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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第三部 ヴィータの滅亡と新たなる戦乱の兆し
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東の森での訓練

 翌日、黒騎士は予定していた訓練に向かう。


予想通り、全身が筋肉痛だが、それを表に出すわけにもいかない。


重装騎兵と合流すると、さっそく東の森へと向かう。


昨日、一昨日は西と南へ訓練に行ったのだが、黒騎士は帯同しなかった。


本日と明日は訓練に帯同する予定だ。


騎馬にのって、東へと向かう。


重装歩兵の活動時間が短時間であるように、重装騎兵の活動時間もまた短時間である。


これは、馬がすぐに疲労してしまうからだ。


馬にも重装備をさせ、重装歩兵を乗せる。


さらに、戦場では駆け巡ることになるので、長く続かないのは当然。


したがって、移動の際は、馬から下りるか、装備は別の馬車に乗せ移動し、自分たちは軽装で馬で移動するなどの対応をしている。


移動している姿だけ見ると、軽装騎兵と見間違うであろう。


が、今回は兵は訓練のため重装備で移動し、馬は軽装のまま引き連れていく。


森までは半日かからない行程のため、距離的にも良い運動だ。


森の入り口で簡易な野営を張り、午後から日没後しばらくまで滞在とする。


交代で森に入り、といっても百メートルほどで、振り返れば森の入り口が見える程度だが、何もせず帰って来るというものだ。


森の雰囲気を味わうのと、馬を森になれさせるというのが目的となる。





 たった百メートルでも森は森である。


蛇も出るし、蜘蛛もいる。


虫をいれば、動物だっているのだから、危険性は十分にある。


何よりも、予め大声で告知するが、ホルツホックの迎撃を受ける可能性はある。


本格的なホルツホック国の警戒地域はもっと森の奥まったところで、数十メートルにも及ぶ高い木々の森だが、この森の入り口の低木域も、カンナグァ連邦の認識では自国領域なのである。


ホルツホック国もその認識を持っているため、一歩森に入ると、オージュス連合の兵は攻撃をされる可能性がある。


ただ、ホルツホック国にとっても、この領域は安全域ではない。


普段は数十メートル、おそらくは三十から五十メートル近いのだろうか。


樹上で生活する彼らは、地上からの攻撃を受け付けることはなく、一方的に迎撃することが可能なのだが、この低木域ではそうはいかない。


地上に降りて採取、狩猟などを行なうため、プルミエ国の兵と出会ったらば、高確率で敗北を喫することになる。


実際に、第一次プルミエ侵攻の際は、この地域を哨戒し、ホルツホックの住民を拉致することで情報収集を行なった経緯もある。


そのため、お互いに警戒区域であるので、面倒だが侵入時に大声で通告をする。


「簡単な軍事訓練で森に立ち入る。百メートルほど入り、戻ってくるだけだ。攻撃の意志は一切ない。夜の八時には撤収する。不要な争いを避けるためにも、攻撃は控えていただきたい」


森に向かって、大声で一度叫び、侵入訓練を行なう。


多少なりとも不要な争いを避けるためのマナーだが、「侵入訓練」という時点で刺激は十分あるのが痛いところだ。


しかも、今は実際に侵攻中なので、説得力に欠けるが、しないよりはマシだろう。





 神経質な馬は、森の入り口ですでに興奮したり暴れたりするものもあった。


最終的に森には入れない馬も多かったが、慣れである。


兵もまた同様に、たった百メートル進むのにだいぶ時間を要していたが、二度目は馴れてきた。


多くの兵が、行きは時間をかけ、帰りはとっとと帰ってくるのだが、黒騎士はそこを重点的に注意する。


「良いか。こういった土地では、帰りの方が怖い。山も坂も同様だ。登りよりは下りの方が危険。森での往復は帰りにこそ危険があると認識しておけ。来た道が安全だというのは思い込みに過ぎん。視点が変われば、気付かなかった罠に気付く可能性もあれば、逆に引っかかる可能性もある。迎撃もまた然りだ。行きになかった場合は、見逃されたと考えよ。帰りもないと思い込み、早く帰りたいという気持ちの焦りと油断があるところをやられるぞ」


早く帰ってきたものに厳しく諭す。


夜の森の顔が変わることも経験させるため、日没後も訓練を実施する。


時間帯が変われば、虫や動物などの生態から、まったく異質の空間へと変貌する。


明かりも月明かりのみとなる。


数メートル先が闇の世界となることも多く、日中に一度通った道なのに、すでに既視感はない。


静寂もまた不安を煽り、その恐怖心を増長させる。


それを肌で実感してもらいたかったというのが夜の訓練の目的である。


途中、魔獣の出没が一件あったが、黒騎士が出て行き、撃退する。


「いいか。魔獣といえどもそれほど臆することはない。凶暴な野生動物の方が脅威となるケースも多々ある。そもそも人類の筋力、武器では適わないものも多いのだ。戦って倒すことよりも、逃げることを第一とせよ。それが無理な状況ならば、威嚇して撃退すれば良い。戦って勝とうとするな。千人の兵に囲まれたと思え。全員打ち倒そうと思うのか? 賢明な諸君なら一時撤退を検討するはずだ。己のチカラを過信するな。魔獣以前に、動物が本気になれば、例え犬ですら我らに勝ることを覚えておけ」


実際に、黒騎士はものを投げ威嚇し、一撃だけ攻撃を見舞うと、魔獣は退散していった。


昨日の訓練のウワサも相まって、黒騎士の訓練同行は確実にウィッセン国の兵達の尊敬を集めていく。


わかりやすく、論理的であり、何よりも実践的である。


プライドの高いウィッセン国の兵は、実際に自らが実践してみせる黒騎士に尊敬だけでなく、強い憧れをも抱くようになっていった。


「よし。本日はこれまでとする。皆、遅くまでご苦労であった。すみやかに撤収の準備をせよ。決してゴミなどを残して帰るなよ。ここはプルミエ国、ホルツホック国領内だ。人の領土に足を踏み入れ、足跡を残して帰るなど、騎士のすることではない。来る前以上に綺麗にして帰るのが当然だと心得よ。礼儀を忘れた騎士は、どれだけ強く、戦果を挙げようと野盗とと変わらん」


そういって、やはり自らゴミ拾いをし、最後に森に向かって大声で叫ぶ。


「長時間にわたって、訓練失礼した。貴国らの協力のお陰で無事に訓練を終えることができた。双方争いごともなく、死傷者を出さなかったことに感謝する。来週は一泊だけ野宿をする訓練を実施したいと考えている。予めご承知おき願いたい」


そういって、用意していた魔獣の宝石をお礼とばかりに森に放り投げる。


実際は蛇に噛まれたり、蜂に刺されたりとけが人は何人かでたのであるが、ホルツホックとの諍いはおきなかった。


さすがに、夜の九時近くに出発し、城の近くに戻ってきたのは深夜零時を回っていたため、野営をして朝に戻ろうとしたのだが、城門近くで兵が待っててくれており、検討した結果、兵舎に戻ることにしたのだった。


あまりプルミエ国住民を刺激したくなかったこともあり、辞退しようかとも思ったのであるが、食事なども用意され、皆が起きて待っていたため好意に甘えることにした。


黒騎士はさすがに王宮に戻るのも憚られたため、兵舎で一泊することにする。

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