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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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フォウ女王の戴冠と承認会議

 月に一度、あるいは二度の頻度でエーザスと軽装歩兵、ロセット、弓矢隊を率いて、森での野営訓練を実施する。


単純に、野営訓練や兵の練度をあげるということもあるし、指揮官であるエーザスとロセットに黒騎士自ら心構えや戦術を伝えることも目的ではある。


しかし、それ以上に黒騎士はある目的をもって森を散策する。


毎回侵入する場所を変え、野営する場所も変更する。


南から順に北上し、侵入箇所を微妙に変えることで、ホルツホック国の高い木々の領域よりも西側領域を散策する。


森に侵入する際には、かつてのウィッセン国の訓練の時と同様、必ず挨拶を入れ礼節を貫くせいか、迎撃はないが、罠は若干ある。


それがほどよい訓練にはなったのだが、何度も訓練を実施して、情報を積み重ねていく。


同行しているエーザスやロセットは全く意図がつかめていないのだが、黒騎士には見えている情報があるようだった。


およそ半年経ち、ヴィータ国領域の湿地帯付近から森に入ったときに黒騎士は求めていた情報が全て揃ったようで、それを機に侵攻の準備が整ったかもしれないと微笑んだのだった。


以後は、訓練は前回侵攻時の入り口だけとなり、代わりに黒騎士は同行せず、単独行動を取るようになる。





 時はやや遡り、侵攻後のプルミエ国では喪が明け、女王の戴冠式が行なわれていた。


ビーゼス国の宰相として黒騎士も参列し、暗い雰囲気を打ち払うかのように、盛大に行なわれたのだった。


おおよその実情はすでに各国はわかっているのだが、プルミエ国はまだまだ健在であり、国力は一向に衰えていないことを内外にアピールするためである。


主に国民に対しての意味合いが強かった。


国民は若く才気ある女性の王に歓喜し、歓迎の意を示す。


前王ドルディッヒ王の不評もあり、反動での人気もあるだろう。





 二日にわたるパレードが行なわれ、盛大な祭りとなったあと、そのままオージュス連合国の臨時会合となった。


そこで改めて、フォウ女王の就任承認と同時に、もう一つの議案であるヴィータ国の支配権移譲が審議となった。


しかし、多数決でこれはすでに決まっていることである。


ビーゼス国、ウィッセン国、ヴィータ国、プルミエ国、シーハーフ国の五つの国で異を唱えるのは、あったとしてもシーハーフ国だけである。


当事者の国の投票権を認めないとして、ウィッセン国の票を無効としたところで結果は同じこと。


シーハーフ国のフェウム女王も聡明であり、狡猾で名の通った人物である。


全国民の直接選挙を経ているだけあって、馬鹿ではない。


プルミエ国がすでに承認に票を入れることは想像できるし、それ以上が行なわれていることもわかっている。


そして、それ以上のことというのが起きる。


ヴィータ国の代表としてバイゲン王が着席し、バイゲン王自らがウィッセン国へ自国の移譲を申し出たのだ。


こうなると、侵略とか征服、占拠などという問題ではなくなってしまう。


シーハーフ国としての予想外の出来事と言えば、プルミエ国が中立的な発言をしたことくらいだろう。

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