対策、ならず
「あ、どっかで見たことのあるオバサンだと思ったら、士官学校で「ちゅー」してた不倫せんせーだぁ♪ センセー久しぶりっ!」
「おっ。ホントだ。確か魔法が使えねぇけど、魔法教えてる教授だっけ?」
入り口に戻る直前に、大きい声が聞こえてくる。
「ど、どうしましょうか? アスさん。NGワードが全て入った台詞が聞こえましたが・・・・・・」
フラハー王は足を止めて、アス老人を見る。
「大問題を起こす少女と、それを最大限巻き散らかす少女の組み合わせ。まさに火と風ですね」
のぞみは苦笑いする。
「上手いこと言うなぁ。眼鏡の嬢ちゃん。じゃが、吐いた台詞はもう戻せん。諦めて向かうとしよう」
アス老人は渦中に飛び込む。
「あんた、よく私の前に顔出せたわね。あんたのせいで私がどれほど苦労したか!」
建物に響き渡るくらいの大声でヒステリックな金切り声を上げるマータ。
「ええ~っ。わたし、ホントのこと言っただけなのに怒られたんだよ、あの後。わたしの方が被害者じゃん!」
琴葉はぷくぅとほっぺたを膨らまして言い返す。
朝美は笑っているが、
「ははは。でも、元はといえば、教授が不倫してたのがいけないんだろ? 学内で「ちゅー」してりゃあ、そりゃあ苦労もするわなぁ」
とさらに火を仰ぐ真似をする。
「なんなの! その態度! それに私が教授になれなくて准教授止まりだったことに対するイヤミ? まぁ、おかげさまで講師まで降格されたけど!」
朝美は悪気が全くないのだが、役職の間違いはだめである。
「あ、わりぃ。そりゃあ、あたしが悪かったわ。でもまぁ、先生ってだけですげえんだから、肩書きなんか気にすんなって」
全く悪びれた様子もないところが相手をさらに怒らせる。
「私が魔法使えないのに、先生になれたのがスゴいっていうこと? なんなの! 嫌みったらしい。 かわいくない子達ね!」
ねーっといって、同調をアッサーラとテイザンに求めるが、アッサーラはにこやかに同調するのに対し、テイザンは適当だ。
「わたし、あの後反省文書かされたんだよ! むしろ、それを謝るのが先じゃないかなぁ?」
琴葉は蒸し返すように怒っているが、反省文を代わりに書いて提出したのはのぞみであり、琴葉は自分の名前すら一文字も書いていない。
結局、フラハー王が登場し、場が一度静まったところで、フラハー王が仕切り直す。
「とりあえず、落ち着きましょう。琴葉さん達も一度冷静になって、今後のスケジュール通りにお願いします。アッサーラ隊の皆様も道中お疲れでしょう。お部屋を用意しますので、まずはそちらでお寛ぎください。アスさんとのぞみさんだけは残っておいていただけると助かります」
マータも五十歳に達する大人であるし、士官学校の講師を務めるものである。
特に、今回はエムエール国からの使者としての立場もあり、一度深呼吸して落ち着かせ、対応を改める。
「失礼しました。お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません。とりあえず、そのように従いたいと思いますので、お手配をお願い致します」
といって、礼をするのだった。
アッサーラが、口には出さないものの、ウインクして、両手をあわせ、謝罪の意を示す。
テイザンは相変わらず不機嫌そうにぶっきらぼうな態度だ。




