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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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アインハイツ将軍、伝令にて転進する

 エーザス副官が夜襲を受け、帰還を余儀なくされた頃、エイドス近衛兵長による直々の伝令がドルディッヒ王、アールハイツ近衛兵長に伝わる。


カンナグァ連邦の別働隊が最後尾のウィッセン国重装歩兵部隊を強襲、アインハイツ将軍が軍を反転させて援軍として向かったという伝令である。


夜襲を受け、壊滅的な打撃を受けた後だけに、襲撃を受けたという事実の信憑性は高く、動揺が走る。


しかし、名将と謳われるアドランデ将軍が予め読み切っており、迎撃しているとの内容に安堵する。


これまで、ドルディッヒ王の名で、何度も行軍を早めるように指示したにもかかわらず、一向に早くならないどころか、前の部隊との距離は開く一方だった不自然さに納得し、「さすがはウィッセン国の名将」と称賛を浴びる。


勝機とばかりに、平野と急ぐのだが、一向にアインハイツ将軍とアドランデ将軍は戻らず、戦争は終焉を迎えたのだ。





 待機を命じられたアインハイツ将軍は苛立ちを募らせながら、待つ。


何回目かの近衛兵団の伝令が目の前を通り過ぎ、再び伝令がアインハイツ将軍の前に跪く。


日に二回、毎日欠かさず、三人の伝令が来て、最後尾のアドランデ将軍にまで伝えると、そのまま戻ってこない。


おそらくはプルミエ国に帰還したのだろうが、そのような伝令の指示をアインハイツ将軍は出していない。


「日々の状況を逐一、本国に連絡しろ」とドルディッヒ王の命令だそうで、エーザス隊が目的地に着く前日あたりから実施されている。


「十分後くらいに、エルドス団長がおいでになります。出発の準備を整えてお待ちくださいとのことです」


そういって、女性の近衛兵はアインハイツ将軍に伝えると、近くで待機する。





 実際に十分後にエルドス近衛兵長はアインハイツ将軍の元に現れる。


「おい、いつまで私の部隊は待機なのだ。ただでさえ、後続が遅く、行軍が遅れているのだ。前のヴィータ国は一日前を進んでおる。これでは戦場に辿り着く頃には、戦が終わってしまうではないか!」


苛立ちを隠さずに、怒鳴りつけるが、エルドスは努めて冷静に答える。


「アインハイツ将軍は本気で戦場に行くつもりか?」


アインハイツは一瞬わけがわからず、逆にその一言でやや冷静になる。


「・・・・・・どういうことだ」


エルドス近衛兵長はフッと鼻で嗤い、直接的な答えを避ける。


「私とともに、アドランデ将軍と合流、プルミエ国に戻るぞ」


そういって、アドランデ将軍がいる後続の方に向かって歩き出す。


先に到着した近衛兵も追従する。





「待て! どういうことだ。 ドルディッヒ王の命令か?」


アインハイツ将軍は真顔で聞き返すが、エルドス近衛兵長は何がおかしいのか大声で笑う。


「何が可笑しい」


こちらまで聞こえそうな歯ぎしりをし、剣に手をかける音まで聞こえそうだ。


「いや、失礼。まだわからんのかと思ってな」


「・・・・・・なんのことだ」


エルドス近衛兵長は振り返り、アインハイツ将軍と肩を並べると、そっと耳に呟く。


「私が黒騎士様からの使者だ」


アインハイツ将軍は目を見開いて絶句する。


両者に沈黙が流れる。


「何か証拠はあるのか?」


アインハイツ将軍は未だ信じられず、エルドス近衛兵長に質問を投げかける。


「くだらんな。でも、まぁいい。そういった用心深さも黒騎士様は買っておいでなのだろう」


失笑したエルドス近衛兵長は、ため息の後にまくし立てる。


「そもそも、私が侵攻に加わることになったのは、誰が言い出したことだ?まさか偶然私がこの場にいるとでも?」


言われてみると、エルドス近衛兵長が自ら侵攻に加わると言いだし、ここにいる。


それがなければ、近衛兵団が侵攻に加わることは決してないだろう。


王宮には王以外の王族がおり、特にフォウ王女専属とも言えるエルドス近衛兵長が離れることが本来ならば不自然なのだ。


「この隊列を提案したのは誰だ?」


確かに、王の近くに配置したかったのだが、アールッシュに不信感を持たれていたため、折衷案で最終的にまとめたのはエルドス近衛兵長だ。


「むぅ。しかし、それが黒騎士殿とのつながりの証明にはなりませぬな」


アインハイツ将軍は食い下がる。


「貴殿もよほどだな。私としてはいつぞやアールッシュが庭師に紛れ込んでいたところを助けてやったことで気付いたと思っていたが。まさかそれも気付いていなかったのか・・・・・・」


エルドス兵長は本当に呆れたのか、大きくため息をついて、やれやれとポーズをとる。


(まさか、確かにあのとき、王宮の庭にエルドス近衛兵長がいた。深く礼をしたのはただの挨拶ではなく、合図だったのか。いずれにせよ、アールッシュがあのときにいたことは確かだ)


アインハイツ将軍は反論の余地がないが、決定的に信じることができず、硬直する。


見かねたエルドス近衛兵長は、無視して後続へと足を進める。


「勝手にするが良い。黒騎士様は「優柔不断は機を逸する」と言ってたが、まさにその通りだな」


吐き捨てるように言い、数歩先に進むが、思い出したように足を止める。


「そうだ。伝言を忘れていた。「ひまわりの庭園をまた案内してくれ」とのことだ」


そういうと、今度は本当に足を止めることなく、後続へと歩く。


(その言葉は、黒騎士宰相と最後に交わした言葉、ヤツがなぜそれを・・・・・・)


アインハイツ将軍は黒騎士との最後の言葉を思い出し、意を決してエルドス近衛兵長の後を追う。

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