移譲完了
「内政に関してはウィッセン国に任せることになるけど、基本的には数年間は現状を引き継ぐ形と聞いている。ご存じの通り、オージュス連合国の食糧、特に穀物の大半をヴィータ国に頼っている。ここが崩れるとオージュス連合国全体の食糧問題が起こる。農業はもちろん、内陸貿易などの商業を衰退させるわけにはいかない。統治国であるウィッセン国が最終的には決めることだけど、今の政務官達には現状維持を目指してがんばってもらいたい」
言い終わると、キミュケールはアドランデ将軍に目をやる。
「今、キミュケール第一王子が言ったとおりだ。数年後はわからんが、しばらくは内政について大きく口出しをするつもりはない。これまで通りやってもらいたい。ただ、あくまでもウィッセン国の支配下にあることを忘れてもらっては困る。少しずつ、我が国のやり方に合わせてもらうことも増えるだろう。そこは勘違いしないでもらう」
プライドの高いウィッセン国らしい言い方だが、これは安心材料となったようで、政務官らは安堵の表情を浮かべる。
「どうだろう。バイゲン王の前で言いにくいかも知れないが、王不在の状態で、内政面の問題は出そうでしょうか?」
黒騎士は政務官達に問う。
一同は顔を見合わせ、そのうちの一人が立ち上がる。
「失礼ながら、おそらくは問題ないかと。バイゲン王は数年前より、養子を迎えるか選挙制にするなどで引退を検討されておりました。ゆえに、大きな決定事項や方向性以外では大きく関与しておりませんので、問題は起こらないかと思います。穀物の出荷や輸入、警備などでいなくなった兵の代わりに軍部の協力が得られるのであれば、大丈夫だと思います」
「警備や運搬については無論手配しよう。あとは、取り締まり機関も含めてな」
アドランデ将軍が即答する。
政務官らは当初より比較的落ち着いており、特に問題が無かったが、これにより完全に服従と考えて良いだろう。
「他に質問や要望がなければ以上とする。あとの細かい引き継ぎなどは当事者同士で行なってほしい」
キミュケールが統治権移譲の会合の終了を宣言し、立ち上がる。
結局バイゲン王は一言も喋らずに終わった。
その日の夜は野営地で過ごし、翌日からは物資の移送と移民の手配で大忙しとなった。
兵が家族にいないものであっても、希望者は移民することを受け入れ、総勢二万人にも及んだ。
純粋な兵士は五千人もおり、二千人の兵を派兵したにもかかわらず、相当の兵数を抱えていたことになる。
ここからさらに緊急時の臨時徴兵するとなると、さらに多くの兵の動員が予想されたが、農業の担い手がいなくなるという欠点もあり、実際にはこれ以上は厳しいということだった。
これはビーゼスにとって朗報であった。
残った住民から徴兵し、戦力が増強される心配が無いだけでなく、これから一万人の派兵をしてもらうのに、ウィッセン国本国から出さなければならない状況を作れたのだ。
最終的にはウィッセン国も侵攻対象のキミュケールとしては、派兵による弱体化が期待できるのは良いことである。




