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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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偵察と考察

 あたりを見渡すと波の音が聞こえないことに気付く。


静かな夜だ。


運河みたいなものとさっき地図を思い返したが、波がないというのはそういうことなんだろうなとふと思う。


対岸はウィッセン国だ。


近くの兵もこの海のことは知っていよう。


「この海は運河というか、海峡となっているようだが、どんなものなのだ?」


黒騎士が尋ねると、近くの兵が答える。


「えっと、仰るとおり海峡となっております。北から南にかなり早い流れでして、泳いで渡ることはできません。船で渡ることになるのですが、かなり流されてしまうので、流される前提で船を出します。ですから、いつもはビーゼス国の港に漂着するような形での上陸ですね」


聞き方が曖昧だったせいで、何を答えて良いのか迷ったようだが、的確に答えてくれた。


「魔獣はでないのか?」


「出るには出ますが、それほど高頻度ではありません。なので、出ない前提で船を出します」


特に何が聞きたかったわけではないのだが、海の違いは大きいものだと感じた黒騎士だった。


「そうか。ありがとう」


黒騎士は礼を述べると、ちょうど斥候が戻ってくる。


十分くらいで調べられる範囲なのでそう遠くはいっていないが、出さないよりは良い。





「海岸偵察から戻りました。特に異常はありません」


先に戻った海岸方面の偵察部隊が戻る。


しばらくすると、湿地方面に偵察に出していた兵が戻る。


「湿地方面の偵察から戻りました。遠くにかがり火のようなものが見えました。明るい点は動いておりませんでしたので、かがり火で間違いないかと。辛うじてといったくらいなので、五キロくらい先だと思われます。なお、ヴィータ国の哨戒兵らしきものは確認できませんでした。」


黒騎士は感覚的にもっと手前かと思っていたのだが、予想よりもだいぶ進んでいたようで、頭の中で地図と照合する。


いずれにせよ、進むしかないのだが、あまりにも早い到着だと、接敵のタイミングが狂ってしまう。


狼煙は上げるが、キミュケールが王城を制圧するのが遅れると、元も子もない。


この作戦のキモはタイミングなのだ。


王城の制圧が先、黒騎士の到着が同時か後にならないと意味が無い。


夜明け直前にキミュケールが行動を起こす予定だが、ともに狼煙を上げることとなっている。


(本当に五キロ先にかがり火があるとすると、あと一時間の徒歩で湿地帯ラインを超えることになる。早すぎるな・・・・・・)


黒騎士は思案した挙げ句、一時間だけ行軍することのする。


「一時間、徒歩にて行軍する。ここからはいつ会敵してもおかしくない。見つかった際はすみやかに始末せよ」


そう言うと、慎重に歩を進める。


疲労もあって、馬が鳴かないでいてくれるのがありがたい。


本来ならば、見知らぬ土地と闇夜に怯え、大暴れする馬がいてもおかしくないのだが、特にそう言った様子もない。


馬の足音も海岸の砂で消され、気配を最小限にしているのに気付いたとき、黒騎士はハッとする。


(そういうことか! 対岸はウィッセン国。闇夜とはいえ、風土がここだけ似ている分落ち着いているのか。対岸で夜の訓練をしたことがあればなおさらだ。それに、この海岸の砂がクッションになっており、馬の負担が大幅に軽減されているとみた。砂に足を取られ、行軍速度を遅く計算していたが、逆だ。馬の疲労が少ない分、長時間の移動ができたのだ)


自分の計算と実際のズレの理由が納得がいったことで、黒騎士は時間のゆとりができたことに安心を得る。


(これは絶好のチャンスだ)

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