表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
179/205

条件の確認

 翌日、アドランデ将軍が到着する。


海岸よりは、やや内陸を歩いてきたのだろうが、野営地からは重装備での行軍である。


しかも、前日まで森の中でも不眠不休の行軍をしてきたとあって、疲労困憊であったのだろう。


日の出とともに入るかと思っていたが、到着は午前十時であった。


城下町前にウィッセン国の兵が集結し、出迎える。


逆に王城と、王城前にはビーゼスの兵が詰める。


黒騎士とキミュケールはわずかばかりの供を連れて、アドランデ将軍の出迎えに行く。


「森からの帰還後に夜通しの行軍、お疲れ様でした。書簡にて一方的な指示を出してしまい、無礼をお詫びします」


歴戦の名将と謳われるアドランデ将軍に対し、頭を下げると、豪快に笑われる。


「はっはっはっはっは! ウィッセン国が無傷で手に入ると思うと些細なことよ。わしはプライドよりも実を優先する。しかし、本当にヴィータ国を制圧するとはな。未だに信じられんわ」


黒騎士とキミュケール王子の双方と握手をすると、率いてきた重装歩兵にしばらく休憩の指示を出す。


視界の端にプルミエ国の輜重隊を見つけると、黒騎士は配下の者に指示を出し、王城の一階にある武器、防具、書物などの運び出しをお願いする。


今朝になって持ち込まれるものも多く、すでにかなりの量であるが、弓矢関連と書物を優先するように指示してあるので、最低限それくらいは何とかなるだろう。


「ただいま王城から我らの物資を搬出します。厩舎からのてったいなど、今しばらくお待ちいただきたい。おそらくは夕方には明け渡せるでしょう」


本当はすぐにでも明け渡ししたいのであるが、国中から集めた武器、防具などの量があまりにも多いため、搬出に時間がかかりそうなのと、書物の選別に時間がかかっているのだ。


「いかがいたしましょう? 先に休憩されますか? それとも会議の場を設けますか?」


キミュケールが尋ねると、アドランデ将軍はしばらく思案し、


「先に会議をお願いしても良いかな?」


「承知しました」


キミュケールは同意し、あえて野営地の端に天幕を設置し、会議の場とした。


敵陣に自身と黒騎士のみをおくことで誠意を見せたのだ。





「外での会議、失礼します。こちらの方が敵意がないことが伝わって良いかと思いまして・・・・・・」


あらためて、キミュケールが切り出す。


キミュケール側とすれば、このままアドランデ将軍を暗殺し、ヴィータ国兵士を扇動してウィッセン国の兵を駆逐することも可能である。


当然、逆もまた然りであり、ウィッセン国もすでに二千の兵がいる。


ビーゼスの兵を駆逐し、ヴィータ国を占拠することが可能なのである。


当然、アドランデ将軍もそれはわかっている。


そのために、少数で出迎え、野営地に会議の場を設けることで害意がないことを示したのだ。


「はははははは。さすがに、敵意がないことはわかっておるわ。安心せい。我が方も同様だ。そこまで強欲ではない。ヴィータ国が手に入るのだからな」


豪快に笑うが、名将として知られた男である。


油断はできない。


「受け渡しは夕方にできますが、条件の確認と、未決定事項の決済、及び、カンナグァ侵攻についてお話をさせていただきたい」


キミュケールが切り出すと、アドランデ将軍も大きく頷く。


「まず、ヴィータ国は引き渡しをいたします。約束していた見返りですが、ヴィータ国の情報と技術、兵士や一部要人と家族、当面の食糧、最後に大規模なカンナグァ連邦侵攻時における一万以上の派兵ということでお間違いないでしょうか」


「ああ、間違いない。国王の名代として、そこは確約しよう。ただし、当面の食糧は、ヴィータ国に蓄積がある場合に限るのと、本当に住民の一部を移住させることが条件だがな」


キミュケールは頷いて答える。


「ヴィータ国の食料庫はすでに確認したから問題ありません。これを頂戴します。幸い、来月には穀物の収穫が始まるから、備蓄分がなくなったところで、国民が飢えることはないし、住民が減った分、来年へ回すことすらできるでしょう。もちろん、オージュス連合国の他の国に対しての取引は今までヴィータ国が行なっていたとおりにお願いしますよ」


アドランデ将軍は笑顔で頷く。


「ひとつ、懸念があるのだが、我らがヴィータ国を支配下にしたとして、今まで通りの農業は可能だろうか?」


キミュケールも黒騎士もやや沈黙するが、意を決して回答する。


「わかりません。ただ、おそらくは問題ないかと思います。技術や人は我が国が頂戴することになっておりますが、農業に関することは別です。ヴィータ国の最大の強みはその穀倉地帯にあります。これがなくなると、オージュス連合国全ての台所に直結し、全国的な食糧問題となりますので、維持できるだけのことはすべきかと存じます。最終的な統治は貴国の判断となりますが、数年間はヴィータ国の高官に現状維持を指示し、内政面では政務官に任せてしまうのが良いかと思います。税制含め、口出しを一切することなく、現状を引き継ぎ、五年後より十年かけて変えていけば良いでしょう」


「むむぅ。それほど時をかけねばならぬか・・・・・・」


アドランデ将軍は眉をひそめ、苦い顔をする。


「私も同意見です。数百年の歴史ある国を十五年かけて変えるのでも十分に性急です。それよりは目先の利益を優先したり、上位に立ちたい意識から反発をくらう方がダメージが大きい。先にキミュケール王子が述べたように、ことはウィッセン国に留まりません。オージュス連合国全体の食糧問題となりますゆえ、しばらくは統治については慎重になるべきかと思います。いうなれば、奥方を怒らせ、メシをつくってくれなくなった際をお考えいただくとわかりやすいかと・・・・・・」


黒騎士がそう言うと、例え話が面白かったのか、膝を叩いて笑っている。


「確かに、うちのカカアがヘソを曲げて、晩飯を作って貰えないのは堪えるわ! 機嫌の取り方も含め、納得がいく。ご助言感謝する。黙って従うとしよう」


自身の嫁を想像したのか、まだ笑っている。


よほどツボにはまったのであろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ