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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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北への行軍

 夕方、全ての準備を終え、城下町前にやってくる。


黒騎士の横には先に到着し、伝令係となってくれていた近衛兵が控え、ビーゼス国の兵が待機する。


アドランデ将軍、アインハイツ将軍、エルドス近衛兵長の三者宛の書を近衛兵に渡す。


ビーゼス国の兵には、シーハーフ国から預かっていた輜重をビーゼス国に運び込むことを指示し、ビーゼス国で移民受け入れの準備をするように伝える。


すでにある程度の準備はできているが、最終調整は必要であろう。





 居並ぶウィッセン国の重装騎兵を見る。


指示通り、馬鎧を全て外し、荷馬車を用意している。


すみやかな行軍と野営地への用具の放棄を理解してくれたようでありがたい。


「なるべく早く、北方の国境付近である湿地帯前に到達したい。できれば、やや海岸寄りに訓練地を設定できるように、これから半日かけて移動することになる。場所は必達目標だ。一時間ごとに馬を休ませるため、馬と徒歩を交互に行ない、行軍速度の維持を最優先とする。荷馬車はその明日の荷馬車まで到着すれば構わない。装備が重いなど、行軍が遅れそうな場合は無理せずに荷馬車にぶち込め」


黒騎士の号令とともに、ウィッセン国と重装騎士は行軍を開始する。


すでに、野営地、兵舎は完全に撤収済みだ。


明日の朝にはウィッセン国のアドランデ将軍たちは帰還するだろう。


といっても、すぐに我々を追ってくることになるのだが。





 通常の馬での移動で約半日かかる。


実際、早駆けに近い状態で前回は朝に出発し、到着したのは午後三時だった。


今回は重装である。


前日の夕方からの出発とはいえ、午後一時には到着したい。


日没と同時にまた出発するからだ。


むしろそこからが本番だ。


馬と兵を休ませるだけの時間を取らねば、そこからの行程が厳しいものになる。


常歩なみあしと呼ばれる時速五キロメートルで一日に五十から六十キロメートルの移動が可能な歩き方があるが、長距離ではこの歩き方が一番最適だ。


次に、前回行なった速歩はやあしと呼ばれるものが時速十キロメートルで、一時間が限度なため、休みながら三十から四十キロが可能。


最後に駆足かけあしがあり、時速二十キロメートルで三十分が限界、三十キロ進むことが可能と言われる。


襲歩しゅうほと呼ばれる全速力もあるが、当然短距離専用で五分しか持たない。


前回、訓練後に黒騎士がひたすら計算を行なっていたのは、これらの組み合わせでどうやったら最短で目的地に到達できるかである。


なお、通常の重装歩兵であれば、二時間が活動限界であるため、徒歩の場合はそれも加味しなければならない。


さらに、黒騎士には条件がのしかかる。


最適解を示すことで、ウィッセン国に重装歩兵、重装騎兵の今後の行軍に役立てられても困るのだ。


プライドの高いウィッセン国のことである。


簡単に重装を解くことはしないであろうが、最適な運用方法をわざわざ教えてやる必要はない。


結果、徒歩と常歩を交互に行なうものとした。

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