近衛兵リア他の自害、殉死を知る
ちょうど、話すことも終わったとき、エルドス近衛兵長が顔を出す。
「おお、黒騎士宰相。こちらにおいででしたか。ちょうど良い。報告はすでに伝令より言ったであろうが、直接述べたいと思っていたのと、今後のことを伺いたくてな」
アインハイツはやや敵意を示しつつ、着席を促す。
「まず、王の件は報告したとおりだ。その後の生還者も全くいないことから、殲滅と認定されている。国としてはすでに死亡扱いで再編を急いでいる。すでにアインハイツ将軍からも聞いたかも知れないが、軍部はアインハイツ将軍が統率、それ以外は高官が取り組み、主要ポストは空位となっている。フォウ王女が即位されるが、未成年ゆえに、私が後見者になることが先ほど決定した」
「そうか。だいたいアインハイツ将軍から聞いたとおりだな」
「で、ここからはまだ誰にも話していないので内密に願いたいのだが、私はしばらくしたら引退するつもりだ。一区切りしたらタイミングをみて、な」
アインハイツ将軍はパッと笑顔になる。
意外とわかりやすい男だ。
以前はもっと慎重で狡賢いヤツだと思っていたのだが、野望が手に届くようになったら、気が緩んで欲が隠せないのだろう。
「先ほどアインハイツ将軍にも言ったのだが、およそ半年から一年の間にオージュス連合全体でのカンナグァ連邦への侵攻を計画している。かなり大がかりなものだ。それまでは在籍してくれるか?」
「ああ、それくらいなら構わない。適任がいないようなら、フォウ王女の成人までは覚悟しているが、一年前後を考えていたのでな」
「ありがとう。特に協力してもらうことも無いと思うが、エルドス近衛兵長とは秘密を共有しているのでな。いてくれると安心する」
アインハイツ将軍は先ほどまでの敵意もどこへやら、
「うむ。私も同意見だ。エルドス近衛兵長が後見人としていてくれるなら安心だ」
といって微笑んでいる。
「私の部下達を守ることができたのはお二人のお陰だ。感謝している。できる限りの恩は返したいが、私も罪悪感はあるのでな。手の汚れたものが王宮にいるのはどうかと思って引退を決意したよ」
「そうか、それは残念だが仕方ないな。辛い思いをさせてすまなかった」
黒騎士は頭を下げる。
「いえ、自分で決断したことですから。やらなかった方が後悔していたでしょう」
沈黙が流れる中、エルドス近衛兵長は口を開く。
「おお、そうだ。忘れるところだった。王宮へ弔問にお出でいただく予定でしたな。ご案内いたします。アインハイツ将軍、お話中失礼いたしました。黒騎士宰相をお借りします」
その言葉をきっかけに三者が席を立ち、次なる行動へと移っていく。
「書簡にあったとおりに動きましたが、これで良かったですか」
エルドス近衛兵長は王宮に向けて歩きながら、顔の向きを変えずに話しかける。
「ああ。アインハイツ将軍に暗殺されても困るからな。それに、上手く後見者になれて良かった。フォウ王女を守って貰えるからな」
「確かに。会ったときと別れるときで私を見る目が別人のようでしたね」
思い出したのか、あざ笑うかのように口角を釣り上げる。
「他の関わった近衛兵達は大丈夫か?」
黒騎士としては、王の暗殺という大それたことをやった罪悪感で押しつぶされていないかが気になっていたのだ。
「何人かは自害しました。予め決めていたのでしょう。殉死とみなされましたが」
ふと、伝令に来た女性近衛兵が思い起こされた。
「伝令に来たリアという女性近衛兵がいたが、彼女も?」
「ええ、黒騎士様に会って感謝を伝えることができたと喜んでいました。ですが先日自室にて・・・・・・」
「そうか。残ったもののケアを頼む」
「もちろんです」
伝令に来たときのリアという女性近衛兵の顔を思い出す。
達成感と虚無感の両方を持っており、印象的だった。
しばらく無言だったが、気まずさもあり、確認をする。
「書簡にもしたためたのだが、ヴィータ国の物資の保管を頼む。私兵に関することはアインハイツ将軍にも頼んでいるが、エルドス近衛兵長も協力してくれると助かる。家族なども受け入れるとなると思ったより大規模なものになるかも知れないからな」
「承知しました。規模的にほぼ、占有居住地として一角を確保しなければなりませんな。ある程度は用意してありますが、至急拡張させましょう。完成したら、保管していた物資も移動させますよ」
思い出したように、黒騎士は付け加える。
「そうだ。ヴィータ国の商人と仲良くなってな。豪商の一人をプルミエ国に移住させたい。ビーゼスにも一人移住させる上、ヴィータ国にも一人置いている。三人の豪商を使って、情報のやり取りや商売ができるだろうから、可能な限り環境を整えてあげて欲しい」
「内政に関しては私の管轄外ですが、できるだけ努力してみます」
あらかた報告と今後の話を歩きながら終えてしまったため、会議の必要が無くなってしまった。
王宮に参上し、一通り弔辞を済ませると、ひまわりの庭園へと出る。
今日はプルミエの王宮に一泊し、明日の午前中に物資の搬入を確認してからヴィータ国にもう一度行き、ビーゼス国に戻る予定だ。
基本的に、物資の輸送だけ上手くいけば、移民関連はイミュケールが上手くやってくれるだろう。
かろうじて、ひまわりが咲いている。
ヴィータ国に行き、戻ってくるまでの一週間。
まだ咲いていればと願い、客室に戻るのだった。
翌日、ヴィータ国に向けて再出発し、無事に物資の輸送が進んでいることを確認。
豪商との打ち合わせをし、三国間取引について詰めていく。
弓矢隊指揮官のロセットとコーカルドにも会い、指揮下に入ることの合意を得る。
ビーゼスでは無く、プルミエ国に移住してもらう可能性を示唆した上で、部下となる兵の選別を指示し、アドランデ将軍に挨拶をすると、慌ただしくビーゼスに向かうのだった。




