プルミエ国への弔問とアインハイツ将軍との再会
「では、私はプルミエ国に寄って、その後にビーゼスに戻ります。しばらくは物資の搬出や移民などでヴィータ国にも来るでしょうが、随時伝令を立てます。それと事後報告で申し訳ないが、街の有力者、豪商、指揮官と数名と接触しています」
黒騎士は今後の動向を簡単に伝えると、徒歩でプルミエ国へと向かう。
対してキミュケールはこれ以上本国を留守にするわけにも行かないと、ビーゼスに戻る。
「僕は本国に戻るよ。バイゲン王も連れて行かなきゃいけないしね。移民の準備は僕の方で主導するから、プルミエ国の方をしっかりと頼むよ。あと、タクソケールにも撤退を指示しないとね。今回は蚊帳の外でひねくれてるだろうから・・・・・・」
確かに、タクソケールは完全に今回の侵攻関連から外れてしまっている。
キミュケールは微笑む。
「あとは、戻った際に、鎧の話をしよう。それに、君はビーゼス国の宰相ではあるけど、僕は束縛するつもりはないよ。最初からそれが約束だからね。黒騎士隊として私設の部隊を作ってもらったのもそうだし、コネクションなんかも自由にしてくれ。大いに私腹を肥やしてくれよ」
「自由は感謝するが、私腹を肥やすかどうかはわからんよ・・・・・・ でも、公私は区別しないとな。最終的についてきてくれた人を裏切ることになる」
黒騎士もまた微笑み、手を振る。
事前に伝令を飛ばしておいたこともあって、道中で迎えの馬車が来る。
ありがたく好意に甘えると、翌日にはプルミエ国に到着する。
兵舎に直行し、アインハイツ将軍に会うが、城下町が異常な静けさであることをまず尋ねたのだった。
「そりゃあ、そうでしょう。国王が亡くなって喪に服しているわけで、兵も多数亡くなってるのですから」
(すっかり忘れてた。こちらでは一定期間外出を控えたり、行事がなくなるんだった。燃やして埋めて終わりじゃない)
「いや、戦地に送り出しておいて、忘れていたよ。こっちはこっちでバタバタしてたからな」
笑って誤魔化し、現況とこれからを整理する。
「で、政府機能や王室などはどうなりそうだ?」
「おそらくはフォウ王女が即位なされます。ただ、まだ十七歳とあって、後見者が付く予定です。内政、軍事、外交は今まで通りでしょう。元よりドルディッヒ王は何もしてませんでしたからな。今更いなくなったところで弊害はありません」
(無能のお飾りだったわけだから、まわりがしっかりとしているというわけか。バイゲン王とは逆の意味でいなくなっても問題ないとは都合が良いな)
「で、アインハイツ将軍はどこまで掌握できそうなのだ」
「残念ながら、軍事だけでしょうな。後見者には立候補したのだが、エルドス近衛兵長が指名されるようです。内政については責任者不在となり、高官が何とかやりくりするでしょう。宰相も不在となります」
アインハイツ将軍としては後見者になれなかったこと、あるいは宰相になれなかったことが不満なのだろうが、こちらとしては上出来だ。
何しろ、王を戦死させた責任を取らされなかっただけ良しとしなければならない。
「上出来だ。軍部を掌握できれば問題ない。あとはどうとでもなる。王女が成人するまでの二年半で事を進めれば良いのだ。エルドス近衛兵長も最も身近で護衛していたから指名されたに過ぎん」
「むぅ。エルドス近衛兵長に関しては、黒騎士殿は関知しておらんのか?」
おそらくは、黒騎士がアインハイツ将軍を見限って、エルドス近衛兵長と手を組んだと思ったのだろう。
「この数日ずっとヴィータ国侵攻に行っていたからな。全く与り知らんことだ。だが、想定していたとおりだし、特に驚くことではない。内政ができるわけでもなく、軍が統制できるわけでもない。ただ王女と仲が良いだけだ。アールッシュとたいして変わらん。王女が成人になるまお守りしてもらえば良い」
アインハイツ将軍は納得がいかない顔をしているが、これ以上は無駄だと悟ったのだろう。
話題を今後の話に振る。
「で、これからの動きはどうすれば良い?」
「減った兵の補充が必要だ。国民からの徴兵でどのくらい可能かを調べて欲しい。およそ半年から一年の間にオージュス連合全体でのカンナグァ連邦への侵攻を計画している。全体で三万の兵を動員したいのでな。それと、私兵を集めているので、プルミエ国の兵から何名か引き抜かせてもらいたい。それに関連してプルミエ国内に土地と建物を手配して欲しい。あとは特にやることはないのでひたすら練兵をしてくれ」
「承知した」




