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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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エムエール本国よりの使者マータ

 砦に戻ったタイミングと同じくして、エムエール国より使者が来る。


エイザム士官学校魔法科教員であるマータである。


戦闘員二名アッサーラとテイザン、非戦闘員二名の五名編成ではあるが、非戦闘員は荷馬車を操り、荷物係のため、編成要員にカウントして良いのか微妙ではある。


マータは琴葉が魔法の才能があり余るほど有るにもかかわらず、強制転科で衛生科になった原因を作った女性教官である。


半分は琴葉に原因があるのだが・・・・・・





 マータは魔法科教員である。


魔法発生学という、魔法がどうやって発生するかという学問を教えている教員なのだが、年齢は五十に達するも未だ講師である。


教授になれない理由があり、そのうちの一つは「魔法が使えない」ことだ。


魔法科の教員にもかかわらず、魔法科の教員をしているため、学生からの侮蔑は激しい。


が、コネと女性であるという理由で教員となった経緯がある。


おりしも、教員に対する女性の割合を増やそうという風潮が学内に出た際に、誰かの推薦で入ってきたのだった。


当然使えるものと思い込み、契約した後、魔法が使えないことが発覚。


しかし、魔法が使えないことを理由に解雇すると、今度は魔法使いと一般人の差別問題が浮上するのではと恐れた学校側は雇用し続け、二十年が経ってしまったということだ。


琴葉は偏見はないため、魔法が使えなくても、その点は問題なかった。


問題は琴葉の性格と問題行動、そして、マータ自身が抱える問題であった。


最初は色んなイタズラや勝手気ままな言動に回りは辟易していたが、マータはむしろかわいがっていたのだ。


他の学生と異なり、魔法が使えないことを見下すこともなく、見た目もちっちゃくてかわいらしい美少女である。


ちょっと空気は読めないが、純粋で良い子に映ったのだ。


大筋は正しいのだが、「ちょっと」ではなかった。


ここからはマータに原因があるといえばあるのだが、マータは新任の助教授と不倫関係にあった。


相手の助教授には妻がおり、子供もいたのだが、マータの方が積極的に思いを寄せ、猛烈にアプローチをしたのだ。


講師だった男を学校の理事会で准教授にあげるようにプッシュし、持ち上げるように昇進させたというウワサもあがり、これはさすがに間違いであるのだが、風評はそのように事実として受け止められていく。


知っている人は知っているという、ある意味で周知の事実ではあるが、口に出すのと心に秘めることは異なる。


「あぁ~。マータ先生、学内で若い先生とちゅーしてるぅ」


現場を見られた、というか、そもそもそういった事実もダメだし、学内で不貞行為に及ぶマータも悪いのだが、最も見られてはいけない人間に見られてしまう。


と騒いだかと思うと、数時間後には数十人の生徒に広まっていた。


当然、相手の情報も併せて広まり、学校全体の問題になっていく。


相手の男の教員は辞職することとなり、離婚になったらしく、訴訟とウワサされていた。


マータは学内留まるも、せっかくなれた准教授からは降格、降給となり、講師となった。


自宅謹慎処分が解ける頃には、ただでさえ侮蔑の眼差しだった学生に目はより一層冷ややかになり、後ろ指を指され、陰口を言われる生活を余儀なくされたのだ。


幸いなことに、元から興味の対象ではない上に、学生の興味は移りやすく、三年で学生の九割は入れ替わる。


最近になって、ようやく教員生活に落ち着きを取り戻したのだった。


なお、アス老人が非常勤講師として勤務していた頃に面識がある。


ちょうど琴葉が入ってくる年にはアス老人は退職していので、事件は知らないことになっているのだが、アス老人もウワサは聞いて知っている。


テラガルドとも顔なじみであるが、マータは「ただの用務員」として、見下しており、あまり覚えていない。


琴葉も怒られ、マータの授業が必須科目であったこともあり、単位認定問題が勃発。


絶対に単位認定しないと譲らないマータに対し、アカデミック・ハラスメント委員会が設立され、以後は禁止となったが、制定前のことに対して効力はなく、結果として、転科を促すことになる。


特例として衛生科に転学科となったのだが、結果として良かったと全員が思っている。


なにより、琴葉自身も元は衛生科に進みたく、最初に魔法科にいっただけのことだったからだ。


たまたま二個上の先輩でクロノというものがおり、同様に魔法科から衛生科に特別転科したものがいたため、異例と言っても前例がある分対応が楽だったというのがある。


つまり、マータという女性教官にとって、琴葉は親の敵以上の相手なのだ。

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