武装解除、降伏勧告
ちょうど朝日が昇り、南東から白い光がキミュケールの半身を照らす。
「ヴィータ国の兵士諸君。これから僕のいうことを聞いて欲しい。全て真実だ」
そう言って、間を取り、兵らが注目していることを確認する。
ざわついた兵達が静かになるのを見計らって、演説を再開する。
「ヴィータ国王バイゼルは我々が保護している。そして、王城は僕らビーゼス国が制圧した。今、ここにいる諸君らも目の前にいるビーゼスの兵とウィッセン国の騎兵に無力化されているのは実感しているだろう。つまり、ヴィータ国は我ら連合軍の前に征服されたということだ」
ヴィータ国兵たちが動揺し、ざわつく。
怯えるもの。
敵意をむき出しにするもの。
膝から崩れ落ちるもの。
様々な感情が各人に走るが、全体的にはまだ信じられないという不信が見て取れる。
黒騎士は、スッと右手を挙げる。
ウィッセン国の重装騎兵(といっても、今は軽装だが)は姿勢を正し、槍の石突きを地面に付けて、槍を立てる。
いわゆる整列の構えを取る。
完全に威嚇なのだが、相手の内心をいぶり出すには都合が良い。
ざわついていたヴィータ国の兵が急に姿勢を正し、整列する。
完全に同調効果が得られたわけだが、ウィッセン国の指揮官は嘲笑する。
黒騎士は反対の評価をしていた。
(ここでウィッセン国の兵ならば敵愾心を剝き出しにしたかも知れない。が、ヴィータ国の主戦力は弓兵だ。慎重で臆病なくらいがちょうど良い。正面から突っ込んでいく兵科じゃないからな。国王の性格が出ているのか、良い兵だ)
黒騎士はキミュケールを見ると、頷き、彼もまた頷き返す。
「明日の昼頃にはウィッセン国の本体が到着する。そこで王城を明け渡し、正式にウィッセン国に併合されることになるだろう。諸君らはここで丸二十四時間拘束させてもらう。ただし、武装解除に応じるのであれば、個別に帰宅を許そう」
併合後のことについては言及しないようにし、目の前の現実と二十四時間後までのことだけを示すのは利口なやり方だろう。
しかし、ハイそうですか、と武装解除して帰宅するものもいない。
キミュケールは配下の指揮官に指示を出し、十人ほどのヴィータ国兵を招き入れる。
先ほどまで王城にいて、王の警護、王城の警護にあたっていた者達である。
すでに武装解除されている。
全員ではないのだろうが、それでも何人かは彼らがどこの所属で、今本来ならば何の職務に就いていなければいけないのかを知っているのだろう。
王の拘束と王城の制圧が真実であると信じるに値する現実を知る。
指揮官に促され、登壇すると、うち数名が大声で仲間に告げる。
「今、キミュケール第一王子が言ったことは全て真実である。我が王は捕らえられ、王城は占拠された。王城に残っているものは極少数の使用人を除き、誰もおらず、ビーゼス国の兵が管理下に置いている。我々は負けたのだ」
そこまで言うと、再びざわつきが起きる。
他のものが次ぐ。
「徹底的に抵抗するのも間違ってはいないと思う。まだ兵は一人たりとも失っていないのだから。だが、現状を見て欲しい。王は拘束され、王城は占拠されている。そして、我らの前にはウィッセン国の騎兵とビーゼス国の兵がいることを。私は、無駄に命を散らす必要は無いと思っている。だから、武装解除に応じ、ここにいる。皆、自分の判断で決断して欲しい」
一瞬の静寂があり、次のものが発言する。
「私も同意見だ。すでに我々は負けたのだ。用意周到に計画を練られ、この現状が全てを物語っていると思わないか? 誰がこの状況を予想した? 逆に、問おう。ここからビーゼス国のキミュケール第一王子、黒騎士宰相の予想の上を行き、盤面をひっくり返す策があるものはいるのか? いるならば、私も死力を尽くして戦おう。だが、先のものが言ったように、無駄死にはゴメンだ」
さらに他者は言う。
「俺も同じ意見だ。俺は家族を守るために兵になった。国民を守るために兵になった。でも、犬死には嫌だ。信じて良いのかどうかはわからないが、ビーゼス国の王子は、国民の命は保障すると言ってくれている。俺らの命もそうだ。だったら、俺は今は甘んじてこれを受け入れようと思う」
次々と弓矢を落とすものが現れ、軽装を解いていくものが出る。
全ての武装解除をしたものが、前に出て、兵の間を通って、城下町へと消えていく。
一人出ると、次々と後に続くものが出る。
が、中にはそうでないものもいる。




