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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
137/205

部隊の狙いはわからない

「侵略戦争をしている最中に、侵略訓練って舐めてねぇか?」


朝美は本質を突く。


「でも、ちゃんと挨拶して、掃除して、宝石までくれるんだよ? わたしの部屋にも現れて欲しいもんだよ」


と、いう琴葉は朝美の膝を枕にして、下からのぞき込むように言い放つ。


「確かに、掃除したうえで、宝石おいてってくれるんだったら、あたしの部屋も頼みたいなぁ・・・・・・」


と納得しかけている朝美もおバカである。


「ま、まぁそれはともかく、ウィッセン国っていうのはどういうことなんでしょうかね?」


のぞみは朝美と琴葉を差し置いて、アス老人に問いかける。


「単純に考えて、兵が出払ったプルミエ国の警護で派遣されてきたんじゃろう。周辺警護の名目を果たすのと、デモンストレーションでやってるにすぎん。まぁ、これ幸いに森での訓練をしておるんじゃろうがな」


のぞみは納得した様子で、次の質問をする。


「全身黒い鎧の騎士っていうのは何なんでしょうか? 振る舞いは騎士道精神のある人のようですが」


アス老人は少しだけ考え、


「わからん。聞いたこともないわい。まぁ、ちょいと情報が少なすぎて何とも言えんのう」


そうですよね、とだけいって、のぞみもそれ以上の考えを止める。


「結局、両国の将軍はなんで侵攻中に撤退していったのでしょうか? ホルツホックの報告では近衛兵の伝令後に急に転進していったとのことでしたが・・・・・・」


テラガルドは疑問を口にする。


この侵攻において、最大の疑問である。


「そこだよなぁ。別動部隊ってわけでもなく、退路確保のための部隊でもなかったんだろ?」


朝美は膝枕で寝入ってしまった琴葉の頭を撫でながら、テラガルドをみる。


「予備隊というわけでないようでしたので。何か緊急事態が発生したのでしょうか」


「ボクは、たぶん、緊急事態は発生したんだと思う。もちろん、内容はわからないけど。片方だけじゃなく、両方ともが撤退しないといけないような何かが。ただ、伝令係のあとに撤退ということは、ドルディッヒ王の指示の可能性が高いから、すごく些細な内容の可能性もあるよね。ちょっとご機嫌を損ねた、みたいな」


のぞみもやはり疑問だったのだろう。


「うむ。考えることを放棄するわけではないが、想像の域を出ないのぅ。眼鏡の嬢ちゃんが言うように、下らん理由の可能性の方が大きいかもしれんの。どちらかというと、当初の目的と今後が気になるわい」


「出発時点では主力部隊として期待されていた可能性が高いと思うのですが。この二つの部隊の行軍が遅れていたことからすると、どうなんでしょうか・・・・・・」


テラガルドは、まずは当初の目的について考える。


「そうだね。ボクは、主戦力の可能性、伏兵や予備隊の可能性、別働隊の可能性を疑うけど、あまり退路確保要員としては考えにくいなぁ。たまたま後続ではあったけど」


のぞみは人差し指で眼鏡を擦り上げながら私見を述べる。


「でもさぁ。最初に琴葉が後ろから美味しいとこもってっちゃうとかなんとか言ってたけど、他国の戦力を一番後ろに置くのって、微妙だよなぁ。退路を任せるのも、予備隊を任せるのも色々さ」


朝美は侵攻時に琴葉が言っていたことを思い出す。


「これも、考えてもわからんと言ってしまえばそれまでじゃ。確かに主力級の戦力。別動部隊としては最適じゃろう。が、予備隊や退路確保要員としては確かに他国の兵を使うのも疑問に思うのはわかる。じゃが、もし、各国間の思惑で、実は戦に加わりたくないとしたらどうじゃ」


アス老人は一つの可能性を提示する。


「なるほど。でも、その可能性は大いにありますね。実際にヴィータ国の弓兵は練度が低いようでしたので、国としてやる気のなさを感じます。ウィッセン国もやる気がないのであれば、形だけの派兵をし、実際の戦争には参加しないけど、万が一の時の予備隊や退路確保要員としてという限定をつけた可能性がありそうです」


のぞみもアス老人に同意する。


「でも、ウィッセン国はそれでいいとして、アインハイツ将軍まで退却してったんだぜ? そっちはどうなんだ?」


朝美はネコを撫でるように、琴葉の頭を撫でながら、疑問を口にする。


「わからん。いかんせん、カンナグァ連邦の悪いところじゃが、森よりも西側の情報が全くないのが欠点じゃ」


そういって、アス老人はお手上げの姿勢を取る。


「ははは。確かにアスさんの仰るとおりですね。カンナグァ連邦には、元オージュス連合国の人が稀におりますし、士官学校はそれなりに門戸が開かれていますが、逆はないですからね」


テラガルドは微笑んでいる。

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