第一の毒
ちょうど、アドランデ将軍が見えなくなった頃、伝令がエルドス近衛兵長の元に辿り着く。
時間としては、会戦直前の朝一番に抜けてきた伝令だろう。
ひょっとすると、アドランデ将軍がいなくなったことを見届けてから近づいたのかも知れない。
「エルドス団長、開始を見届けてから出てまいりました」
そういって、跪くのだが、アインハイツ将軍をチラチラと見る。
「ああ、かまわない。報告を続けてくれ」
エルドスが報告を促す。
「相手は千五百の兵で布陣しました。軽装歩兵七百、軽装騎兵三百、弓隊が五百です」
が、実際にエルドスが欲する情報はそれではない。
「王は専用食を召し上がったか?」
エルドスの問いの意味をアインハイツは理解する。
暗殺、それも毒殺ということだろう。
食事をとったかどうかはそういう意味以外にはないだろう。
「はい。しっかりと召し上がりました。複数のものが確認しております」
明らかに勝ち誇ったような、意味深の笑顔を近衛兵は見せる。
「私が仕込んだので間違い有りません」
エルドスもまた微笑み、アインハイツもニヤける。
「ご苦労。夕方には効いてくるだろう」
伝令は下がり、アインハイツはエルドスに祝辞を述べる。
「これは作戦成就と考えて良いようだな。先におめでとうと言っておこう」
「ああ。ありがとう。念の為、もう一度仕掛けることになっている。たまに吐いたりしてしまうこともあるし、効果が絶対とは言えないのでな」
エルドスはまだ目的達成を確信していないのか、表情を緩めることなく答える。
「二重三重に仕掛けるとは慎重だな」
「私としては結果が全て。全て黒騎士様の指示に従っているだけさ」
エルドスは、自分の策ではないとばかりにいう。
「まぁ、毒殺なんぞしなくても、突撃して戦死なんだろうが、生き残る可能性はあるからな。良い判断だろう」
「ああ。やはり確実にやらんとな。偶然に依存するようではそもそも私も乗らんよ」
確かにその通りだ。
戦死を願うのならば、そもそもエルドスが黒騎士に乗る必要などない。
より確実性を求めてのことなのだ。
「それに、毒殺とはいえ、直接殺すのと感情的にはかわらん。殺したいものに殺させてやるというのも目的の一つだ」
「そうか・・・・・・ では、先ほどの女性近衛兵も殺したいほどの・・・・・・ いや、野暮な詮索はすまい」
エルドスは余計なことを言ったという渋い顔になったが、アインハイツの意外な配慮に感謝する。
「色々と事情もある。察してくれると助かる」
「わかった。 この件は一生口外しないと約束しよう」
アインハイツとてドルディッヒ王を見たきた男である。
女性が蔑ろにされ、弱者が虐げられ、国民が軽んじられるのを何度も目の当たりにした。
確かに個人的な野心であるのは間違いないが、立派な王であれば、とって変わろうなどとは思わなかったかも知れない。
それだけドルディッヒ王を憎むものは多い。




