表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
154/205

フォウ王女への挨拶

 一通りの準備を終え、野営地の輜重隊をビーゼス国に移動指示を出す。


シーハーフ国からの物資は悪いがそのまま徴収させていただくことにする。


フォウ王女に挨拶をすべく、ひまわりの庭園と赴く。


事前に待ち合わせの約定を侍女を通じて取り付けたあったのだ。


「お呼び立てして、申し訳ございません。フォウ王女。しばらくこちらに伺うことができなくなるかも知れないので、念の為ご挨拶をと思った次第です」


黒騎士はまだかろうじて咲いている一角に移動して観賞しているフォウ王女に話しかける。


言葉は丁寧だが、うちにはお互いに親しみがこもっており、数日の会話が距離を縮めていたことが窺い知れる。


「今朝、戦場から戻ってきた近衛兵の方から聞きました。リアが戻ってくると。亡くなられた方も多くいたかと思いますが、リアが無事で安心しました。私にとって大事な方ですから」


フォウ王女は嬉しそうに微笑んで、頭を垂れたひまわりを下から支えるように触る。


「それは何よりです。戦争ですから、多くの兵を失ったことでしょう。残された家族の悲しみを考えるといたたまれません。しかし、帰ってきてくれることはこれほど喜ばしいことはありません。リア様が戻ってこられることで、王女がほほえんでくれるのであれば、リア様も生還した甲斐があるでしょう」


黒騎士もまたひまわりを触る。


やや種が落ち、落日を示唆するようで悲しい気分になるが、この種が次代につながるのだ。


「ふふっ。そうだと良いんだけど」


フォウ王女は急に顔を上げ、高い日差しを見上げて、急に険しい顔つきになる。


「兄は、ドルディッヒ王はどうなったのでしょう・・・・・・」


その表情は決して安否を気遣うものではなく、何か悪いことを期待している邪なものだ。


「フォウ王女・・・・・・ そのようなお顔をするものではありませんよ。せっかくのかわいらしい顔が台無しです」


そういって、兜の中で微笑み、優しく諭す。


「ふふふ。すみません」


イタズラがバレた少女のような、屈託のない笑顔をみせて、先ほどまでの可憐な少女に戻る。


しばしの沈黙の後、黒騎士はやや思案の上で切り出す。


「私の推測ですが、おそらくは兵は全滅、リア様などの一部の伝令とアインハイツ将軍以外、生還したものは皆無でしょう。そこにはドルディッヒ王も含まれます」


黒騎士も視線を合わせず、日差しを見上げて呟く。


「そうですか・・・・・・」


フォウ王女も同様に視線を合わせず、日差しを見上げて呟く。


「あ、すみません。また悪い顔になってましたか? ふふふ」


自分で気付いたのか、努めて明るく振る舞う。


「あくまでも私の推測ですから、確定ではありませんよ」


黒騎士は表情については言及せずに補足する。


「いいえ。黒騎士宰相が仰るのであれば、それは推測ではなく真実なのでしょう。アインハイツ将軍は生還すると仰いましたが、アールッシュはどうなのでしょうか」


「アインハイツ将軍は戦場に達する前に部下とともに撤退したようです。ドルディッヒ王の命令かもしれませんが、詳細はわかりません。アールッシュはドルディッヒ王の側を離れることはないでしょうから、おそらくは無事ではないでしょう」


フォウ王女はドルディッヒ王の件ほどは興味がないのか、


「そうですか・・・・・・」


とだけ答えて、ややうつむき加減になっていたが、しばらくして不意に黒騎士に寄りかかる。


一瞬人目を気にしたが、王女の頬に涙が伝うのを見て、黙って腕を貸すのだった。





 しばらくして、落ち着いてきたのだろう。


「何も聞かないのですか?」


フォウ王女は姿勢を変えずに口にする。


「私で良ければ聞きますよ」


黒騎士もまた姿勢を変えずに口にする。


「優しいのか、意地悪なのか、わからない言い方ですね」


王女はクスッと笑いながら言うが、悪い気はしていないのだろう。


「多分、後者なのでしょう。意地悪なオジサンで良ければ、聞きましょう」


再度クスッと笑うと、先ほど見せた邪な表情をする。





「兄は、人として最低です。女性にだらしなく、国民を蔑ろにする。思慮が浅く、短気で短絡的。癇癪を起こすと、誰も諫める人もおりません。最初はアールッシュも友人として諫言していたようですが、立場上断れなかったのでしょう。次第に兄の横暴に協力することも出てまいりました。もちろんあまりにも酷いことには手を貸しませんでしたが」


(なるほど。王宮に匿われ、何も知らないお姫様というわけではないのか。偏見を持たなそうな王女がアールッシュを嫌う原因も納得のいくものだ)


黒騎士は心で思うものがあったが、黙って腕を貸し、ただ聞く。


「このままでは国は滅びます。国民の負担も大きくなる。父が侵攻で敗北してから、一生懸命に内政に従事し、国力も豊かになって、ようやく活気が出て来たところだったのに。戦争がいけないというわけではありません。領土あっての国ですから。でも、同時に人あっての国だと思うのです」


(この王女、この年にして国というものの本質を理解している! 生まれ持っての為政者だな)


黒騎士は今回の一連のプルミエ侵攻、ヴィータ国侵攻の発端となった話し合いを思い出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ