王、いらない
「移住の件はいつ実行をするつもりか?」
「まだバイゲン王、兵士達や住民にはその件は伝えておりませんが、荷駄の用意さえできれば、ビーゼス国としてはいつでも受け入れ可能です。二、三ヶ月かけて実施することにはなるでしょうが」
「うむ。承知した。申し訳ないが、すみやかにお願いしたい。これはインゲル王の意向でな。兵力の排除というのを早急にしたいらしい。吸収よりも、排除の方が良いというお考えなのでな」
「わかりました。そうだと思い、憂いを絶つことを含めての兵と住民引き取りの申し出です。お気になさらず」
一般的に考えれば、兵士と住民の一部を奪われることは戦力の補強と税収の低下などの観点から難色を示すのだが、ウィッセン国王インゲルは最初から統治が上手くいくとは思っていない。
その点は自惚れず、現実が見えている。
自国での運用、統制が困難であれば、メリットよりもデメリットの方が目に付いてしまう。
反乱因子となる可能性があるということである。
ゆえに、交渉の段階で、キミュケールが上手く誘導し、こちらが「引き受けて差し上げる」という形をとったのである。
元よりこちらが欲しいものであるのだが、恩を着せることに成功したのだった。
それによって、備蓄してある兵糧を全てビーゼスがもらうことを条件に組み込めたのだ。
あるかどうかわからなかったが、バイゲン王の性格からして、無いわけがない。
実際に、ゆうに三年分はオージュス連合国全体が賄えるくらいの備蓄があった。
「最後の条件だが、ヴィータ国の統治の問題もあるし、これから秋の収穫、冬の到来がある。早くても来年の三月以降ということで良いかな?」
アドランデ将軍は今回の件で、最後に残る条件を確認する。
「ええ、構いませんよ。念の為申し上げると、我々は本気でカンナグァ連邦の制圧を考えております。今度はシーハーフ国にも物資ではなく、派兵をしてもらうように要請し、総勢三万での侵攻を考えております。ウィッセン国においてもその心づもりでいていただきたい」
「承知している。最初は夢物語かと思っていたが、プルミエ国の件や今回の件で、本気なのは十分に伝わった。しかも、手腕も拝見したのでな。十分に現実味があると我々は感じている」
アドランデ将軍の顔は至って真面目だ。
実際に約束が理想されるかどうかはわからないが、可能性はそれなりにあるとみて良いだろう。
「つづいて、未決済事項の確認なのだが、こちらとしては特にないのだが、何かあるかね? 敢えて言うとプルミエ国についての動向次第で発生すると考えているが?」
アドランデ将軍としては、現時点ではないようだ。
「プルミエ国についてはともかく、現時点ではヴィータ国バイゲン王の処遇がこちらからの議題です」
キミュケールとしては重要事だと思ったのだが、アドランデ将軍にとっては違ったのであろう。
苦い顔で、大きくかぶりを振ると、明らかな拒絶の態度を示す。
「いらんいらん。そっちで好きに処分してくれ」
黒騎士とキミュケールは顔を見合わせ、互いに苦笑いをする。
「承知しました。では、ビーゼス国で保護するとします」
とだけ伝えるが、アドランデ将軍も我れ我れの態度を見て、察したようだった。
(上手く利用するよりも、デメリットの方を意識するとは、兵や移民含め、意外と冷静で、慎重、消極的だな)




