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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
133/205

予想よりも遠い、北への行程

 一夜明け、まだ日が昇るかどうかというころ、黒騎士は王宮に戻り、再度出発の準備をする。


本日は北への訓練に同行する予定だ。


侵攻からおよそ一週間から十日、最大で二週間くらいがプルミエ国での待機期間となる予定だが、その中で最も重要な仕事の一つが北への訓練である。


城下町の住民達に、夜半過ぎの帰舎を丁重に詫び、朝の報告を聞く。


「ヴィータ国への訓練実施通達は済んでますか?」


黒騎士は最も確認すべきことを指揮官に尋ねる。


「はっ。ただ、ギリギリになってしまったため、本日の朝、ちょうど今くらいに通達がいっていると思います。早ければ昨夜に伝令が到着しているやも知れませんが」


指揮官は通達がギリギリになったことを詫びるが、実はそれは計算のうちである。


前日の夜、あるいは当日の朝に通達が行くように調整したのは、他でもない黒騎士であり、他の国に対しては黒騎士が自身の署名で通達したのに対し、ヴィータ国に対してはウィッセン国の名前で通達をさせた。


「いや、切迫しようと訓練前に連絡が行ったのであれば問題ない。したかしてないかだけが大事なのでね」


黒騎士はそれだけいうと、本日の訓練の概要を説明する。


「本日は北のヴィータ国方面へと向かう。できるだけ湿原近くまで行って実施したい。したがって、軽装にて騎馬で先行し、別同で荷馬車にて装備を運搬する。装備が到着次第、重装騎兵としての訓練を実施する。到着するまでは軽装騎兵としての訓練だ。つまり、前半は軽装騎兵、後半は重装騎兵として行なう。馬の疲労具合によっては、前半は馬を下りての歩兵訓練を実施することに切り替える可能性もある。これは到着した時点で再度決定する」


「承知致しました。すぐに用意します」


指揮官は敬礼し、退席しようとするが、黒騎士は追加で言葉を足す。


「日帰りを予定しているが、現地を出発するのは日没直前を予定している。当然到着は夜遅くなる。兵舎に戻るのは住民の不安を煽ることにもなるので、野営地に戻ることにする。他の部隊、兵舎など関係各所に連絡をしておいてくれ」


「はっ。すぐに連絡をいたします」


黒騎士と指揮官はほぼ同時に退席し、各々が準備に入る。


黒騎士は厩舎に立ち寄り、担当者に馬の用意を伝える。


「申し訳ないが、私用の馬を三、四頭お願いできますか? 鎧兜を着けたままなので、馬に対する負担は大きい。できれば乗り継ぐ形で馬の負担を減らしつつ、移動速度は落としたくない」


黒騎士としてのこの訓練の本当の目的はいくつかある。


ひとつ、国境付近で訓練したという実績をつくること


ふたつ、連絡がギリギリになること


みっつ、日没限界まで訓練すること


以上である。


本当は野営して一泊してから帰りたかったのだが、今回は見送る予定だった。


午前中に何とか出発することができたため、できる限り早駆けし、可能な限り、北上する。


黒騎士は一時間ごとに馬を乗り換え、ひたすら北上する。


五時間ほど北上し、ようやく湿地帯に到達した。


思ったよりも時間がかかってしまったことで、訓練の予定を大幅に変更する。


全員が騎馬より下馬、隊列を組んでの歩兵訓練を開始する。


一部の兵は野営用のテントを設営するが、これは設営訓練であり、本当に野営する気はない。


黒騎士は指揮官にしばらく歩兵訓練を実施するように指示すると、近隣の農家に挨拶回りにいく。


「連絡が上手くいかなかったようで、訓練の予定が伝わっていなかったようです。突然で、驚かれたことでしょう。ご不安な思いをさせてしまって申し訳ない。日没と同時に引き上げますので、ご心配なく」


そういって、一軒一軒丁寧に回っていく。


黒騎士の外見に驚き、恐怖するものも多かったが、肩書きとは異なり平身低頭な態度にすぐに警戒心を解いていき、謝罪を受け入れていく。


前後して王城から訓練実施の連絡もあったようで、より誠意が伝わったようだ。


一通り挨拶が終わると、訓練地へと戻っていく。


「この近隣の農家にだけ挨拶はしてきました。馬の疲労はどうですか?」


黒騎士は指揮官に尋ねる。


「まぁ、何とか大丈夫ですかね。ただ、これ以上の速度や距離となると厳しいです」


何となく行きの状況から考えて、そんな気はしていたのだが、いざいざ人に言われるとやっぱりという気持ちで再度落胆してしまう。


(さてと。これはどうしたものかな。本来であれば半日かかるところを早駆けで来て、この時間だ)


黒騎士は距離と時間、移動手段を頭の中でめまぐるしく計算する。


「すまないが、訓練内容を大幅に変更する。今日は歩兵での訓練のみとし、馬を夕方まで休ませてくれ。あとから来る装備を乗せた荷馬車には、不要になったため戻るように指示をお願いする」


「承知しました。ところで、何が問題だったのでしょうか?」


指揮官は急な変更に自分たちの不備がなかったかどうかが不安になったのだろう。


「いや、こちらの計算違いだ。気にしないでくれ。むしろ、振り回してしまって申し訳ない。私としてはこの場に辿り着くことが訓練の一環だったんでな」


そういって、大幅な作戦の変更等について謝罪した。


今後のプランについて大きく見直し、対策の必要に迫られ、夕方には訓練地を後にした。


連日の深夜帰参となったが、今日は予め野営地入りをしたため、気遣いすることなく、その点は気楽だった。


訓練の内容や若干の日時は大きな変更となったものの、当初の黒騎士の目的は全て果たせたので、かろうじて及第点ではあろう。


ただ、黒騎士としてはやはり予想よりも行程が上手くいかなかったこともあり、野営地に戻ってから、朝方まで徹夜で計算を繰り返し、行程をどうやってつめるかを考えることになった。

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