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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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黒騎士への報告

 一方、黒騎士は二度目の東の訓練に向かっていた。


プルミエ国待機より、順に東西南北の全方向の訓練を実施し、二巡目を実施していた最中である。


特に東の森で訓練をしたとしても何ら不自然はない。


急遽東の方面を選択したにはワケがあり、前日に、森を抜けてきたエルドス配下の近衛兵と会い、進行具合を聞いたためだ。


おそらく、森で野営をする最中で、最後のエルドスの伝令と会えるだろう、タイミング的にそう踏んだのだ。


前回同様に森に進軍し、ホルツホックに対し、一方的ではあるが、大声で挨拶をする。


返事はないが、少なくともこちらの意思は伝わったであろう。


改めて、ウィッセン国の重装騎兵へと指示を出す。


「今回の訓練は事前に言っていたように、森の中での野営経験を積むことにある。私が一番奥で野営をするので、諸君らは準じて前にキャンプを張ると良い。敵襲はないと思われるが、交代で立哨し、夜襲に備える訓練もして欲しい。日の出とともに出発できるよう、その少し前に撤収準備を始めよ。前回にもいったが、ゴミなどは残すなよ。これは敵に自軍の痕跡という情報を与えないことにも通ずる。しっかりと心得よ」


そういって、自ら森へと入っていく。


森に入ってわずか五十メートル地点でムササビ型の魔獣に遭遇するも、先頭を歩いていた黒騎士が杖でたたき落とす。


すかさず重装騎兵が槍で滅多刺しにし、宝石となる。


飛行型の魔獣は捕らえることが難しく、逃走も追撃が困難なため、討伐は至難なのだが、黒騎士が地面にたたき落としたことで運良く退治ができた。


槍が武器として機能したことからも、防御力はそれほどないことが窺え、宝石も小さい。


しかし、あっさりと魔獣を仕留めたことで歓声があがる。


「黒騎士宰相! 自分、飛行型の魔獣を初めて仕留めました!」


子供のような無邪気さで戦果を喜ぶ兵もおり、プライドの高いウィッセン国騎士がかわいく思え、微笑む黒騎士であった。


「一部の魔族を覗いて、魔獣といわれるものはだいたいが、原型となる動物がいる。未知の魔獣でも、どの動物と特性が似ているかを想像すると、意外と対応がしやすい。ムササビ型のモノは木から木へと飛び移ることが多いから、目的地を推測しやすいし、手足を広げるから、体制自体は実は固まっているから狙いやすいのだ」


実際は方向転換もするし、姿勢を変えて着地や攻撃行動もしてくる上に、いうほど捕らえられるスピードでもないのだが、大筋ではその通りである。


魔獣が出たことで緊張感が増したのか、訓練にも身が入る。


予定通り、森の中で野営をする。


紅い月が満月となり、あたりをうっすらと赤らめながら照らすも、森の木々に遮られ、届く光はわずか。


暗い森の中で、何の目印もないというのは伝令としても発見しにくいだろうと、かがり火を焚くことを命じ、天幕にて黒騎士は一人待機する。


今夜来ることはほぼ間違いない。


深夜二時を回った頃に、立哨していた兵の案内の元、伝令が三名到着する。





「黒騎士様。エルドス団長からの伝令、使者として参上しました。リアと申します」


そういって跪き、頭を垂れる。


残りの二名も同様の所作をして、目線は下げたまま待機する。


黒騎士はやや驚くが、リアと名乗る近衛兵に楽にするように言うと、伝令内容を促す。


「エルドス団長、アインハイツ将軍、アドランデ将軍、及び各将が率いる部隊はちょうど一日分の行程先におります。また、私が戦場から戻った最後の近衛兵であり、私以降は戻った者がいないことから、会戦は終結したものと推測されます」


黒騎士は予想通りの結末に安堵する。


決戦が翌日以降に持ち越される可能性も想定していたのだが、低いと踏んでいた。


ドルディッヒ王には毒死であるよりも、戦死であることの方が都合が良い。


何よりも、申し訳ないが兵には全滅してもらった方が好都合だった。


「で、ドルディッヒ王は?」


「おかげさまで、私の手で毒を飲ませることができました。一度目の毒も服用しましたので、生死については確実かと思います。これも一重に黒騎士様のお陰。感謝致します」


黒騎士は頷き、リアと名乗る近衛兵の肩に手をやる。


後ろに控える女性近衛兵も涙を流していることから、同様の思いなのだろう。


ドルディッヒ王の悪行非道が改めて窺い知れた。


「ご苦労だった。報告の日と行程から考えると、不眠不休の帰還であろう。しばし休んでから部隊に戻ると良い。持てる範囲で食事なども持たせよう。そして、今後の動きについて指示をするので、アドランデ将軍、エルドス近衛兵長に伝えて欲しい」


黒騎士は十分に労いの言葉をかけ、必要事項を伝えると、外にいる重装騎兵に色々と指示を出す。


休憩の後、伝令達が戻っていくのを見届けると、部隊の指揮官に指示を出す。


「予定通り、夜明け前に出発する。準備を怠るな」


自分の天幕に戻り、先の近衛兵の表情を思い出す。


事を成し遂げた達成感と、去来する虚無感が入り交じったような、何とも言えない表情だった。


彼女の人生はこれからが大事だ。


黒騎士は一人女性の名を呟く。


「リア・・・・・・か」

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