キミュケールの理想
四年ぶりの第二王子の帰還に国が熱狂し、セレモニーなどが行なわれる。
政治家や豪商、各国からの祝辞対応など、めまぐるしく行なわれていき、あっという間に一ヶ月が過ぎ去る。
しかし、そのイベントが逆に三人が集まる口実となる。
各地に出向いたり、通常の政務が停滞し、国内で固まって動くことが多いため、必然的に三人の時間ができたのは嬉しい誤算だった。
黒騎士はタクソケール専属の護衛として紹介され、ほぼ全てのイベントに帯同、護衛の特性もあって数メートルの位置で全てを見聞きする。
警護に必要ということで、各国の情勢や、相手の情報を十分に説明されたのも大きく、要人と呼ばれる人の把握、オージュス連合における力関係や人間関係を学んでいく。
兜を外すわけにはいかないので、食事は自室で行なうことになるが、会食に立ち会うことで食事や服装、礼儀などの文化も吸収し、およそ国の中枢に関わる上での必要なものは得られたのだ。
逆に、こういったイベントがなければ各国の要人に会うこともなかっただろう。
それだけに運が良かったとしかいいようがない。
打ち合わせと称し、イベント前に三人で時間を取り、短期、中期、長期的な策謀をキミュケールは話す。
それに対する意見をクロノ、黒騎士に求め、黒騎士もまた忌憚なく私見を述べる。
そうして、策を煮詰めていく。
「理想は、東はホルツホック、フラハー、ヘスを落とし、カンナグァ連邦に中央まで勢力下におさめること。オージュス連合を一つに統合すること、バラン王国を完全に滅亡、制圧すること。これができるのが理想」
キミュケールは歴史上誰もなしえないことを口にする。
「カンナグァ連邦に関しては不可能ではないな。あくまでも難攻不落なのはフェルゼン王国、ボクスネー峠であり、他はどうとでもなる。ただ、自給自足ができるか、戦力維持ができるかという問題が残り、結局撤退することになっているのが歴史だ」
黒騎士は過去の歴史から決して不可能ではないと思っている。
しかし、最終的にカンナグァ連邦に戻ってきている事実もまた歴史上明らかだと説く。
「まず、馬鹿にしないことに驚いたよ。一笑に付されるかと思った」
キミュケールは愛想笑いをしているが、普通の反応ならばそうだろう。
歴史上なし得たことがないことを口にしているのだ。
しかし、この数週間でオージュス連合国を知る限り、まったく不可能だとは思わなかった。
「そうだね。カンナグァ連邦の中央、西側を長期的に支配下に置くことは課題だと思う。オージュス連合についてはどうだい?」
「話に聞いただけではわからないな。こっちにきてまだ数週間だ。いかんせん情報が足りない。ただ、シーハーフ国が厳しいな。バラン王国と手を組んだり、総力戦になれば別だが、リスクが高い」
シーハーフ国の政治や自給率の高さ、何よりも城壁構造を聞いていたため、一筋縄ではいかないと感じていたのだ。
「ほう。では、逆にシーハーフ以外は何とでもなると?」
意地悪そうな笑みを浮かべてキミュケールは笑うが、黒騎士は兜の中で真顔で返答する。
「正直、それほど難しいことだとは思わない。むしろ、結構簡単じゃないかな。各国の特徴が顕著であるがゆえに、弱点丸出しだから。シーハーフ国だけは単独で国として成立する上に、防御力が半端ないから厳しい。しかも、選挙でトップが決まる分、トップに馬鹿が立ちにくい。バラン王国を利用するが良いと思うが、逆につけ込まれるリスクが高そうだ」
「ふーん。オージュス連合はそんなに弱いかい?」
タクソケールが口を挟む。
「申し訳ないが、弱いな。聞けば聞くほど、なぜ今まで無事だったのか疑問になる。たぶん、カンナグァ連邦が攻めてこないという環境がそうさせていたに過ぎないな。バラン王国にだけ注視するなら辛うじてといった感じだな」
「僕もそう思うよ、黒騎士。ところで、バラン王国には僕も留学してたんだけど、あの国はかなり強大だ。つけいる隙はあるがね」
「バラン王国は全くわからんな。褐色の人種、絶対王政、魔法文化の発達、どれくらいしか知らない」
実際に、未知の国のイメージが強く、あまり知らない。
「先ほど、理想は、と言ってましたが、現実的にはどう考えてますか?」
黒騎士は、改まって、キミュケールに尋ねる。
「まず、オージュス連合については、シーハーフ国以外は統一できるんじゃないかと思ってる。シーハーフ国とは仲良くする方が賢明だね。ヴィータ国の制圧で得られる食糧でどこまで制圧したカンナグァ連邦の維持ができるか・・・・・・ 難しいだろうね。シーハーフ国と仲良くして、バラン王国に攻め入れば、良い線いくんじゃないかなと思ってる」
たぶん、本音だろう。
妥当なところだと思う。
「なるほど。では、ビーゼス国、プルミエ国、ヴィータ国、ウィッセン国でカンナグァ連邦に攻め入り、ボクスネー峠で惨敗、戦力の大半を失う過程でチカラを温存していたビーゼス国が四国を統一っていう作戦で良いのかな?」
黒騎士は、先のマータとの話と組み合わせて情報を整理、まとめる。
「ははっ。すごいな。話が早くて助かるよ」
キミュケールは笑顔になると同時に、黒騎士にやや恐怖を感じる。
(学校の成績はほとんどC,Dと聞いていたけど、そりゃあ、殺したくなるよなぁ、これじゃあ)




