王城の占拠
指揮官には前方を七百、後方を三百の兵が向くように指示をし、城下町の入り口を封鎖させる。
城下町前の開けた地には夜明け前にもかかわらず、千を超える軽装歩兵と弓兵がこちらを向いている。
兵数ではやや向こうの方が多いかも知れないが、軽装騎兵という兵科の有利は相手もわかっているだろうし、何よりも夜襲、奇襲である。
相手も何が何だかわからないといった状況で、動くに動けないというところが本音であろう。
正面から来ると思ったら、側面から割り込み、いつの間にか後ろを取られていたわけである。
訓練でもこのシチュエーションは想定していなかっただろう。
相手の兵の表情も様々である。
城下町の兵舎、非番の兵、王城にはまだ数千の兵がいるだろうが、動くに動けないはずだ。
王城の前に集結している可能性が一番懸念されるが、そこはキミュケールが対応してくれることになっている。
黒騎士はそのまま待機を命じると、単騎で王城の入り口に向かう。
王城を見上げると、まさに塔のような高さで、段階的に城壁が組まれており、多数の弓兵が配置できるような構造だ。
あまりに切り立っているため、落石、投石の効果も高く、外壁を上ることも困難であろう。
入り口も少なく、弓兵が多数配置されると難攻不落となろう。
(まぁ、その分、内側からは脆いという欠点があるがな)
灯台を改造したのかもと思っていたのだが、あながち間違いではなさそうだ。
王城の前に到着すると、キミュケールの弓騎兵がいまは重装歩兵の姿で二百人整列しており、王城の入り口を封鎖している。
入り口付近には取り囲むように武装した兵が多数いるが、全く手が出せていない。
王城を見上げると、バイゲン国王が捕縛され、剣を突きつけられた状態で窓から姿を見せているため、誰も手出しができないのだ。
しばらくすると、王城の門が開き、キミュケールが出てくる。
黒騎士を見ると、近寄って握手を交わす。
「やあ、黒騎士宰相。お早いお着きで。だいぶ来やすかったんじゃない?」
「あまりに来やすかったんで、罠かと思いましたよ」
王城の入り口を見ると、キミュケールの部隊に促されるように、次々とヴィータ国の兵士達が武器や鎧を纏わずに王城から出て来る。
王城の中にいた兵が全て閉め出されてきたのだろう。
全ての兵が閉め出されたのか、ビーゼス国の兵もまた出てくる。
「王城内の全ての兵の武装解除ならびに、城外への誘導が完了いたしました。バイゼル王は引き続き捕縛し、窓から見える位置に配置しております」
キミュケールは以下の兵が敬礼をしながら報告をする。
「よし、では、王城内には二百名の兵を残し、それ以外の兵は王城前に集結せよ。兵を再配置する」
「はっ。承知しました」
キミュケールは集結した兵に再度配置を指示していく。
王城には、メインとなる出入り口の二箇所、王の監禁場所、王の間の四箇所に兵を分配し、原則として内側から施錠をして封鎖する。
王城の東西南北に百名ずつ配置し、正面には重装歩兵が二百名そのまま加わる。
残り二百名は城下町の入り口に移動し、ウィッセン国の騎士に合流、先導することになる。
キミュケールもまた城下町入り口に移動し、外で対峙しているヴィータ国の兵に向けて演説を開始する。




