基本的な方向性
最初の会議が行なわれたのは、マータが現れた日の夜だった。
「えっと、では本日の本当の会議を始めます。議題は二つ。今後の使者への対応と、本当に侵攻があるかどうかの二点です」
フラハー王が切り出すが、どうにも歯切れが悪い。
夜十時に集められた指揮官が、怪談のようにわずかな蝋燭の光を取り囲み、会議を行なう。
本来であれば、その日は野営地に行く予定だったが、使者の来訪への対応で変更を余儀なくされたからだ。
「まず、一点目ですが・・・・・・ 滞在は一週間とのことです。相性の悪い方は接触を避けるようにし、目を合わせない、話をしない、まともに取り合わないの『三ない原則』を徹底して下さい。評議会からの正式な使者ですから、くれぐれもその点を忘れないように」
フラハー王の台詞で一同が琴葉に視線を集める。
ほっぺたをプクーッと膨らませているが、珍しく言い返さない。
すでに、琴葉隊のメンバーによる教育、始動が行なわれているのは明白だった。
朝美もいつもなら入れる茶々をいれず、申し訳なさそうに俯く。
悪びれる様子があるだけ、朝美の方がまともである。
各自が頷くのを確認し、王は深呼吸をする。
「では、二点目です。本当に侵攻があるかどうか、について御意見をいただきたい。無論、あると思って準備しておき、この一年は警戒を解かないのは予想とは関係なく心づもりは必要だと感じてます」
フラハー王は予め議論が不毛であることを承知の上で、意見を求める。
あるとおもっていても、ないと思っていても、対策をしないわけにはいかない。
何よりも、マータの決断によって決まってしまう以上は考えても仕方がないのだ。
皆、これらがわかっているため、議論が不毛だというのはわかっている。
ただ、意見として聞きたいというのが本音だ。
「ボクはあると思うなぁ。オージュス連合国の一国である王がやられ、三千もの兵がやられて黙っているとは思えないよ・・・・・・」
のぞみは小声で呟く。
「わしも同意見じゃ。アインハイツ将軍、アドランデ将軍の動きもおかしかったし、余力がまだあるのは容易に推測可能じゃ。むしろ、不気味さを感じる。大規模な侵攻があると見た」
アス老人が蝋燭に近づくが、皆はそちらに不気味さを感じて、若干身を引く。
「しかし、数千人規模の死者が出ております。たいしてこちらは一割以下の損害。小規模侵攻が四回、それなりのものが二回完膚なきまでに叩きのめされております。どこに勝機を見出すのでしょうか? 勝利する根拠が弱いと思うのですが・・・・・・」
ティラドールの言うことも尤もである。
「たしかに。もし、勝てる自信があるのであれば、むしろなぜ今までやらなかったのかという話になる」
シークンドもティラドールに同調する。
「うーん。勝利が目的じゃないとか? それなら負けても良いから侵攻しようって話になるじゃん!」
琴葉は朝美の膝に乗って、椅子代わりとして意見する。
「・・・・・・・・・・・・」
一同は、あり得ない話ではないが、具体的な理由も思い付かず沈黙する。
こういったときの琴葉の適当な意見は結構的を射ていたりするので、あながちスルーできないことを知っているのだ。
実際に、これは半分正解である。
「作戦としては、前回立てたヤツで良いんじゃねえのか? 大規模だったら適当に相手の戦力を削いで、撤退って作戦」
琴葉を後ろから抱えて、朝美が具体策を提示する。
「そうですね。それが良いと思います」
フラハー王が頷き、のぞみも同意する。
「ボクも結論はそれで良いと思うよ」
皆がその後に沈黙したのは、最終的な判断をマータがすることだという大きな問題が残っているからだ。
「そこは、わしとアッサーラくんで何とか誘導しよう。教員時代は一番仲良くしていたからのぅ。何とかなるじゃろ。再度侵攻の恐れありと判断させて、本国に帰ってもらおう。できれば、琴葉隊としてメンバーを変えずに事態に対応したいからのぉ」
アス老人は諦めたように言い、目を閉じる。
「メンバーチェンジもあり得ますかね?」
テラガルドは恐る恐る訪ねる。
「まぁ、あるじゃろうなぁ。アッサーラくん、テイザンくんがおる。彼らはアッサーラ隊を名乗っているが、今は実質的に二人欠員がでとる状態じゃ。ありうるじゃろ。ただ、マータ先生は早く学校に戻りたいはずじゃ。何不自由ない都会の生活が恋しいじゃろうからな」
アス老人は厳しい現実を突きつける。
「でも、原則として、案件ごとに編成されるチームですから、任務途中での交代はないんじゃないでしょうか?」
のぞみは食い下がる。
「あたしは、あのババァと一緒になるくらいなら降りるぜ」
朝美は琴葉の頭の上に顎を載せながら宣言する。
一同は、黙るが、気持ちは伝わるようだ。
全員が深いため息をつき、この一週間のリスケジューリングを余儀なくされる。




