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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
156/205

明らかな罠

 「お待ちしておりました」


先頭の騎士が騎馬から降りて、深く礼をしたかと思うと、三百にも及ぶ騎馬が居並ぶ。


半数は弓矢を所持している。


クロノは直感的に危機感を感じ、いつでも逃げれるように最後尾に立ち、森を意識する。


そばにいたテイザンを見ると、明らかに不信感を抱いており、思うところは同じのようだった。


テイザンの良いところでもあり、大きな欠点でもあるのだが、感情がストレートに表に出る。


大抵は不機嫌で、いつもイライラしているのだが。


逆に、隠し事ができないというのもあり、クロノはそこに信用を置いていた。


この状況を少なくともテイザンは知らず、不審に思っていることは間違いない。


「なんか怪しいぞ。いつでも離脱できるようにしておこう」


小声でテイザンに耳打ちする。


「ああ、わかってるよ!」


苛立ちを隠さずに答えるところがテイザンらしい。





 アッサーラとマータはニヤニヤしており、表情からは窺い知ることができないが、マータのそれは何かしらの裏を感じさせた。


警護した要人がアッサーラ達に向き直り、大声で礼を述べる。


「ここまで無事に送り届けてくれたことに感謝する。ついては諸君らの任務達成を示す書類とわずかばかりの謝礼を用意した。タクソケール殿、クロノ殿、前へ」


クロノは罠を確信する。


(指名するなら、マータ先生か隊長のアッサーラだ。百歩譲ってタクソケールは王子だからないわけではないが、アッサーラ達の前でそれとわかるようなことをするわけがない)


クロノは自分とタクソケールが指名されたことで罠を悟るが、「任務達成を示す書類」と言われると、受け取らないわけにはいかない。


横のテイザンに小声で「逃げろ。助けようとするな。逃げることだけを優先しろ」と言い、マータとアッサーラを見る。


相変わらずニヤニヤしており、顎で前に出るように促す。


(この二人は知っているな・・・・・・)


タクソケールをみると、にこやかにしている。


いつもなら、こういった重大な判断をすべき状況では人に頼る男だ。


「え、どうしよう。クロノ、どうする?」


在学中に何度も聞いた台詞だ。


そのタクソケールがにこやかにしているということは、「コイツも知っている」ということだ。


だが、人を売ったり、裏切ったりするヤツでは決してない。


クロノは思案するが、決断できない。


「指名されちゃったよ。おい、クロノ行こうぜ」


と言って、腕を掴んで、引きずるように要人に歩み出て行く。


「信用して。ワザと殺されたフリを」


タクソケールは小声でクロノに伝える。


その声を聞いて、クロノは決意を固め、従う。

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