動乱の足音
一方、キミュケールは自国に戻ると、移民の受け入れ準備を進める。
予め居住区を作っていたが、二万人を超えるものとなると、手順やら色々と問題が生じる可能性がある。
将来的には新たな街を作ることも可能だが、ビーゼス自体は草原の国であり、国土は広いため拡張する方向で対応したのだ。
差別が出ないようにするのと、何らかの団結も防ぐ対策もかねて、分散するように配慮した。
しばらくは法律や慣習、文化への対応も期間を要するだろう。
税制の一定優遇なども実施し、温和で寛大な対応を実施した。
結果として、ほとんどのことが問題なかったのであるが、食文化の違いがやや馴染めなかったようであり、飲食店が多く出店し、ヴィータ料理が流行となったくらいである。
穀物、野菜中心のヴィータと畜産文化のビーゼスの違いが顕在化したのであるが、良い文化交流であったと言えよう。
シーハーフ国に警備に出ていたタクソケールも戻ってくるころには、黒騎士もまたビーゼスに戻ってきており、久しぶりに三者が集うことになる。
「お疲れ様。タクソケール、随分と焼けたんじゃないか?」
黒騎士はやや日焼けしたタクソケールの肩を叩く。
「いやぁ、ずっと馬で徘徊してたからね。来るはずもない部隊をずっと警戒している虚しさっていったらないよ」
一人蚊帳の外だったことにも寂しさと不満があったのであろう。
やや不貞腐れながら答える。
「キミュケールがばら撒いた嘘の噂が真実になる可能性もあるわけだから、必ず来ないと思って油断していると痛い目見るかもしれんぞ。結果としては来なかっただけで」
黒騎士は冗談半分、本気半分で言う。
バラン王国の不審な動き・・・・・・
もともとはキミュケールが流したウワサである。
野盗や逃亡奴隷に金を握らせたり、偽の情報を流し、小さい襲撃を起こさせ、まことしやかに情報操作したのである。
キミュケール曰く、奴隷がいるというのは金で人間が買えることを意味し、それによって情報操作や謀反など、ありとあらゆる策謀が可能となるらしい。
パン一つ与えるだけで、人を襲撃させることもできることがあるようで、奴隷の明日はそれだけ遠いと思われた。
シーハーフ国の臨時会議への参加を見送らせ、今回のヴィータ襲撃から目を反らすために起こしたキミュケールの策である。
ヴィータ国の制圧が行なわれた後はシーハーフ国にもその事実は伝わるわけだが、その時はウィッセン国と支配されたヴィータ国、ビーゼス国が組んだ状態となっており、チカラを失っているプルミエ国は発言力は無い。
多勢に無勢となっており、異論を挟めず、干渉はできない状態である。
後の祭りというわけだ。
このあと、大規模なカンナグァ侵攻をするにあたって、シーハーフ国にも大規模な派兵をさせなければならない。
かといって、大幅な国力の減少があっては、バラン王国につけ込まれる。
そこはキミュケールに策があるとのことだった。
黒騎士とタクソケールも知らされていないが、キミュケールとしては八割以上の成功率であり、最上の策と言っていたため、よほどなのだろう。
ウィッセン国はヴィータ国の統治と約束した一万の派兵のための準備に追われる半年となる。
プルミエ国も侵攻の傷跡から復興し、兵の補充と若き女王の統治を浸透させることに追われる半年となる。
ビーゼスは国は移民の対応に追われるも、他の国ほどの慌ただしさはない。
しかし、オージュス連合国全体で二、三万の派兵を実現するべく準備に追われることになる。
オージュス連合は慌ただしい半年となるが、確実にカンナグァ連邦を脅かす動乱の足音は近づいている。




