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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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王城の引き渡し

「最後に、今回の侵攻について、なにかご報告、御意見はありますか?」


「うむ。まず、地の利、情報量のアンバランスが是正されないと勝利は厳しいな。騎兵や重装兵の運用が限定されるのも痛い。が、やれないことはないだろう。若造の王は死んだだろうから良いとしても、あのアインハイツとかいう将軍では厳しいだろうな。以前いた部隊長の方がよっぽどマシじゃ。総指揮官が誰をやるかが大事だろう。あと、あの森は想像以上に厄介だな。まぁ、ここら辺は言わんでも貴殿らならわかるだろう」


「なるほど。貴重な情報感謝します。アインハイツ将軍は器ではないのはわかります。が、プルミエ国には他に人材がいないのも事実。しばらくは幼い女王を補佐し、軍を統制する立場になるのは彼でしょう。カンナグァ連邦制圧の折には、また検討しましょう」


黒騎士がキミュケールに代わって返答する。


「では、以上だな。夕方まで重装歩兵は全軍休ませてもらう。黒騎士殿に対抗して、それ以上の速度で行軍してやろうとがんばったんだが、とてもとても無理だったわ。足が棒のようじゃ」


そういって、豪快に笑うが、足取りはしっかりしている。


兵も疲労は感じているのは事実だが、そこまでではないはずだ。


万が一交戦になったことを考えて、ある程度休ませてからここに来たのだろう。


(プライドよりも実をとる将軍か。侮れんな。さすが名称と謳われる者だ)





 夕方には無事に一階の搬出作業が終了し、アドランデ将軍が入城する。


ウィッセン国の重装兵が次々と続いて、実質的な占拠がなされる。


代わりにビーゼス国の兵が出て行き、野営準備を行なう。


今夜は、このまま引き継ぎをし、明日の朝にヴィータ国の高官を集め、現状と今後について説明をすることになっている。


搬出作業を指示したりする反面、街の有力者や高官達とキミュケール、黒騎士はすでに簡単な話し合いを済ませていた上でのスケジュールである。


バイゲン王に関しての不満はほとんどなく、現在の治政はかなり評価されていた。


治安も良く農業発展もしっかりとしている。


法も厳格で、不正の横行もない。


富の集中も偏見もなく、国主への満足度は高いものになっていたが、不思議と依存もなかった。


不安はあるようだが、国主が変更になることに対して今のところ大きな反発はないようだった。


キミュケールの分析では、「バイゲンの統治が長かったせいで若干慢性化しており、国民に飽きが来ている」とのことで、「それ以外の者の統治がどんなものかしらないから今の幸せがわからない」というものだった。


黒騎士は言い得て妙だと思った。


歴史的に見たら、かなりの治世だと評価すべきなのだが、当の本人達は圧政を経験したことがないため、わからないのだ。


国主交代を経験したことがないため、想像もつかないのだろう。


「一度、インゼル王が圧政をしてくれれば、我々が再統治したときにやりやすくなるんだけどね」


キミュケールは笑うが、実際のところはどういった政治がなされるかはわからない。


「だが、実際に圧政が行なわれると、オージュス連合国の食糧問題が顕在化するのは間違いないだろう。今回接収した食糧備蓄は三年分あるため、大規模侵攻を考えるなら一年分くらいしか余力は見られない。およそ一年で我々が取って代わるのは厳しいな」


黒騎士は分析すると、キミュケールも同意する。


「そうだね。もう九月末、大規模侵攻を来年三月以降に行なうとしても、どのタイミングで仕掛けるか次第でかなりタイトなスケジュールだよ。まぁ、無理じゃないだろうけど、正直頭数が足りないね。その時には君もいないだろうからね」


「それを言われると申し訳ないな。ただ、今回もビーゼス本国に三人ともにいない状況だ。やはり、頭数の足りなさはあるな。侵攻中に同伴する者、残って統治する者、間隙を縫って侵攻する者・・・・・・ やはり仲間が欲しいところだ。ビーゼス国にはいないのか?」


「厳しいね。手足となって動いてくれる者はいるかも知れないが、自分の判断で臨機応変にとなると、イマイチだな」


黒騎士はそうか、とだけ言うが、実際はそうは思っていない。


アインハイツ将軍が良い例だ。決して無能ではないが、絶大な信頼を寄せられる有能な人物というわけではない。


要は使い方だと思っている。


だが、なかなかに難しいのだろう。




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