘力などはお伝えしないが、ご了解いただきたい。概ね、指示を与えてくれれば実行できると思う」


琴葉達は一同に理解を示し、頷く。


「で、フラハーへの決戦共闘依頼はどうすんだ?」


朝美は相変わらず無遠慮に族長へと尋ねる。


「それはこちらで使者を立てよう。だが、場合によっては、ご同行いただくかも知れんが。日頃から懇意にしてるから、断られることはあるまい。主導権は渡さないといかんだろうがな」


「それなら安心だな」


朝美はそこが一番心配だったのか、ほっと一息つく。





「ねぇねぇ、秘密なのはわかるけどさ。魔法使える人ってこの国にいるの?」


琴葉は国の重要機密と思える内容に切り込む。


そのストレートな物言いに一行はドキドキしつつも、感謝していた。


聞きたいことではあるが、普通の神経では聞きづらいので、こういうときに空気を読まない感情ストレート型の人材はありがたい。


族長を取り囲む戦士と村人は一瞬で緊張した表情になったが、族長はもう気にしていないのだろう。


「少なくともうちの集落は数人だな。火が来た際の対応で、火の魔法、水の魔法が生活レベルで使えるくらいだ。戦力としては計算できんな」


と、真実はどうかわからないが、よどみなく回答する。


魔法が使える人材の稀少性を考えると、真実味は高い。


「じゃあ、火計対策はこちらで考えなくても良いってことかぁ」


琴葉は自分が火の魔法を使うからであろう。


下から集落を火計で攻略するなどを考えてのことだろう。


まだ、完全に納得はいっていない様子だが、一応は引き下がる。


「かなり高い位置に集落があるので、直接的な火はそれほど脅威ではないのだ。小屋そのものに未練は少ないでな。ただちに放棄して横伝いに逃げればほとんど問題ない。森全体が焼かれるとちと困るがな。」


加えて解説をしてくれた。


「ついでに、一つばかし聞いてもよろしいかのぉ」


アス老人がこのタイミングを逃さず、尋ねる。


「ん? なんなりと。と、いっても全てが答えられるわけではないが」


族長はもはや何でも聞いてくれといわんばかりにオープンになっている。


「では、今までの連合国側との戦について、過去の事例をいくつか伺いたい。相手側がどの程度我々を知っているのかによって、情報で優位に立ってるかどうかが決まってくるでな。また、奇策と思ってたら、既に何度か実施済みということであれば、無駄じゃしな」


昨日の情報の優位性に自信を持つのはどうかという点に関連付けた質問だ。


「なるほど・・・・・・。実のところ、手の内は全てバレていると思ってくれ。と、いうのも、王道にして正道ってやつで、罠を張ることと、上からの迎撃、地上での誘導・囮などは敵も考えつくし、我らも知られた上で実行する。実際に過去はこれでしか対応していない。多少、罠の種類や誘導の仕方などの細かい戦術に変化はあっても、やることはかわらんのですよ。集落の形態などは知られていないかと思うが、歴史上遠い昔に狙い撃ちされた集落はあるようなので、全く知らないわけではないと思うのだが、ね」


そういって、お手上げなのか、両手を軽く挙げる。


「確かに。敵は罠があるとわかってても、来るしかないし。罠を張っているのがバレているとわかってても、こちらは仕掛けないわけにも行かないからね」


朝美は苦笑いする。


つまり、作戦も何も最初からなかったということだ。


やることは決まっていて、どこまで想定しておくかという問題だったのだろう。


こと、この段階になってようやく気付いたことに苦笑いしたのだった。


族長はにやりと笑うと朝美に微笑んだ。





「私からもよろしいでしょうか」


テラガルドまでもが便乗して質問する。


無言で族長は頷き、質問を待つ。


暗黙に質問が許可されたことを理解すると、


「敵の注意すべき人材、軍の情報はいかがでしょうか」


テラガルドはアス老人を一目見た後に質問する。


昨夜、アス老人が「特筆すべき人材が残っていない」と言っていたことの確認なのであろう。


族長は少し真面目な顔をしてから、回答をし始めた。


「連合国の他の国はともかく、プルミエ国についてのみ言えば、特筆すべき人材はおらん。八年前の侵攻のときにあらかた潰したからな。詳しくはアス殿が知ってるはずだが。そのときは族長ではなく、戦士として私も戦に加わっていたので、よく知っている。」


そう言って、アス老人を見やると、アス老人も目をつむって頷き返す。


「ただ、それでも、敢えて言うと、諜報活動やゲリラ活動においてはシブラーという四十くらいの部隊長が少し厄介かもしれん。最近の活動はこやつが全て最前線で行なっているから、経験値が蓄積されていよう。それと、アインハイツというのがかの国の将軍で実質的な軍の最高司令官だ。実力のほどは知らんがな。そして、最後に王は非常に若く、好戦的だと聞くが、世襲で就任したばかりで舐められたくないというのがあるようでな。今回の侵攻もそういった背景がありそうだ。ようは実績づくりというか、連合国内での発言権とかメンツとかだろう。軍の編成はオージュス連合国の一般的なものと変わらんと思う」


のぞみと朝美は顔を見合わせると、にっこりと笑う。


二人以外はやや困惑して、彼女たちの言葉を待つ。


「既に、シブラーという男は、ボクたちが先の哨戒業務で討ちましたので、憂いは一つ無くなったと思います」


のぞみが皆に報告すると、一同は目を丸くして驚き、喜びの顔つきに変わる。


「ちょっと!のぞみちゃん、いつの間にそんな手柄を立てたのっ!すごいじゃん」


と琴葉が飛び跳ねているが、眉間を矢で打ち抜いた本人が覚えていないことに、驚きを禁じ得ない朝美であった。





「五人一組で一隊、これを基本のパーティとする。二つ集まって十人で一隊。さらに十人の隊が十集まって、百人で一隊。同じく千人で一隊。あとは千人単位で集まって大きな隊を形成するっていうのはカンナグァ連邦と同じですよね。業務内容によるけど、五人のうちで戦闘員は三~四人で、残りはサポートっていうのも同じかな」


のぞみは編成について、念のため確認をする。


族長はシブラーが既に討ち取られていたことの驚きと喜びからまだ興奮冷めずと言ったところだが、のぞみの発言に対して遅れながらも反応し、頷く。


その間も同席している村人と戦士は手を取り合い、隠さずに喜んでいるところをみると、それなりに煮え湯を飲まされてきた相手だったのだろう。


戦士の一人と村人は「失礼」といって、他の人に情報を共有するために離席するほどであった。


「隊の編成は概ねその通りだ。ただ、大規模戦では役割によって隊が完全に再編成されるので、五人小隊とは異なると思いますが。初回侵攻では五人編成で、向こうもゲリラ的に侵入してくる可能性が高いかと。全滅のリスクを避けた編成になるでしょうな」


よほど嬉しかったのか、終始笑顔で答える。

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