制圧の全貌
「まず王城ですが、王が仰るように、新設した厩舎がそのまま王城へと繋がっておりましたので、簡単に内部に入り込めました。事前に王城内部で戦えるようにショートソードと盾、重装を用意しておりましたので、百人で駆け上り、真っ先にバイゲン王を確保、後はその事実を突きつけて、城内の抵抗を削ぎ、三百の兵で制圧したという次第です」
キミュケールは淡々と説明をするが、ここで今まで冷静だったバイゲン王が初めて声を荒げる。
「そんなことはわかっておるっ! どうして内通者もなく、重装備や武器が調達でき、王城に持ち込むことができたんじゃ! 検問、検閲でそんなもの持ち込んでいたらわしに報告があるはずじゃ!」
あまりの大声だったのか、入り口より心配した兵が入ってくるも、黒騎士が制し、退出を促す。
息を切らすバイゲン王を尻目に、キミュケールは答える。
「馬の飼料、干し草ですよ。二十台にもおよぶ草の下に槍とショートソード、盾、鎧と必要なものは用意しておりました。堂々と運び込み、厩舎に運び込みましたが?」
バイゲン王は絶句し、過去のやり取りを思い出す。
こちらが用意するといった馬のエサを自国で用意すると固辞した時のキミュケールとのやり取り。
決して触ることがないようにとの検閲の報告の際のやり取り。
思い当たるところがある。
肩を落とすバイゲンに、黒騎士がもう一方の解を示す。
「警備訓練と称し、国境付近で訓練を行ないました。一度目の訓練で、訓練自体の警戒心を薄れさせ、連絡がギリギリだということも印象づけることができたと思います。農家の警戒も取れました。次いで行なった二度目の訓練も同様です。ただ、訓練後に野営をすると見せかけて、夜通し海岸を馬で北上しました。海岸の砂は馬の疲労を軽減し、走る音も消してくれました。朝方には湿地帯のラインを過ぎることができましたよ」
そこまで言うと、バイゲンは連絡がギリギリだったことを思い出したのか、歯ぎしりをする。
キミュケールが代わりに続ける。
「事前に一週間ありましたからね。合同訓練と称して、湿地帯から抜けてくる敵に対してどうやって対抗するのかということを散々講釈を垂れておきました。加えて、来るとしたらカンナグァ連邦でもプルミエ国でもなく、ウィッセン国だろうと。彼らはプライドも高く、重装備のまま湿地帯を堂々と正面から荒らしつつ進んでくるだろうから、自分ならとにかく正面を強化すると言ったら頷いてましたよ。まぁ、昨夜は原因不明で眠っちゃった兵がいたみたいだったので、海岸側は我々がこっそりと夜勤を代わってあげましたけどね」
いたずらっ子のような笑みを浮かべると、黒騎士に向かって目配せをする。
(原因不明で寝てしまった兵、ね。なるほど、だから海岸方面の索敵が機能してなかったのか)
バイゲン王は拘束された手を前に投げ出し、身を玉座に沈める。
「プライドの高いウィッセン国が重装を解くことはあり得ぬ。田畑が荒れようとも正面から来るというのもそのとおりじゃろう。だからこそ、わしも日頃から仮想的としてウィッセン国を考え、兵に同じことを言っておったわ。機動力を旨とするビーゼス国の黒騎士宰相が率いてくるのであれば、話は別じゃ」
がっくりと項垂れ、先ほどの鋭い眼光はもうない。
「で、これからわしをどうするつもりじゃ?」
(国民よりも、自分のことが最優先か・・・・・・ そういえば、国民のことを全く質問してこないな)
黒騎士はバイゲン国王の考え方を分析しながら、王を見つめる。
「実のところ、まだ決めていません。我々が引き取るのか、ウィッセン国に明け渡すのか、どちらかになるでしょう。我々が引き取ることになった場合は、ビーゼス国で余生を過ごしていただくことになるかと思いますが・・・・・・」
「ウィッセン国であれば、命はない、と」
なかば諦めたようにバイゲン王は呟く。
「それはわかりません。人望あるバイゲン王を殺したとあれば、国民の反感も大きいでしょう。統治に支障をきたすかも知れません。名目上保護とし、幽閉した上で代役が統治する方が現実的でしょうが・・・・・・」
キミュケールは一般論として説くが、インゲル王が一般論で動くかどうかは不明である。
元より、いがみ合っていたもの同士だ。
損得ではなく、個人的な感情を優先したとしてもおかしくはなく、そういうことをやりそうな人物なのだ。
お互いに。




