黒騎士隊への勧誘
「ところで、将軍がいないということは、君ら指揮官が横並びと言うことだと思うが、この人材は有能だというものはいるか? 軍ならば指揮官以外でも構わない」
黒騎士にとっては本題に入る。
先にロセットが答える。
「本人を目の前にして言うのも何ですが、横にいるコーカルド指揮官は有能だと思います。弓手としてもそうですが、指揮能力、判断力、分析力などどれを取っても優秀です。エイザム士官学校も出ておりますので、基本ができており、幅広い知識もございます」
(まずいな。在籍年がかぶると私のことを知っている可能性が出てくる)
「ほう。あのカンナグァ連邦のエイザム士官学校か・・・・・・ 入学年はいつだね?」
「もう十五年くらい前の話ですね。十九の時に兵卒科に入学し、仕官科に再入学、都合五年通いました」
(見た目が二十台に見えたからかぶっているかと思ったら、三十五か。さすがに大丈夫だな)
黒騎士は想定していた年齢とのギャップにも驚いたが、在学がかぶっていないことに安堵する。
「そうか、ありがとう。コーカルドは誰かいるか?」
しばし、思案した後、
「正直、該当するものがおりません。クセのあるものは排除される傾向があるため、どうしても似たり寄ったりになっております。ただ、弓隊の指揮官でということであれば、お返しというわけではないですが、ロセットくんでしょう。最年少で指揮官になっておりますので経験は浅いですが、欠点がないのが良いと思います」
(正直に答えてきたな。確かにクセがないため、一芸に秀でたものがいないのだろう。結果として平均値が高く、欠点がないものが残ってしまう)
「なるほど。では、逆に欠点があったとしても、この点は良いなど、一芸に秀でたものはいるか?」
二人とも考え込むが中々答えない。
該当者がいないのだろう。
おそるおそるといった感じでコーカルドが発言する。
「軍では思い付きません。が、技師ならば発想に優れ、武器開発に貢献しているものが多くおります。工房を構え、常に弓矢の改良に取り組んでいるため、我が国の誇りだと思っております」
「私も、軍では思い付きません。しかし、魔法使いの方には魔獣討伐でよくお世話になっているので尊敬しております。どうしても弓矢では対応できない魔獣も退治してくれることがありますので」
(魔獣討伐についてはどこもそんなものだろう。最終的に人間のチカラ、武器では難しい場合は大がかりな罠や魔法に頼らないといけないのは一緒だ)
「ありがとう。非常に参考になった。高い命中精度を誇るものや高威力の射撃をするもの、怪力のものや俊敏性のあるものすら名前が挙がらないということには驚いたが、それだけ画一的な軍なのだろう。統率が取れており、規律を重んじる良い部隊だと察する」
決して貶しているわけではなく、褒めているのだが、二人にそれが伝わったかどうかはわからない。
「いずれにせよ、兵と家族は移住してもらうことになる。しばらくは付き合いが出ると思うが、その中で私のことが嫌でなければ、二人とも直属の部下になってもらえると嬉しい。今すぐに返事はする必要が無いが、考えておいてくれ。これはキミュケール第一王子の了承を得ていることだ。無論断ってくれても構わない」
黒騎士は時間を取らせたことを詫びると、野営地へと戻っていく。




