エルドスの目的と代償
部隊の先頭に立ち、エルドス近衛兵長とアインハイツ将軍は後続に向かう。
しばらくすると、近衛兵二名が、今となっては前方のアドランデ将軍の方から来る。
「エルドス団長、アドランデ将軍からの伝令です。重装歩兵の方が軽装歩兵よりも遅い。したがって、先行し、先に行く。後を追いかけてきてくれとのことです」
「わかった。半日で追いつけるはずだ。少し休憩を取った後、悪いがもう一度戻って、了解の意を伝えてくれ」
エルドス近衛兵長は、伝令として戦場から抜けてくる近衛兵を数名ずつ配下に加えていく。
アインハイツ将軍は未だ状況がつかめずにいるが、エルドス近衛兵長にどこまで聞いて良いのかわからずに、沈黙を守る。
「アインハイツ将軍、貴殿はそんな無口な方だったか?」
エルドスはからかうようにアインハイツ将軍に問う。
目線は前方を捉えており、目を合わせようとはしない。
「・・・・・・では、聞こう。いつから黒騎士宰相と通じておる」
エルドスは、やはり目を合わせずに答える。
「つい最近だ。たまたまひまわりの庭園で鑑賞にお付き合いした際に、暗殺を手伝って欲しいと言われたのだ」
「まさか、請け負ったのか!!」
アインハイツ将軍はあまりの驚きに声が大きくなる。
エルドスは口元にそっと人差し指を添え、静かにするように促す。
依然として、目線は正面を見据えたままだ。
アインハイツも正面を向く。
「最初に共謀に乗った貴殿に言われたくはないな」
アインハイツは言い返せず、黙る。
「どこまで知っている?」
「それは言えないな。ただ、貴殿にとって私は敵対するものではないということだけは確かだ」
そういって、やや微笑む。
「といっても、信用しないだろう。言える範囲で全て話そう。アドランデ将軍と合流する前にそうするつもりだったしな」
エルドスは静かに語り出す。
「私の目的は暗殺だ。今まで配下の女性近衛兵が王に遊ばれているのを聞いていたが、どんどんひどくなる一方だ。これが続くようではプルミエ国の将来はない。これ以上大切な部下にひどい思いをさせるわけにもいかん。そう思っていたところに黒騎士様と出会ったのだ。今思えば、そのドス黒い私の思いを見透かされたのやもしれぬ。毒殺の方法を提案していただき、舞台も整えた。おそらくは、今頃決行されているだろう。そして、ここからは私が黒騎士様に恩を返す番だ。アインハイツ将軍に伝令をし、アドランデ将軍とともにプルミエ国に引き返させる。私が知っているのはここまでだ。アドランデ将軍と合流後のことは聞いていない」
話は終わりだとばかりに、エルドスは沈黙する。
アインハイツ将軍の中で色々と考えが巡り、整理整頓されていく。
先ほどの黒騎士宰相の使者であることの確認の際も聞いたが、今思うと、プルミエ国内での侵攻準備期間はアインハイツ将軍にとってできることが少ない期間であった。
アールッシュの疑惑の目が向くようになってからは実にもどかしい日々を過ごした。
その時に、代わりに暗躍してくれたのがエルドスだったというわけだ。
思い返せば思い返すほど、思いたるところがたくさん出てくる。
(なるほど、王の暗殺が目的で、見返りは侵攻準備と伝令というわけか。私のことをどこまで知っているかが気になるが、今はおいておくとしよう)




