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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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クロノ、刺し殺される

 書状を受け取る段になって、近くの兵がクロノとタクソケールに短剣を刺しに来る。


左手に血糊袋を持っているのが見えなかったら、避けていただろう。


剣は本物だったようで、刺すフリをしながら、腋をすり抜けていったが、瞬く間に血糊で胸が染まる。


横目で見ると、タクソケールも同様だ。


クロノは倒れるフリをしながら、後ろを見ると、テイザンに矢が複数放たれていたが、巧みにかわし、単身森の中へと姿を消していた。


(やはり、お前は知らされていなかったか。上手く逃げおおせてくれよ)


マータとアッサーラは大笑いし、ハイタッチを交わしている。


「じゃあ、俺もテイザンを追いかけて森に逃げるわ。襲われたことになっているわけだからな。任務は達成したけど、戦死者を二名出しちゃった隊長として、しばらくは謹慎かなぁ。ま、一千万ジェニーと仲良く家でおとなしくしておくよ」


そういって、森に向かって歩いて行く。


(金で友人を売りやがったか。タクソケールに一千万は納得のいく金額だな。むしろ安い。私は一番の友人だからついでか?)


死体のフリをしながらクロノは考える。


アッサーラが森に消えるのを確認して、弓騎兵が形ばかりの追撃をする。


「まて、逃がすな! 射て、射て! 絶対に逃すな、殺せ!」


口々に言うが、実際には見当違いの方向に矢を放つ。





 首の方向を変えるわけにもいかず、森を見ていると、後ろで気配がする。


「いやぁ、マータ先生ありがとうございした。お陰で、俺が無事に死んだことになりました。約束通り、国に帰ったらカンナグァ連邦に侵攻する準備を始めます。三年以内には二、三万の軍勢でフェルゼン国、ボクスネー峠まで侵攻することをお約束します」


さっきまで死んだふりをしていたタクソケールがマータに対して話しかけている。


わざわざ話しかける相手の名前を言って、今回の目的、今後の予定などを言ってることから、これは私に説明していると捉えるのが自然だろう。


アドリブでこんな台詞が思い付くヤツではないから、この台本を用意したヤツがいるということだ。


(少なくとも、ここで自分も立ち上がるべきではないな。何も知らないテイザン、一部を知って利用されたアッサーラ。おそらく全てを知っているマータ。それに台本を書いたヤツと従うタクソケール・・・・・・)


クロノは今ある状況と情報を整理していく。


(本来なら私は殺されていたな。タクソケールに救われた形だ。が、これも台本通りなのか? それともタクソケールの独断か? いや、あらかじめ血糊が用意されていたということは台本通りということか)


「いいのよ。約束通り、カンナグァ連邦への侵攻は実行してね。そこの銀髪をやっただけでは半分しか果たしたことにはならないんだから」


マータは下品に笑う。


クロノはその台詞に疑問を抱く。


自分にそれだけの価値があるとはさすがにそんな自惚れはない。


(私に半分も有るのか? 数万の大軍で攻め込むことと同じ価値とは思えん・・・・・・)


「俺としては士官学校でずっと一緒だった友人を殺したんだ。結構大きい代償だよ。でも、それほどの価値があるの? クロノには」


タクソケールは聞きたいことを聞いてくれる。


これも台本通りなのだろう。


「正直私もそこはわからない。個人的には大嫌いだけどね。特例だかなんだか知らないけど、魔法科から強制転科して衛生科でしょ? 魔法ができるから強制転科って理由も、魔法科を舐めてるし、衛生科は一度卒業してからでないと本来は入れないのよ。なんでこんな銀色の髪の毛した素行不良が特別扱いなのか、私にはわからないわ」


明らかに声の調子がヒートアップしており、ヒステリックになっていく。


(私は、このオバサンにそこまで嫌われていたのか。髪の毛の色と素行不良は関係ないと思うが・・・・・・)


クロノはマータも本当の理由はわからないということが判明しただけでも収穫と考えていた。


「クロノはサボり癖があって、全力で取り組まないけど、素行不良じゃないよ」


タクソケールがフォローを入れてくれているが、バレないように過去形で言って欲しいと心で思う。


「特別扱いしたのはアシム校長だろうけど、殺すように指示したのもアシム校長だよね。そこがよくわからないんだよなぁ」


タクソケールはまたしても良い仕事をする。


うまく情報を引き出してくれる。


「そうね。たしかにアシム校長の指示だけど、なんでかしらね?」


声の感じからすると、マータもまた本当に知らないのだろう。


「それよりも、特別扱いで思い出したわ! 今年二年に上がった子にもいるのよ。魔法科を強制転科で衛生科になった子が。ちっちゃくてかわいい子だからかわいがってあげたのに、ふざけたことして! アンタと一学年かぶってるから知ってるんじゃなくて?」


去年の不倫事件を知らないヤツはいない


卒業生にも広まっていることを知らないのは当人だけだ。


ましてや、任務を受け、学校にもたまに出入りしている我々が知らないわけはない。


学区内では有名な美少女三人組だ。


クロノは衛生科の後輩でもある少女を思い出し、笑いを堪えるのに必死だ。


死体は笑わない。


タクソケールも何て言って良いか考え、固まっているが、さきほどのマータの台詞に周囲が反応したようである。


王子をアンタ呼ばわりしたことに、兵達が敵意を向ける。


マータもそれに気付いたようで、わざとらしく咳払いをして、話を変える。


「あんまり森に戻るのが遅くなると、怪しまれるから私も戻ることにするわ。とりあえず、約束は果たすように!」


そういって、森へととって返し、先ほどの茶番が繰り返される。

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