アドランデ将軍の格
思ったよりも時間がかかったが、無事にアドランデ将軍の部隊に追いつく。
事前に伝令として合流済みの近衛兵を手配に加え、エルドスは今度はプルミエ国に伝令を向かわせる。
「森の出口付近まで行き、黒騎士殿がいるようなら伝令を。いないならば帰ってきてくれ」
そういって、三人組を作り、一日に二回向かわせる。
後ろと行き来していた伝令を前方に切り替えた形だ。
戦争の開始と、最終伝令がいつかは不明だが、当日のうちに戦争が終結するようならば、あと二回後ろから伝令が来るはずだ。
アドランデ将軍と合流し、エルドス近衛兵長、アインハイツ将軍がそれぞれ握手を交わす。
「待ちわびたぞ。黒騎士宰相に騙されたのかと不安になっておったところだ。はっはっはっはっは!」
豪快に笑うと、我が策なれりとばかりに邪悪な笑みを浮かべる。
「我らが知っている作戦行動はここまで。あとはアドランデ将軍に付き従うようにと聞いています。ご指示を」
エルドス近衛兵長は敬礼をし、指示を仰ぐ。
アインハイツ将軍もそれに従う。
「うむ。詳細は述べることができぬ。ご容赦願いたい。とりあえず、プルミエ国に不眠不休で戻るということだけ伝えさせていただく」
アドランデ将軍は多くを語ることができないことを詫び、とっとと先頭に立ち、戻ろうとする。
「あと、スマンが、兵糧はないので、各自手持ちで対応を願う」
と言って引き返そうとするところを、アインハイツ将軍が止める。
「お待ちを!兵糧がないとはどういうことですかな? 最後尾の貴殿のところでシーハーフから預かった全軍の輜重隊がいたはず・・・・・・」
アドランデ将軍は再び豪快に笑い、
「戦場に行くわけではない。どうせ引き返す上に、勝つつもりもないのだ。貴重な物資を持ち込むわけなかろう。今はプルミエ国の野営地に運び込まれておるわ」
アインハイツは全てが手のひらの上だと知り、絶句する。
「まぁ、物資があったところで、あの若造では戦に勝つことはできん。それは我々が戦場に辿り着いたところで厳しいわ」
エルドスはプライドの高いアドランデ将軍からその言葉が出たことに意外だった。
「我らが到着しても負けだと?」
アドランデは不敵に笑い、
「無論、私が指揮をとれば善戦はできよう。だが、あの王の采配では無理よ。指揮、地の利と情報戦はそれほど重要だということ」
そういって、上を仰ぎ見る。
「たぶん、この間もホルツホックの森に見られているわ!声は聞こえずとも、姿は視認されていよう。森に入ったときから一刻たりともこの気配が消えぬ。これでは全て筒抜けよ。迎撃や罠もまだ全力ではなかろう。戦場に着くまでにもう負けが確定しとるわ」
つられて二人も上を見るが、正直気配すら感じない。
当然、攻撃を受けるとき以外は今までも気付かなかった。
戦場に身を置くことのないエルドス近衛兵長はともかく、アインハイツ将軍も同様である。
改めてアドランデ将軍との格の違いを感じざるを得ない。
実際、ホルツホック国はこの現場をしっかりと見ている。
そして、アドランデ将軍のいうように、声までは聞こえてないのだ。
「私に言わせれば、フラハー国など、同条件で正面からぶつかれば勝てない相手ではない。本当に恐ろしいのはこの森よ。ホルツホックを何とかせねば、フラハーは落ちん。今、この時、この場所で、私たちは敵と戦っていることを認識できぬものに勝利は掴めぬわ」
そういって、踵を返し、森の出口へ向かう。
「今、私は戦場に立って敵と対峙しているのか・・・・・・」
エルドスは呟き、自分の認識を正す。
アインハイツは握りこぶしを作り、歯を食いしばる。
己自身の未熟さや、アドランデ将軍との差、様々なものに対する悔しさがこみ上げる。




